上 下
91 / 117
4 戦い

90 スート王、ぶちまける 4

しおりを挟む
スート王は得意気にまくし立てる。


「まさか、偶然です。
という事は運命なのです!――私とソル姫は結ばれる運命なのだと確信しました!
カード本宮殿の料理人の中にはスートの者が紛れ込んでいます。
その者は料理を落として注意を逸らし厨房を離れ、私に晩餐会会場に現れた金髪金銀の女神の事を知らせて来たのです!
私がソル姫を捜し続けて来た事を知っていますからね!
――そうです!
私はソル姫が行方不明になってから30年の間ずっとソル姫を捜し続けて来たのですよ!…愛の深さに感動しますでしょう!?
こんな事、他に誰が出来るというのでしょう?」

「俺だな」


低く威厳のある声。

スート王がよく知る『直ぐに言いなりになる声』とよく似ているのにまるで違う声…


「‥へ、陛下‥」

「お前はどこでソル姫の事を聞いた?」

「え‥っと」

「地下宮殿への秘密の通路か」

「‥あ、ご、ご存知で‥ええ」

「父が俺を殺し皇帝に返り咲くのをスート城にて高みの見物する予定ではなかったのか」

「…どうやらもう何も隠せませんね――いえ、隠したくない…洗いざらい話したい気持ちで一杯です…
私はテネブラエ公が事をなす前に――皇帝陛下を殺す前に私が掛けた術が解けてしまった時の為に隠れていたのです…『マレフィクス』の精鋭9人と共に」

「父上が俺を殺せなかった時はお前が殺し屋と共に俺を殺すつもりだったのだな」

「勿論ですとも!
私は優秀ですから、抜かりはないのです!」


皇帝の臣下達が怒りのあまり剣を抜こうとするが、皇帝が手で制する。

テネブラエ公も気色ばむ。


「私はルーメンを殺すつもりなど無かったぞ!――正々堂々剣での決闘を挑み、勝ったら皇帝の座をもらうつもりだと――お前にそう言っただろう、スート王!」

「ですからぁ、まぁだ解らないんですかぁ?
公が何を言おうが関係無いんですよ!
私がどうしたいか――それが全てなんです!
とにかく、用心深く殺し屋達と待機していたら思いがけず金の姫が現れたとの知らせ――滞在するのは秘密の通路の入り口がある例の客室――あまりにもおあつらえ向き過ぎて戸惑うほどで」


ニコニコと嬉しそうなスート王に、さすがにソルの口調もきつくなる。


「それでテネブラエ公に黙って予定変更し、わたくしを襲うためにあの客室で待ち伏せたのね――可哀想に…侍女たちを無惨に殺し、侍女服を奪って変装までして」

「変装は必要でした。
あの時点で騒ぎになるのは避けたかったので」

「侍女服が欲しかっただけでしょう?
殺さずとも、侍女服を寄こすよう頼むだけでよかったはず。
彼女たちに戦闘能力など無く、お前たちにとって危険な存在でないのは一目瞭然。
騒がないように言い含め、それが無理なら気絶させるだけで充分だったはず。
何故侍女たちを殺したの?」

「手っ取り早いからですよ。
タイパの問題です。
どうせ老い先短いんだから別にいいでしょ?
老女を気遣うイミ、あります?」


脳みそが無いのかと疑わしいほど幼稚なことを言うスート王にソルは絶句してしまう。

テネブラエ公が厳しい表情で質問する。


「ソル姫一人にスート王と9人の手練れの殺し屋達…女性1人殺すのにそれだけの人数を充てたのは何故だ?
タイパ重視なのにコスパは無視か?」

「私にソル姫を殺すつもりなどありません!
――ただ、金の姫は何かの力を持っている事が考えられる…
なので、大勢で待ち構えざるを得なかった」

「殺す為ではなく何の為に待ち構えた?」

「前回、あと少しの所でソル姫は消えてしまった!――今回は絶対逃せない――すぐにでも金の姫と愛を確かめ合う為に‥」

「俺は『寝室のドアを守る係』――近づく者は誰であろうと問答無用で殺せと言われた」
「俺は『女の右手を押さえつける係』と言われた」
「俺は『左手を押さえつける係』と言われた」
「俺は『右足を押さえつける係』と言われた」
「俺は左足を押さえる係」
「口を押える係」
「剣で脅す係」
「女が目で術を掛ける様だったら目を隠す係」
「ケツから麻痺薬を入れる係」

「ぬぅ‥お前たちッ」


ふと目が合ったソルの金眼が光るのを見た瞬間、洗いざらい話したくなった『マレフィクス』の手練れ達が次々と証言する。

愛だのとほざいていた男が卑怯にも大勢の男たちに手伝わせてソルを凌辱しようとしていた事が明らかとなる。


「こ、今度こそは、取り敢えずすぐにでも交わりたかったからだ!
一刻も早く確実に古代人の力を得たかった!
最初こそ乱暴でもその後はちゃんと私の妃に迎えるつもりなのだから別にいいでしょ‥」


もう我慢がならない皇帝の前にテネブラエ公が向き直り頭を垂れる。


「――済まないが耐えてくれ」

「‥父上?」

「お‥おお!‥我が友よ!‥分かってくれるのだな!‥さすがは親友‥」
〈ガスッ〉
「‥ッ!?」


――スート王はテネブラエ公を甘く見過ぎていた様だ…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は仕事がしたいのです!

渡 幸美
恋愛
エマ、12歳。平民。流行り風邪で寝込んでいる時に見た夢は、どうやら自分の前世らしい。今生の世界は魔法ありで、どうやら異世界転生したみたい! それに前世を思い出してから見てみると、私、ずいぶん可愛くない…?しかもピンクブロンドの髪って、何だかいろいろ怪しくない?たくさん本は読んだけど、全部なんて覚えてない!しかもアラフォーだったので、乙ゲーに関してはよく知らないし……ヒロインってこんな感じ…のような?ちょっと分からないです! けど、浮気男はごめんだし、魔法はいろいろ楽しそう!せっかくだから、世のため人のためにこの力を使おうじゃないか! 余計なものは頑張って回避して、大手企業の女社長(のようなもの)を目指したい?! ……はずなのに、何故か余計なものがチョロチョロと?何で寄ってくるの?無自覚だって言われても困るんです!仕事がしたいので! ふんわり設定です。恋愛要素薄いかもです……。念のため、R15設定。

前世を思い出したのは“ざまぁ”された後でした

佐倉穂波
恋愛
乙女ゲームをプレイしたことがないのにゲームの悪役令嬢レイチェルに転生してしまった玲。彼女が前世の記憶を取り戻し自分が悪役令嬢であることを知ったのは王子に婚約破棄された後だった! 記憶を取り戻した際に、転生特典として魔力がチート化したけれど……『これって既に遅くない!?』断罪フラグを避けるどころかゲームストーリーは終了済み。そして、よくよく考えてみると、元婚約者の王子はボンクラだし、ゲームのヒロインは頼りなかった。彼らが王と王妃になっては国が危ないとレイチェルは、とある作戦を立てて――!?

皇帝陛下のお妃勤め

カギカッコ「」
恋愛
なんちゃって中華風ラブコメ。 皇帝陛下のお世継ぎを産む依頼を引き受けた娘、景素流と皇帝楊一翔のお話。 名前は結局のところ好きな漢字を使いました。なので本場中国の方からみると変かもしれません。(汗) 後宮制度などは参考時代はあれ簡単な感じに改変しました。 これは最後の方のイチャイチャまで持ち込みたくて書いたような話です。(笑) よろしくお願いします。m(__)m 第一部は元々の本編です。 第二部は短編集にある番外編をR指定なく書きたいなと思っていたのをそうしました。 登場人物や流れというか関係性は大体同じですのであしからず。 パラレル世界の番外編とでも思って楽しんで頂ければ幸いです。(*´▽`*) 他サイト様でも公開してます。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

転生令嬢と王子の恋人

ねーさん
恋愛
 ある朝、目覚めたら、侯爵令嬢になっていた件  って、どこのラノベのタイトルなの!?  第二王子の婚約者であるリザは、ある日突然自分の前世が17歳で亡くなった日本人「リサコ」である事を思い出す。  麗しい王太子に端整な第二王子。ここはラノベ?乙女ゲーム?  もしかして、第二王子の婚約者である私は「悪役令嬢」なんでしょうか!?

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

処理中です...