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5 皇帝は求婚を無かったことにされる
96 咲き誇る花々のお茶会 1
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「はぁ…」
「はぁ…」
「はぁ…」
「ひっく、ひっく」
見目麗しい姫達がお茶をしているのはカード帝国宮殿内に幾つかある庭園の一つ、『春の庭園』。
春の花々が咲き誇る美しい庭園にお茶の準備がされ、『公女達の親睦会』というか、『皇后の椅子をエサにダシにされた公女達のお疲れ様会』が行われている。
春の花にも負けないぐらい華やかで豪華な帝国のお菓子の数々…
いつもなら目を輝かせて頬張る姫達だが、いまだ虚ろな目にはお菓子も花も目に入らない様子。
彼女達の頭の中は昨夜の出来事でパンパンでお菓子どころではないのだ。
晩餐会に突如現れた金髪金眼の美し過ぎる女神――銀髪銀眼の皇帝陛下と視線を合わせる二人の姿の尊さ――『完璧』とはああいう事を言うのだろう――
「‥もはや失恋した気もしないわ‥」
ようやくスペード公女カリステプスが口を開けば、
「そうね…完璧すぎてぐうの音も出ないってヤツね」
とダイヤ公女ダリア。
「お二方とも人間を超越した存在よね…そのお二方が並び見つめ合う姿は眼福の極みだったわ――カーミレにも見せてあげたかったわ…」
とクローバー公女オクサリス。
「うっうっうっ…
ひっく、ひっく…」
一人だけ皆と同調できないハート公女ペルシクム。
「ハート公女殿下、そうね、あなただけはわたくし達と違って恋ではなく母(?)を失って傷心なのね」
「本当に素敵ですものね、ジョーカー王女殿下…あの御方を母にだなんて贅沢ではなくて?…わたくし自分が公女でなかったら彼女の侍女にして頂きたいほどよ…
いえ…そうしようかしら…ダイヤ公国はわたくしの他にも公女がたくさんいるし」
「娘になるのも侍女になるのも諦めるほかないわ…彼女を独り占めする気マンマンの皇帝陛下に勝てるはずも無いのだから…
それよりほら、昨日とはまた違ったお菓子たちがたくさんよ?
凄い細工ね…クローバー公国は素材そのままのお菓子が多いから驚き!」
「そうよ、あら、このフルーツ何かしら…スペード公国には無いものだわ…
ねぇ、せっかくご用意頂いたのだからお茶とお菓子を頂きましょうよ――お気遣い頂いているのに全然手を付けないのは失礼ですもの」
「そうですわね…わたくし甘い物は苦手ですけど帝国のお菓子は甘さ控え目で食べやすいし美味しいと思えるのよね、不思議なことに」
「芸術的ね…何だか食べるの勿体ない――けど美味しい!…これ、中に入ってるの何かしら?…ホクホクしていて凄く美味しいわ!」
「帝国のお菓子ヤバい、美味し過ぎる」
「レシピ教えてもらえないかしら」
「ほら、ハート公女殿下、このフルーツタルトとっても美味しいわ!」
「このパイなんかいくらでもいけるわよ!」
「コレもお薦め!…外のサクサク生地も中のホクホクした何かも最高よ!」
「‥‥‥‥‥あ、ありがとう、ございます…
おお気遣い頂いて…」
ペルシクムは不思議な事に気付く。
3公女達だって皇帝陛下に失恋して辛いはずなのに、自分を気遣ってくれている。
昨日が初対面で、会話という会話もしていない自分に何故優しくしてくれるのだろう――
「皆さま、お優しいのですね…わたくしは自分の事ばかり…恥ずかしく思います」
昨夜からずっと泣いているのであろう、せっかく綺麗な顔がむくみまくって変顔になっているペルシクムがやっと口をきいたので、皆ホッとして笑顔になる。
「あら、そうよね、わたくし達、優しいわね!」
「クスクス、スペード公女殿下ったら、そういう事はご自分では言わないものよ」
「わたくし達は同じ戦を戦った同士、戦友の様なものですものね!」
「戦ったのではなく、肩透かしを食らった、ですけどね?」
4公女達の軽やかな笑い声が漏れ聞こえて来て、『春の庭園』を守る宮廷騎士達もホッと息をつくのである。
「はぁ…」
「はぁ…」
「ひっく、ひっく」
見目麗しい姫達がお茶をしているのはカード帝国宮殿内に幾つかある庭園の一つ、『春の庭園』。
春の花々が咲き誇る美しい庭園にお茶の準備がされ、『公女達の親睦会』というか、『皇后の椅子をエサにダシにされた公女達のお疲れ様会』が行われている。
春の花にも負けないぐらい華やかで豪華な帝国のお菓子の数々…
いつもなら目を輝かせて頬張る姫達だが、いまだ虚ろな目にはお菓子も花も目に入らない様子。
彼女達の頭の中は昨夜の出来事でパンパンでお菓子どころではないのだ。
晩餐会に突如現れた金髪金眼の美し過ぎる女神――銀髪銀眼の皇帝陛下と視線を合わせる二人の姿の尊さ――『完璧』とはああいう事を言うのだろう――
「‥もはや失恋した気もしないわ‥」
ようやくスペード公女カリステプスが口を開けば、
「そうね…完璧すぎてぐうの音も出ないってヤツね」
とダイヤ公女ダリア。
「お二方とも人間を超越した存在よね…そのお二方が並び見つめ合う姿は眼福の極みだったわ――カーミレにも見せてあげたかったわ…」
とクローバー公女オクサリス。
「うっうっうっ…
ひっく、ひっく…」
一人だけ皆と同調できないハート公女ペルシクム。
「ハート公女殿下、そうね、あなただけはわたくし達と違って恋ではなく母(?)を失って傷心なのね」
「本当に素敵ですものね、ジョーカー王女殿下…あの御方を母にだなんて贅沢ではなくて?…わたくし自分が公女でなかったら彼女の侍女にして頂きたいほどよ…
いえ…そうしようかしら…ダイヤ公国はわたくしの他にも公女がたくさんいるし」
「娘になるのも侍女になるのも諦めるほかないわ…彼女を独り占めする気マンマンの皇帝陛下に勝てるはずも無いのだから…
それよりほら、昨日とはまた違ったお菓子たちがたくさんよ?
凄い細工ね…クローバー公国は素材そのままのお菓子が多いから驚き!」
「そうよ、あら、このフルーツ何かしら…スペード公国には無いものだわ…
ねぇ、せっかくご用意頂いたのだからお茶とお菓子を頂きましょうよ――お気遣い頂いているのに全然手を付けないのは失礼ですもの」
「そうですわね…わたくし甘い物は苦手ですけど帝国のお菓子は甘さ控え目で食べやすいし美味しいと思えるのよね、不思議なことに」
「芸術的ね…何だか食べるの勿体ない――けど美味しい!…これ、中に入ってるの何かしら?…ホクホクしていて凄く美味しいわ!」
「帝国のお菓子ヤバい、美味し過ぎる」
「レシピ教えてもらえないかしら」
「ほら、ハート公女殿下、このフルーツタルトとっても美味しいわ!」
「このパイなんかいくらでもいけるわよ!」
「コレもお薦め!…外のサクサク生地も中のホクホクした何かも最高よ!」
「‥‥‥‥‥あ、ありがとう、ございます…
おお気遣い頂いて…」
ペルシクムは不思議な事に気付く。
3公女達だって皇帝陛下に失恋して辛いはずなのに、自分を気遣ってくれている。
昨日が初対面で、会話という会話もしていない自分に何故優しくしてくれるのだろう――
「皆さま、お優しいのですね…わたくしは自分の事ばかり…恥ずかしく思います」
昨夜からずっと泣いているのであろう、せっかく綺麗な顔がむくみまくって変顔になっているペルシクムがやっと口をきいたので、皆ホッとして笑顔になる。
「あら、そうよね、わたくし達、優しいわね!」
「クスクス、スペード公女殿下ったら、そういう事はご自分では言わないものよ」
「わたくし達は同じ戦を戦った同士、戦友の様なものですものね!」
「戦ったのではなく、肩透かしを食らった、ですけどね?」
4公女達の軽やかな笑い声が漏れ聞こえて来て、『春の庭園』を守る宮廷騎士達もホッと息をつくのである。
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