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4 戦い

82 浮かび上がる真犯人

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「『真犯人』とは何の事か分からぬが、そなたの命を狙ったのは紛れもなくこの私だ――故ジョーカー王への恨みからジョーカー王の血縁者を皆殺しにするのが目的なのだ――30年前も…さっきだって、卑怯にも背後から気付かれない様に近付き大剣を振り下ろしたのだ…ム?何故私はそんな卑怯な真似を…そもそも何故ジョーカー王の血縁者を皆殺しにしなければならない?…と、とにかく、罪人紐は外さなくていい」


テネブラエ公はそう主張する。

主張しながらも自分自身が腑に落ちない様子である。


「なぜ故ジョーカー王を恨んだのですか?」

「‥ハッ‥」


ソルの質問内容に反応し、テネブラエ公はスッと目が据わったかと思うと別人の様に語気を荒げる。


「それは奴が最低最悪の事をアクワ姫にしたからだッ!」


「――事実確認はしました?」


そう聞かれてテネブラエ公は一瞬止まるも…


「事実確‥そんなモノ必要無い!――ん?‥いや、普通は事実確認は大切だ?」

「父の最低最悪話をテネブラエ公に吹き込んだのは『親友』?」


無表情なまま尋ねて来る落ち着いた声に焦り反発する様にテネブラエ公の声はどんどん大きくなる。


「えっ?‥そうだッ、
彼は私と同じ苦しみを持つ、学生時代からの親友だ!
私に『正しい判断』を示してくれる唯一の味方なのだ!
だから、だからだ!
事実確認など必要無かったのは、彼からの情報だったからだ!
彼が私に嘘をつくはず無いのだからな!」

「ランプを点ける理由は嘘でした」

「ッ、う、嘘ではなくきっと揶揄ったのだ!‥彼は陽気だから!」

「随分と陰湿な陽キャですのね…
30年前、わたくしに毒を盛ったのはテネブラエ公ご自身ですか?」

「毒?…さっきも言っていたが何の事だ?‥私は毒など知らん…」


困惑するテネブラエ公は不安げに瞳を揺らし、途端に声は弱々しくなる。

そんなテネブラエ公とは逆に、今度は皇帝が声を荒げる。


「今さら白ばっくれるのですかッ!?
ソル姫が誘拐された日、母上とソル姫と俺でお茶会をした。
母上が嬉しそうに菓子を出して、『皇帝陛下からよ…外国の変わったお菓子ですって…たまにこういう事なさるのよ…』と――
母上は嬉しそうだったんです!
まさかそれが猛毒入りの菓子で数時間後に命を落とす事になるとは知らずにッ…」

「‥な?‥何を言って‥」

「ソル姫は誘拐され、俺も1ヶ月意識が戻らず生死の境を彷徨った」

「待て、違う!――毒入りの菓子だと!?
私は知らん――
第一、皇后は風邪をこじらせて死んだのではないのか!?」


公式にはそう発表されており、側近達と近衛騎士達もそう信じていたので遠慮がちながらもざわつく。

皇帝はワナワナと震え、雷を落とすかの様に怒りをぶつける。


「何故皇帝だったあなたが何も知らないんです!?
知らないワケがないでしょうッ!?」


気色ばむ皇帝に前皇帝は必死に説明する。


「わ、私はお茶会も菓子も知らん!
『ジョーカー王女を殺す前に用があるから先ずは誘拐したい』と言う彼に頼まれて誘拐の手助けを…眠り薬を飲ませただけだ!
それに皇后やルーメンには何も飲ませていない!――そんな事するはずないだろう!――ジョーカー王女が滞在していた『湖の城』の厨房に入り込ませた者に食事に混ぜる様にと眠り薬を渡しただけだッ!」

「わたくしはあの日より1週間前にも毒を盛られております…それもご存知ない?」

「なッ!?‥知らん!
――私以外にもジョーカー王女の命を狙う者が居たという事か!?
だが、カード宮殿で客人として迎え入れたジョーカー王女に毒を盛るなど…
ましてや皇后とルーメンのお茶会に毒を盛るなど誰が出来る――
わ、私ぐらいしか出来ない事だ――
だがやってない!
――ッ、一体何がどうなっているんだ!?」

「当時、皇帝陛下の側近として『これは皇帝陛下の言である』と言えば何でも出来てしまう者がいたという事ですね――テネブラエ公、『親友』は勝手に皇帝命令を発動し皇后陛下と皇太子殿下を手に掛けた様です。
古代人の血が濃い皇太子殿下は本来なら致死量の毒を呷りながらも生き延びましたが」


――!!!――


『…ア…』と言い膝をついたテネブラエ公。

ソルの言う通り、そんな事が出来るのは自分でなければ彼――親友だけだった…

その頭上に揺るぎない声が響く。


「当時の側近…
現スート王ですね?」


ハッと顔を上げるテネブラエ公は思いがけず悲し気な金眼に出会い、心を揺らす。

ジョーカー王女というだけで国、両親を奪われ自身も命を狙われたその心中にあるのは怒りや憎しみを通り越した悲しみ――

ソルの気持ちを思いやったテネブラエ公はその悲惨さ、理不尽さにショックを受ける。

――と同時に、自分は何故そんな恐ろしい事をしたのか――

ジョーカー王が憎いからといって何故その子共までも憎み、殺さなければならないと狂信的に信じていたのか思い出せず不可解さに混乱する。

思い出そう、考えようとすれば頭の中を黒い靄が占拠してしまう――

そんな様子をじっと見る金眼。

金眼には何が視えているのか――


「…テネブラエ公の昔からの『親友』、テネブラエ公が皇帝だった時には側近として権勢を振るった現スート王に全てを白状して頂きましょう」


そう言って歩き出すソルに青褪めた男達は黙って従うのである――
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