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第一章

02 事務員アルの受難

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「嘘でしょ‥‥」

”ドルチェ ”の事務所の3階一番奥の事務室。
信じられないという表情を隠しもせず思わずそう呟いてしまった僕。


僕は、アル。
ただのアル。

輪廻を繰り返し長い旅を続ける魂からすれば、束の間の存在。


16才。
ここ、”ドルチェ ”で事務員をしています。

目の前には先日愛人契約が決まり今日から仕事という事でエリダヌス伯爵邸へ出向いた二人が立っています。


「いやいやホント。
伯爵様は僕達を見たとたん『解雇だ。帰れ』って。 
な? リゲル。」

そう投げやり気味に報告するのはここのツートップの一人、レグルス。
フワフワ金髪に青い瞳のカワイイ系美少年。


「うん‥‥ ごめんなさい、アル様。
アル様のご期待に沿えず申し訳ないです‥‥」

蚊の鳴くような声で謝って来るのはツートップのもう一人、リゲル。
エメラルドグリーンの髪にトパーズの瞳の妖精系美少年。


「いや、謝らなくていいよ。
君達が粗相するはずないと分かっているからね。」

穏やかにそう言えば、二人そろってホッと息をつきます。
平気なふうで事務所に顔を出した二人。
‥‥実は少なからず傷ついたんだろうな。

―― それにしても何故!?

ツートップの二人は、容姿が美しいだけじゃない。
礼儀作法から何から、全てにおいて完璧なのだ。
しかも、旦那様の気分を読むのにもけている。
きめる時はきめ、崩す時は崩せる、超優秀な二人。

姿絵詐称だってしていない。
むしろ姿絵よりも実物の方が魅力的だ。

この二人を見たとたん『解雇だ。帰れ』?
あり得ないだろう‥‥


「‥‥大変だったね。
二人は帰って、ゆっくり休んでくれ。
デネブ様に、契約を結んだエリダヌス伯爵夫人と話してもらうよ。
場合によっては伯爵本人ともね。
慰謝料も含めてちゃんと話をつけてもらうから安心して。
何か、言っておきたい事ある?」


「‥‥何でもいいですか?」

妖精系美少年リゲルがおずおずと聞いて来ます。


「ああ、何でもいいよ。
予め聞いておけば慰謝料交渉にも‥‥」


「ギュッとして下さい‥‥」


「‥‥ん?」

聞き間違え?


「僕、こんな事初めてで‥‥
少し傷つきました‥‥
なので、その‥‥アル様に‥‥」

そこまで言って真っ赤な顔で俯いてしまう妖精系。

‥‥うん。
謎なんだよな、この子‥‥
僕はエリダヌス伯爵に言ってやりたい事はないか聞いたつもりだったんだが‥‥


チラ。


同じく謎なレグルスを見るが黙って床を見ているだけ。
いつもならこーゆー時、絶対止めて来るのだが‥‥
それだけ二人とも傷ついたってことなのかな。

だけど ”ギュッ ”って‥‥どうすればいいんだ?


「え‥‥と‥‥こう? ぎゅっ」

よく分からないので取りあえず軽く抱きしめてみる。
リゲルは細いから強く抱きしめたら折れてしまいそうで怖い。


「!‥‥ふふっ、『ぎゅっ』って、口で言うとか‥‥
アル様可愛過ぎです‥‥」

くすぐったそうに笑うリゲル。
自然な動作で僕の背中に手を回して‥‥
”ギュッ ”としてきた!
そ、そうか。 これが ”ギュッ ”か‥‥


「‥‥うん、”ギュッ ”は高度過ぎて僕にはムリだな。
リゲル、ごめん。 ”ギュッ ”は他の人に頼んでくれ。」


「‥‥充分です。 充分、素敵です。
アル様の ”ギュッ ”‥‥
それに、他の人なんてイヤです。
アル様だから嬉しいんです‥‥」


―― 言いながらリゲルの手は僕の背中を怪しく撫でまわしながら腰へ‥‥
‥‥えッ!?


リゲルの手が僕の超プライベートな領域を侵そうとした瞬間 ―――

グイ――――――ッ!!

レグルスが後ろからリゲルの襟首を引っ張ったようで‥‥
リゲルは僕から引きはがされドア方向へぶん投げられ‥‥


「‥‥わわっ!? ちょっ‥‥
レグルス! 邪魔すんなよ! てめーよぉーー!!」


うわ。 久しぶりに見た。
豹変したリゲル。
いつもは線が細くたおやかなリゲルだが‥‥
魔力量が多い。
戦闘モードに入るとエメラルドグリーンの髪を逆立て目はカッと光って‥‥


‥‥言葉が通じる気がしない。



対するレグルスも然り。
普段は可愛く軽やかな美少年なのだが‥‥
やはり魔力量が多い。
戦闘モードの彼は謎の風が吹きすさぶ中、風に髪を遊ばせキリリと勇ましく相手を見据え、全身からは何やら崇高なオーラを放ち‥‥


‥‥どこの勇者様だ?





ああ‥‥困った。
何でこうなった?
二人の戦闘モードスイッチが謎過ぎるんだけど‥‥

こうなってしまうと僕にはどうする事も出来ないんだよね。

僕、魔力無しだから。
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