上 下
66 / 217
アル

20 あなたはあなた

しおりを挟む
俯き、両手で顔を覆ってしまったスピカ嬢。


なぜ‥‥


「‥‥昔、父が先生を閉じ込めようとした時‥‥
それまで一度も父に逆らった事が無い大人しい母が先生を逃がしたの。
私、母が誇らしかった。
母の様に強く正しい女性になりたいと思った。
母を尊敬していたの。
だけど‥‥
だけど母も欲望に狂った変態だった‥‥」


顔を覆った手から涙がこぼれ落ちて来る。


「‥‥恐いの。
あの父と母の血を引いている私はやはり変態になってしまうかも‥‥
今は偉そうに二人を軽蔑しているけど、いつか私も‥‥ッ」


「スピカ嬢はスピカ嬢だよ!」


「!! ‥‥ア、アル君‥‥」


スピカ嬢が顔を上げて僕を見る。

大粒の涙がポロポロと零れるから‥‥


思わず手を伸ばし柔らかそうな頬を伝い落ちる涙を指に受ける。


「泣かないで。
泣く必要なんて無いんだから。
二人の子供である事はあなたの全てじゃない。
ほんの一部だよ。
スピカ嬢はスピカ嬢。
僕にとってスピカ嬢は、優しくて強くて清らかで‥‥
可愛い女性だよ。」


「あ‥‥アル君ッ‥‥可愛い女性‥‥はわわわ‥‥」



フフッ、くりくりした目が可愛いな。

良かった、涙も止まった様だ。


ん? 何か急激に部屋の温度が上がって来た?

もう夜明けが近いのかな?


名残惜しいけど、急がなきゃ‥‥か。


僕はベッドから立ち‥‥

痛タタタタ‥‥


‥‥何とかベッドから立ち上がり、スピカ嬢にお礼を言う。


「色々ありがとうございます。
あなたのお陰で逃げる勇気が湧きました。
明るくなる前に行きますね。
‥‥僕を逃がした事で、あなたに迷惑が掛からないといいのですが‥‥」


「‥‥ハッ! 
そ、そうなのね!?
もう、お別れなのね‥‥
あ、私の方は大丈夫よ。
上手く誤魔化すわ。
誤魔化せなくても、母は私に甘いから‥‥
‥‥お別れ‥‥なのね‥‥
きッ、気を付けてね!
絶対、逃げ伸びてね!」


「‥‥最後に一つ‥‥いいですか?」


僕の口は、無意識にそう言っていた‥‥
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

溺愛

papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。 ※やってないです。 ※オメガバースではないです。 【リクエストがあれば執筆します。】

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...