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4 戦い
76 ソル VS. テネブラエ公 4
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ソルは振り向かない。
振り向く気配すら無い。
テネブラエ公はその不気味さにゾッとする。
足音や気配を消して真後ろまで近づいたが、声までは隠せない。
声が近付いて来るのは気付いていたはずだ。
やはり人を仮死状態?にする特別な道具を隠し持っているから振り向かないのか。
だが、こちらはもう大剣を振り下ろすだけ。
それで頭蓋骨から真っ二つに斬り殺せる。
その前に聞かなければならない事があるとテネブラエ公は口を開く。
「彼――私の息子は今どこでどうしている?
元気…幸せなのか?」
目の前のソルがピクリと動いた気がして、テネブラエ公はドッと冷や汗をかく。
「死にました」
「‥ッッ!?」
「30年前のあの時…お前がわたくしを拉致させた誘拐団に――つまりお前が殺したのです――兄は失意の中わたくしに『君を守り切れずごめん…父がすまない』と繰り返しながら息を引きとりました――12才――たった12才で兄は誘拐団に斬り殺されたのですッ‥」
「誘拐団!?‥だが私は、私が依頼したのは――」
「わたくしを殺す様依頼したのでしょう――ですが兄はわたくしの為なら命を投げ出す覚悟を持っていました――わたくしが攫われた事を知ると誘拐団を追い掛け追いつき闘い命を落としたのです…ッ、悔しい事…お前に毒を飲まされていなければわたくしも共に闘い兄を死なせたりしなかった!――そう、兄はお前に殺されたのだ!」
抑揚のなかったソルの声が乱れている。
悔しさを滲ませ、悲しみに濡れている。
「ゆ、誘拐団は彼が‥毒とは何‥」
「わたくしが一番許せなかった事は、母とお前の幼稚過ぎる思い込み――出発前、母は兄に繰り返していた――『カード皇帝は一目でお前が自分の息子だと…わたくしと彼の愛の結晶だと分かるはずよ!…だってわたくし達の愛は本物だったんですもの…ね、そうしたら今まで会えなかった分、うんと甘えるといいわ…あぁ、彼の喜ぶ顔が目に浮かぶわ』――と」
「‥ッ‥う‥分かるワケ無い――私は何も知らなかった――せめて私の子を産んだことを報せてくれていれば‥」
「――まあ、母がそう思い込むのも仕方のない事だったかもしれない――真実の愛云々は置いておいても、色に拘るお前なら気付くだろうと」
「‥何を言っている‥いやいい、もういい、もうお前の嘘など聞きたくない!」
「あの時はわたくしも気付かなかったけど、こうして見ると――『瓜二つ』だったのだと分かる」
「うるさい!‥黙れ!‥私は何も分からない!」
「12才――ちょうどこの頃――覚えているはず――謁見の際、わたくしの少し後ろに立っていた少年――12才で、お前とまるで同じ色の‥」
「黙れッ‥黙れぇーーーッ」
〈ヴンッ‥〉
テネブラエ公は遂に上段に構えていた大剣をソルの頭目掛けて振り下ろす!
後ろ姿――その腰まで届くこの世のものならぬ美しさの金髪が透けてその先――ソルがずっと見ていた大きな肖像画が目に入る。
‥はッ‥
肖像画には12才の頃のテネブラエ公が描かれている。
頭の中でソルの声がこだまの様に繰り返される。
『覚えているはず』『12才』『瓜二つ』
…お前とまるで同じ色の…
‥あッ‥
確かにいた――
この肖像画と色も顔も背格好も『瓜二つ』な少年が
――だがあの時は何も目に入らなかった
頭の中はジョーカー王への憎しみで一杯で
少年は訴える様な目で私を見た
私を見たッ――
――あああッ‥‥ッ
私と同じ色の瞳でッッ
ィぎゃぁぁぁ~~~ッ
〈ガキッーーーッ‥!〉
テネブラエ公は断末魔の様な叫びを聞いた
いや、彼自身が叫んだ?
頭の中で鳴った??
予想以上に大きな手応えに腕から全身がガクガクと震えて――
振り向く気配すら無い。
テネブラエ公はその不気味さにゾッとする。
足音や気配を消して真後ろまで近づいたが、声までは隠せない。
声が近付いて来るのは気付いていたはずだ。
やはり人を仮死状態?にする特別な道具を隠し持っているから振り向かないのか。
だが、こちらはもう大剣を振り下ろすだけ。
それで頭蓋骨から真っ二つに斬り殺せる。
その前に聞かなければならない事があるとテネブラエ公は口を開く。
「彼――私の息子は今どこでどうしている?
元気…幸せなのか?」
目の前のソルがピクリと動いた気がして、テネブラエ公はドッと冷や汗をかく。
「死にました」
「‥ッッ!?」
「30年前のあの時…お前がわたくしを拉致させた誘拐団に――つまりお前が殺したのです――兄は失意の中わたくしに『君を守り切れずごめん…父がすまない』と繰り返しながら息を引きとりました――12才――たった12才で兄は誘拐団に斬り殺されたのですッ‥」
「誘拐団!?‥だが私は、私が依頼したのは――」
「わたくしを殺す様依頼したのでしょう――ですが兄はわたくしの為なら命を投げ出す覚悟を持っていました――わたくしが攫われた事を知ると誘拐団を追い掛け追いつき闘い命を落としたのです…ッ、悔しい事…お前に毒を飲まされていなければわたくしも共に闘い兄を死なせたりしなかった!――そう、兄はお前に殺されたのだ!」
抑揚のなかったソルの声が乱れている。
悔しさを滲ませ、悲しみに濡れている。
「ゆ、誘拐団は彼が‥毒とは何‥」
「わたくしが一番許せなかった事は、母とお前の幼稚過ぎる思い込み――出発前、母は兄に繰り返していた――『カード皇帝は一目でお前が自分の息子だと…わたくしと彼の愛の結晶だと分かるはずよ!…だってわたくし達の愛は本物だったんですもの…ね、そうしたら今まで会えなかった分、うんと甘えるといいわ…あぁ、彼の喜ぶ顔が目に浮かぶわ』――と」
「‥ッ‥う‥分かるワケ無い――私は何も知らなかった――せめて私の子を産んだことを報せてくれていれば‥」
「――まあ、母がそう思い込むのも仕方のない事だったかもしれない――真実の愛云々は置いておいても、色に拘るお前なら気付くだろうと」
「‥何を言っている‥いやいい、もういい、もうお前の嘘など聞きたくない!」
「あの時はわたくしも気付かなかったけど、こうして見ると――『瓜二つ』だったのだと分かる」
「うるさい!‥黙れ!‥私は何も分からない!」
「12才――ちょうどこの頃――覚えているはず――謁見の際、わたくしの少し後ろに立っていた少年――12才で、お前とまるで同じ色の‥」
「黙れッ‥黙れぇーーーッ」
〈ヴンッ‥〉
テネブラエ公は遂に上段に構えていた大剣をソルの頭目掛けて振り下ろす!
後ろ姿――その腰まで届くこの世のものならぬ美しさの金髪が透けてその先――ソルがずっと見ていた大きな肖像画が目に入る。
‥はッ‥
肖像画には12才の頃のテネブラエ公が描かれている。
頭の中でソルの声がこだまの様に繰り返される。
『覚えているはず』『12才』『瓜二つ』
…お前とまるで同じ色の…
‥あッ‥
確かにいた――
この肖像画と色も顔も背格好も『瓜二つ』な少年が
――だがあの時は何も目に入らなかった
頭の中はジョーカー王への憎しみで一杯で
少年は訴える様な目で私を見た
私を見たッ――
――あああッ‥‥ッ
私と同じ色の瞳でッッ
ィぎゃぁぁぁ~~~ッ
〈ガキッーーーッ‥!〉
テネブラエ公は断末魔の様な叫びを聞いた
いや、彼自身が叫んだ?
頭の中で鳴った??
予想以上に大きな手応えに腕から全身がガクガクと震えて――
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