上 下
37 / 217
第一章

37 名前で呼んで

しおりを挟む
「‥‥アル‥‥」

ハッ!?
甘い、熱い声‥‥
更に後ろから抱きしめられていますっ!!


「わわわッ!
ち、違います、伯爵様、僕です!
もう、僕に戻ってますので!!」


「‥‥アルはアルだろう?
アルの中の別人格‥‥
というわけではないのか?」


「はい、いえ、何と言ったらいいか‥‥
別人格ではなく別人だと思って下さい!
自分の事をすごく自然に ”私 ”呼びするヒトと僕とは!
僕は16才になってから自分を ”私 ”呼びするようにしています。
でも、実はまだ慣れていないんです!
だから、ゼッタイ別人です!
だからその、僕には分かりません!
”私 ”が言っていた呪いの意味‥‥
そ、それに伯爵様をバカ呼ばわりした理由!
ベガの ”真の主 ”発言も!
キ、キ‥‥ディープキスしたのも!!
僕は知らない!
僕じゃないんですっ!!」

おかしな事を言っている自覚はあります。
でも、本当の事だから‥‥
伯爵様が無言で体を離します。
う‥‥ホッとすると同時にすごく寂しい…
ストッと伯爵様がベガから飛び降ります。
あ、僕も降‥‥あ。
伯爵様が手を差し出して下さっています。
断るのも失礼かとその手を握ると。


「えッ!? わわッ!? は、伯爵様‥‥」

グイと引き寄せられ、いつの間にか伯爵様に抱えられています。
抱き上げられたような形、です。


「‥‥ありがとうございます。
あの、降ろして下さ‥‥あッ」

伯爵様にギュッとされました。
ドキドキしていますっ!


「‥‥‥ふぅ。
‥‥本当に困った愛人だな‥‥」


「伯‥‥」


「シリウスだ。 名前で呼んでほしい。」


「‥‥え? ああ、いえ、それは出来ません。
名前をお呼びする権利があるのは奥様だけです。
愛人は ”旦那様 ”とお呼び致します。」


「それも慣習か?
”ドルチェ ”が決めたルールか?
君は ”ドルチェ ”では事務員だ。
プロキオン卿も君を愛人として紹介するのを拒否した。
つまり君は個人的に私と愛人契約を結ぶのだ。
私達のルールは私達で決めていこう。
他者が作ったルールに縛られる事は無い。
‥‥シリウスと呼んでほしい。
プロキオン卿の事は名前で呼んでいるだろう?」


「‥‥えッ?
デネブ様?
‥‥‥あ‥‥」

伯爵様がムッとした顔を‥‥
抱き上げられた様な状態のままの至近距離。
見下ろす位置にそんな破壊力Maxの‥‥
た、耐えられませんッ!

「はい‥‥下ろして下さい、シリウス様。」


「ん‥‥‥うん、分かった。
さ、気を付けて。」

そう言って優しく下ろして下さいました。
‥‥今少し、微笑ってましたよね?
優しい微笑‥‥
うぅ‥‥ドキドキが止まりませんっ‥‥


≪キュアッ!≫

突然ベガが驚いた様な声を上げます。
何事!?


「「 ハッ!! 」」

雲が月や星々を隠していたせいで、いつもより暗い夜空。

その雲が少しずつ晴れて‥‥
あぁッ!

雲の切れ間から徐々に姿を現し始めていた月。
とうとうすっかり雲が晴れて、明るい満月が完全に姿を現しました。

その満月を背に何かがこちらへ向かって飛んできます!


「シリウス様、あれはッ‥‥‥!」


そう言いながら僕にはもう分かっていました。

月光に縁取られた輪郭、それは‥‥‥
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

溺愛

papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。 ※やってないです。 ※オメガバースではないです。 【リクエストがあれば執筆します。】

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

処理中です...