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5 皇帝は求婚を無かったことにされる
102 緊急事態発生!?
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優しい空気に包まれた『春の庭園』だが――
「‥ハッ!?」
「な、何だアレはッ」
「雲…か?‥黒い雲が…!?」
宮廷騎士達が異変に気付く。
彼等の視線が彷徨う庭園の上方には黒い雲の様なものが発生し、徐々に広がって行き――
ゴォォォォォッ
「‥ッ!?」
「‥風がッ!?」
突如突風が吹き荒れて咲き誇っていた庭園の花々を無惨に散らしていく。
「きゃぁぁッ」
「い‥風‥何‥きゃ」
「姫様ッ‥ひ‥ぜ‥」
ソルたちと少し離れた場所にいる侍女や護衛騎士、宮廷騎士達は突然の風雨に晒され、発する声は風に引きちぎられ『ゴォォォ』という爆音に飲み込まれる。
目も開けていられず、なす術の無い彼らの耳に――いや、まるで頭に直接語りかけるような涼やかな声が聞こえる。
≪落ち着いてわたくしの側にいらっしゃい≫
迷いなくソル王女殿下の声だと分かるも――
(‥でも目も開けられないッ動きようが‥)
そう思う彼らにまたも涼やかな声が届く。
≪保護するから大丈夫‥わたくしだけ見て≫
ハッと顔を上げ目を見開く彼等にはもう金色の光が届いており、ソルとソルを囲むようにしている主達が金色の光の中、風雨から守られているのが見える。
「カリー様ッ」
「ダリア様ッ」
「姫様ッ」
「ペルシクム様ッ」
其々が光の方へ、大切な主のもとへと駆け出すが。
宮廷騎士達は戸惑う。
自分達はこの高貴なる客人達をお守りする立場…身を挺してこの突発的局地的災害級異常気象から皆様をお守りしなければ‥
≪急ぎなさい≫
ハゥッ‥!?
男性上位の世界で特に騎士職は男性だけの職場(女性騎士は別組織扱い)。
子供の頃はともかく騎士として働く今、母ですら自分に敬意を示し命令することはもう無い。
『女子に命令される』ことはもう一生無いのだろうと思っていた彼らに静かではあるが圧倒的強さでの命令――
優秀なる帝国宮廷騎士達は胸を押さえ、耳までも朱に染めながら光の方へと急ぐ。
(‥ああ‥ソル女王様‥ハイヒールで踏んで欲しい‥)
どうやら突発的非常時にいけない扉を開けてしまった彼等…
合掌…
「お母様ッこれは一体‥何が起こっているのですか!?」
ソルにしがみつき、震えながら質問するペルシクム。
上方を見つめるソルが答える。
「皇后陛下よ…
亡くなられて久しいけど…
(こちらの世界へ来るのが癖になってしまわれたのかしら…)
わたくし達を攻撃する意志は無いけど‥かなり取り乱されているご様子…」
「こ、皇后陛下の幽霊という事ですか!?」
「なぜ…この世に心残りがお有りなのでしょうか?」
「分からないわ…何しろパニック状態で…何とか聞き出すほかないわね」
ソルに視えているのはソル達の上方で何か叫びながら暴れている皇后の姿。
それが黒い雲となり暴風となり大雨となって『春の庭園』を荒らしている。
空間で暴れる皇后は雲になったり雷になったり皇后の姿になったかと思えば膨張し左右にちぎれて――
もはやまともな人の形を保っていない。
ソルは両手を差し出し、語りかける。
≪落ち着いてください、皇后陛下≫
≪‥ハッ‥
‥ア、ア?≫
ソルの両手から放たれる金の光の中に皇后の姿が生前の頃のまま浮かび上がる。
「‥まぁ!‥皇后陛下だわ!‥肖像画のままの高貴なお姿だわ!」
「本当に!」
「あの肖像画を描いた絵師、スゴ腕ね!」
前皇后の肖像画を見た事がある公女達は思わず感心する。
本来、彼女達には空間に浮かび上がる思念である皇后の姿は視えないのだが。
ソルの側に居ることで、この場に居る全員が皇后の姿、声を聞き取れるのだ。
≪皇后陛下、わたくしソルですわ≫
≪!‥ソルちゃん‥≫
≪一体何があっ‥≫
≪ソルちゃんッ助けてッあの子が‥ルーナエがッ‥≫
≪!‥陛下に何が‥≫
≪助けてッお願いッあの子がッああ、お願いよッお願いッお願いッ≫
≪皇后陛下ッルーナエ陛下に何が‥≫
≪‥ああ‥ルーナエッ‥どうしてッ‥≫
≪皇后陛下‥≫
「皇帝陛下の御身に何かあったのだわ!」
「‥そんなッ‥」
「あの最強な御方がピンチに!?」
――ヴンッ――
「「「「ハッ」」」」
≪‥ヒッ!!≫
(い、今、皇后陛下の幽体がビビった!?)
(‥あッ‥ソル王女殿下の体がッ!?)
発光している――
今までの様な淡い光ではなく。
強い強い金の光――
ソルから放たれる波動で金の髪は輝きながら空間に舞い上がり、踊る。
カッ‥
‥コイイ――!!
美しい――!!
尊過ぎる――!!!
その場にいる者達が震えながらソルを見つめている間も、ソルから発された金の光――思念がウェーブとなって広大なカード宮殿敷地内を駆け抜けて行く。
≪‥どこ!?‥皇帝陛下‥一体何が‥ルーナエ陛下ッ!≫
ソルは思念を放ち皇帝をサーチしているのだ。
≪ハッ!‥ここは‥≫
「ソル様、見つけられたのですかッ!?」
「皇帝陛下はどこにッ!?」
「陛下は御無事なのですかッ!?」
≪‥彼はカード宮殿内『光の神殿』に‥≫
答えながらもソルの思念は『光の神殿』へ集中する――
見える者(神殿騎士)と見えないもの(封印)に厳重に守られ何者をも拒む『光の神殿』――
(ここは30年前にも入れなかった不思議な場所…なるほど、建物自体に何重にも封印が張り巡らされている――というより、封印そのものによって建物が作られている…間違いなく古代人絡みね…
強固な封印で神殿の中がまるで見えないわ…
でも…いらっしゃるのは間違いない…)
≪どこ?…ルー様≫
ソルの思念が完全に『光の神殿』を囲み――
〈カッッッッッ‥〉
ガッ…シャー‥ン!!
砕け散る硝子――
没入集中の半ば朦朧とした意識の中、ソルは心の中で独り言つ。
(わたくしを誰だとお思い?
この金の瞳は飾りではないのよ――)
「‥ハッ!?」
「な、何だアレはッ」
「雲…か?‥黒い雲が…!?」
宮廷騎士達が異変に気付く。
彼等の視線が彷徨う庭園の上方には黒い雲の様なものが発生し、徐々に広がって行き――
ゴォォォォォッ
「‥ッ!?」
「‥風がッ!?」
突如突風が吹き荒れて咲き誇っていた庭園の花々を無惨に散らしていく。
「きゃぁぁッ」
「い‥風‥何‥きゃ」
「姫様ッ‥ひ‥ぜ‥」
ソルたちと少し離れた場所にいる侍女や護衛騎士、宮廷騎士達は突然の風雨に晒され、発する声は風に引きちぎられ『ゴォォォ』という爆音に飲み込まれる。
目も開けていられず、なす術の無い彼らの耳に――いや、まるで頭に直接語りかけるような涼やかな声が聞こえる。
≪落ち着いてわたくしの側にいらっしゃい≫
迷いなくソル王女殿下の声だと分かるも――
(‥でも目も開けられないッ動きようが‥)
そう思う彼らにまたも涼やかな声が届く。
≪保護するから大丈夫‥わたくしだけ見て≫
ハッと顔を上げ目を見開く彼等にはもう金色の光が届いており、ソルとソルを囲むようにしている主達が金色の光の中、風雨から守られているのが見える。
「カリー様ッ」
「ダリア様ッ」
「姫様ッ」
「ペルシクム様ッ」
其々が光の方へ、大切な主のもとへと駆け出すが。
宮廷騎士達は戸惑う。
自分達はこの高貴なる客人達をお守りする立場…身を挺してこの突発的局地的災害級異常気象から皆様をお守りしなければ‥
≪急ぎなさい≫
ハゥッ‥!?
男性上位の世界で特に騎士職は男性だけの職場(女性騎士は別組織扱い)。
子供の頃はともかく騎士として働く今、母ですら自分に敬意を示し命令することはもう無い。
『女子に命令される』ことはもう一生無いのだろうと思っていた彼らに静かではあるが圧倒的強さでの命令――
優秀なる帝国宮廷騎士達は胸を押さえ、耳までも朱に染めながら光の方へと急ぐ。
(‥ああ‥ソル女王様‥ハイヒールで踏んで欲しい‥)
どうやら突発的非常時にいけない扉を開けてしまった彼等…
合掌…
「お母様ッこれは一体‥何が起こっているのですか!?」
ソルにしがみつき、震えながら質問するペルシクム。
上方を見つめるソルが答える。
「皇后陛下よ…
亡くなられて久しいけど…
(こちらの世界へ来るのが癖になってしまわれたのかしら…)
わたくし達を攻撃する意志は無いけど‥かなり取り乱されているご様子…」
「こ、皇后陛下の幽霊という事ですか!?」
「なぜ…この世に心残りがお有りなのでしょうか?」
「分からないわ…何しろパニック状態で…何とか聞き出すほかないわね」
ソルに視えているのはソル達の上方で何か叫びながら暴れている皇后の姿。
それが黒い雲となり暴風となり大雨となって『春の庭園』を荒らしている。
空間で暴れる皇后は雲になったり雷になったり皇后の姿になったかと思えば膨張し左右にちぎれて――
もはやまともな人の形を保っていない。
ソルは両手を差し出し、語りかける。
≪落ち着いてください、皇后陛下≫
≪‥ハッ‥
‥ア、ア?≫
ソルの両手から放たれる金の光の中に皇后の姿が生前の頃のまま浮かび上がる。
「‥まぁ!‥皇后陛下だわ!‥肖像画のままの高貴なお姿だわ!」
「本当に!」
「あの肖像画を描いた絵師、スゴ腕ね!」
前皇后の肖像画を見た事がある公女達は思わず感心する。
本来、彼女達には空間に浮かび上がる思念である皇后の姿は視えないのだが。
ソルの側に居ることで、この場に居る全員が皇后の姿、声を聞き取れるのだ。
≪皇后陛下、わたくしソルですわ≫
≪!‥ソルちゃん‥≫
≪一体何があっ‥≫
≪ソルちゃんッ助けてッあの子が‥ルーナエがッ‥≫
≪!‥陛下に何が‥≫
≪助けてッお願いッあの子がッああ、お願いよッお願いッお願いッ≫
≪皇后陛下ッルーナエ陛下に何が‥≫
≪‥ああ‥ルーナエッ‥どうしてッ‥≫
≪皇后陛下‥≫
「皇帝陛下の御身に何かあったのだわ!」
「‥そんなッ‥」
「あの最強な御方がピンチに!?」
――ヴンッ――
「「「「ハッ」」」」
≪‥ヒッ!!≫
(い、今、皇后陛下の幽体がビビった!?)
(‥あッ‥ソル王女殿下の体がッ!?)
発光している――
今までの様な淡い光ではなく。
強い強い金の光――
ソルから放たれる波動で金の髪は輝きながら空間に舞い上がり、踊る。
カッ‥
‥コイイ――!!
美しい――!!
尊過ぎる――!!!
その場にいる者達が震えながらソルを見つめている間も、ソルから発された金の光――思念がウェーブとなって広大なカード宮殿敷地内を駆け抜けて行く。
≪‥どこ!?‥皇帝陛下‥一体何が‥ルーナエ陛下ッ!≫
ソルは思念を放ち皇帝をサーチしているのだ。
≪ハッ!‥ここは‥≫
「ソル様、見つけられたのですかッ!?」
「皇帝陛下はどこにッ!?」
「陛下は御無事なのですかッ!?」
≪‥彼はカード宮殿内『光の神殿』に‥≫
答えながらもソルの思念は『光の神殿』へ集中する――
見える者(神殿騎士)と見えないもの(封印)に厳重に守られ何者をも拒む『光の神殿』――
(ここは30年前にも入れなかった不思議な場所…なるほど、建物自体に何重にも封印が張り巡らされている――というより、封印そのものによって建物が作られている…間違いなく古代人絡みね…
強固な封印で神殿の中がまるで見えないわ…
でも…いらっしゃるのは間違いない…)
≪どこ?…ルー様≫
ソルの思念が完全に『光の神殿』を囲み――
〈カッッッッッ‥〉
ガッ…シャー‥ン!!
砕け散る硝子――
没入集中の半ば朦朧とした意識の中、ソルは心の中で独り言つ。
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