ポエムでバトル

ハートリオ

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01 ポエムでバトル

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やぶさかではなかった。

ショコラ公爵令嬢の愛を得る為に、ポエムで勝負をつけようというのだ。


ショコラ公爵令嬢は18才。

陽の光をそのまま集めた様な光り輝く金髪。

華やかで透明感もあるマゼンタの瞳。

美しく知的でありながら艶っぽさも併せ持つ社交界の新たな大輪の花。

去年、鮮烈に社交界デビューを果たし、男達のハートを鷲掴みにした。

男達は皆彼女に憧れ、恋し、愛を得たいと胸を焦がす事となったのだ。


だが、その後は小規模のお茶会に参加するぐらいで夜会に参加する事は無かった。

一目でもその姿を垣間見たい男達はヤキモキさせられて来たのだ。


さて、今夜の夜会は王家主催の規模の大きいもの。

国内の貴族、特に王都にいる伯爵以上の高位貴族は基本全員参加が求められるので、彼女も現れるのではと男たちはギラつく。

そんな期待に満ち満ちた会場に、彼女は現れた。

今夜がデビュー後初の夜会となる。

やっと夜会に現れた彼女に男達は興奮を隠せない。

互いに探り合い、牽制し合い、他の男に後れを取るものかと我先に彼女の周りに群がる。

彼女は兄をエスコート役に夜会会場に登場し、国王への挨拶を済ませたばかりだというのに、もう彼女に想いを寄せる男達にぐるりと囲まれてしまっている。

男達の数はザッと見て30名ほど。

だが、こんなのは氷山の一角である。

気後れする事無く彼女を囲む男達は、爵位、容姿、能力に自信のある自他共に認める『優良物件男子』。

彼女を恋い慕うものの自信の無い男達は遠巻きに彼女に熱い視線を送るのが精一杯だ。


そんな男たちから一歩リードし、彼女を囲み、自己紹介まで済ませた男達は一斉に彼女に手を差し出し、ダンスに誘う。

この手を取ってくれと熱く彼女を見つめる。

盛りのついた男達の熱に引き気味の彼女。

無表情とアルカイックスマイルの中間の表情を保ちつつ、目は完全に死んでいる。

それでも表情には僅かな綻びさえ無いのだから立派なものだ。

初めての夜会で男共にギラついた欲望を向けられてなお一分の乱れも無い完璧な淑女の表情は一体何があったら崩れるのだろうか。

きっと今後も彼女が淑女の仮面を外す事は無いだろうと予想される。


彼女は完璧な表情のまま誰かの手を取るわけでもなく微動だにしない。

表情からは一切読めないが、もしや固まってしまっているのだろうか?

そんな膠着状態を破るべく、エスコート役の彼女の兄が口を開き提案した。


「では、ポエムで対決してはどうか。
妹は一番好ましく思ったポエムを披露した男性とダンスを踊る。
どうだね?」


『どうだね?』って。


ポエム対決に賛成反対する以前にイラっとする。

彼女の兄は19才。

私より6才も年下だ。

年功序列を掲げるわけではないが、一般常識的に若輩者はもっと低姿勢に、謙虚な物言いを心がけるべきであると私は思う。

たとえ高位貴族であっても、いや、高位貴族であればあるほど、そういった粋な立ち居振舞いは求められるものだと思う。


――ん?

私がイラっとしている間に、『ポエムでバトル』が決定した様だ。


よかろう。

私は逃げも隠れもしない。

こんな風に言えば、いかにも私が日常的にポエムを作成し、その腕前は厳しい批評家ですら舌を巻くほどであると思われるかもしれないが、実はそうではない。

私はこの25年の人生の中で、ポエムを作成した事はただの一度もありはしない。

対して、ショコラ公爵令嬢の愛を得ようと目論む輩の中には、ポエム全般に深い造詣のある、ワッフル侯爵令息がいるのである。

ポエムと言えばワッフル侯爵令息、ワッフル侯爵令息と言えばポエムと言っていい程に。


普通に考えて、私に勝ち目など無い。

では、何故私はこの無謀ともいえる提案に異議を申し立てる事無く、ポエムバトルに参戦しようとしているのか。

理由はただ一つ、

自信だ。

自信があるのだ。

勿論、『根拠のない自信』だ。

私は文学的才能に恵まれているなどとは思っていないし、そのような称賛を受けた事も無い。

だが、‥‥‥‥‥‥

こんな事を言えば、頭がおかしい奴と思われてしまうだろうが…

実は私には、『転生者疑惑』があるのだ。

これも他人から指摘されたわけでも、疑われたわけでもない。

『もしかして、そうかな?』と自分で思っているだけである。

だが、これには根拠がある。

根拠と言っても、『転生前の記憶』があるという決定的なものではない。

そう、残念な事に『転生前の記憶』は無い。

一切無い。

ただ、私は色々な事がそこそこ出来てしまうのだ。

え? 普通?

普通だろうか‥‥

思い込み?

うん‥‥
かもしれない。

イタい事を言ってしまい申し訳ない。

君の私への評価は『思い込みの激しい残念男』だろうか。

それとも『縋るものが根拠のない自信だけの勘違い野郎』だろうか…


‥ハッ!

ショコラ公爵令嬢と彼女を恋い慕う男達がゾロゾロと移動を始めた。

なるほど、結構な人数だから夜会の邪魔になってしまっている。

別室を借りて、そこでポエムバトルをしようというのだな。

私は大きな花のオブジェの影からサッと出て(別に隠れていたわけではない)、移動する集団の最後尾に付いて行く。


――と、皆がギョッとした顔で私を見る。

ずっと無表情とアルカイックスマイルの中間の表情を保っていたショコラ公爵令嬢までも。


――何故だ‥‥
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