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4 戦い
72 ソルの身に起きていた事
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ソルが何故、『秘密の地下宮殿』でテネブラエ公に大剣を振り下ろされる事態になったのか――
☆☆☆
ソルの為に本宮殿内に用意された客室はかつてソルの母――16才のアクワ姫も使った事のある特別な客室だった。
7名の侍女と4名の女性騎士が付いた大小5部屋からなる豪華な客室。
本来は皇帝の血縁者しか使えない事になっているが、かつてはカード皇后の親友としてソルの母が、今回はカード皇帝の婚約者(になる予定の女性)としてソルが特例として使う事となった。
この部屋に皇帝のエスコートで送られて来たソル。
客室前に整列してソルを迎える侍女達を目にした瞬間、気付いた。
本宮殿で働く侍女は全て老女――だが、目の前に居るのは老女に化けた男達。
侍女服に武器を隠している――刺客だ。
テネブラエ公は仕事が早い――実行力が高いからではない――考え無しだからだ…
ソルは扉まで6メートルほど残した所――侍女に化けた刺客達に容易に害されない距離を保った場所で足を止めた。
刺客の半数以上が僅かに体を揺らし、悔しさを滲ませる。
皇帝の命までも狙っていたのだと判断する。
直ぐ近くまで皇帝が近付いたところで命を狙うチャンスがあればものにするつもりだったのだろう。
あくまでも狙いはソル――だが、『あわよくば』というところだろうか…
その様に命令されているのだろう。
皇帝の座を奪還するためにはルーナエ陛下の命を奪う以外方法は無い。
帝国民から愛されているルーナエ陛下が生きている限りテネブラエ公が皇帝に返り咲く事は不可能――その証拠に刺客達は金の為なら何でもする暗黒街の者だろう――まともな帝国民なら幾ら金を積まれてもルーナエ陛下の命を狙う者はいないのだ――それなのに、いやそれ故に息子の命を狙うのか――
そうか――心の中で嘆息しソルはチラと皇帝を見上げる。
一体何に気を取られているのか皇帝は刺客に気付いていない。
(何故見えませんの?…美しいだけの銀眼ではないでしょうに)
ソルは暗号会話で危険を伝えると同時に、危険なこの場から何故か薄ぼんやりしている皇帝を遠ざける為、急ぎ月光城へ向かう様に伝える。
…実はこの時、ソルは皇帝に口移しで鍵を渡すのに随分と苦労した。
そもそも『口移し』なんて、今日初めてキスを経験したソルにはメチャメチャハードル高すぎなのだが!
だが、周りを油断させる為に、そしてボーっとしている皇帝に確実に鍵を渡すにはソレしか方法が無く――
必死に舌で鍵を押し入れたのに、まさかの押し戻され。
自分の口の中に戻された鍵に頭がパニックに!
(え!?‥鍵よ!?ゴミじゃないわよ!?ちゃ、ちゃんと、
『今なら見つけられますわ【これが鍵です】』
って伝えたはず!)
そう思いながらもう一度皇帝の口に鍵を押し込むも皇帝の舌が受け取ってくれた様だと思った瞬間また押し戻されて来て――
入れては戻され、更に奥に押し込んでもまた戻され――
唇は離さず角度を変え何度も何度も鍵を移動させ合う舌の攻防が続き――
(こ、これはもうダメだわ…他に方法を考えなければ…)
とソルが諦め、力が抜けたところで漸く皇帝がシッカリとその口中に鍵を受け取ったのだった。
皇帝、恐るべし…
「では、失礼致します…おやすみなさいませ」
そしてソルは客室へ…
入ると同時に部屋の中央まで走り、室内で待ち構えていた3人の刺客を仕留める。
ソルに続いて室内に入って来た刺客の先頭が目に映るものを処理できずにいる内に、ソルはマントと外側のスカートを外し、刺客が固まっている扉に向かって投げ――
――ッ――
軽い布材のそれらは扉付近でブワリと広がり、刺客の眼に一瞬映った後、床に崩れ落ちた刺客達をかすめて床に着地する。
10秒も掛からず10人の刺客達を始末したソルは奥の寝室へ向かう。
月光が『地下宮殿』への通路の入り口である暖炉を示す様カーテンを調節し、暖炉をスライドして通路に入ると、万が一の事を考え、暖炉の位置を戻しておく。
少しだけズレた状態にしておけば皇帝なら気付くはず。
パニエ(スカートを膨らませる為の籠を逆さにした様な下着)と一体化した様な外側のスカートを外した事で、ドレスはシンプルなワンピース型の動きやすいものになり、ソルはサクサクと進んでいく。
(30年前探検した時とまるで変わっていない…時間の経過が感じられない…これを作ったのは古代人でしょうね…ブリッジ修道院地下の温泉施設同様、今の技術では出来ない造りだもの)
襲って来る刺客達を次々と仕留めながら、ソルは『地下宮殿』を目指す。
☆☆☆
ソルの為に本宮殿内に用意された客室はかつてソルの母――16才のアクワ姫も使った事のある特別な客室だった。
7名の侍女と4名の女性騎士が付いた大小5部屋からなる豪華な客室。
本来は皇帝の血縁者しか使えない事になっているが、かつてはカード皇后の親友としてソルの母が、今回はカード皇帝の婚約者(になる予定の女性)としてソルが特例として使う事となった。
この部屋に皇帝のエスコートで送られて来たソル。
客室前に整列してソルを迎える侍女達を目にした瞬間、気付いた。
本宮殿で働く侍女は全て老女――だが、目の前に居るのは老女に化けた男達。
侍女服に武器を隠している――刺客だ。
テネブラエ公は仕事が早い――実行力が高いからではない――考え無しだからだ…
ソルは扉まで6メートルほど残した所――侍女に化けた刺客達に容易に害されない距離を保った場所で足を止めた。
刺客の半数以上が僅かに体を揺らし、悔しさを滲ませる。
皇帝の命までも狙っていたのだと判断する。
直ぐ近くまで皇帝が近付いたところで命を狙うチャンスがあればものにするつもりだったのだろう。
あくまでも狙いはソル――だが、『あわよくば』というところだろうか…
その様に命令されているのだろう。
皇帝の座を奪還するためにはルーナエ陛下の命を奪う以外方法は無い。
帝国民から愛されているルーナエ陛下が生きている限りテネブラエ公が皇帝に返り咲く事は不可能――その証拠に刺客達は金の為なら何でもする暗黒街の者だろう――まともな帝国民なら幾ら金を積まれてもルーナエ陛下の命を狙う者はいないのだ――それなのに、いやそれ故に息子の命を狙うのか――
そうか――心の中で嘆息しソルはチラと皇帝を見上げる。
一体何に気を取られているのか皇帝は刺客に気付いていない。
(何故見えませんの?…美しいだけの銀眼ではないでしょうに)
ソルは暗号会話で危険を伝えると同時に、危険なこの場から何故か薄ぼんやりしている皇帝を遠ざける為、急ぎ月光城へ向かう様に伝える。
…実はこの時、ソルは皇帝に口移しで鍵を渡すのに随分と苦労した。
そもそも『口移し』なんて、今日初めてキスを経験したソルにはメチャメチャハードル高すぎなのだが!
だが、周りを油断させる為に、そしてボーっとしている皇帝に確実に鍵を渡すにはソレしか方法が無く――
必死に舌で鍵を押し入れたのに、まさかの押し戻され。
自分の口の中に戻された鍵に頭がパニックに!
(え!?‥鍵よ!?ゴミじゃないわよ!?ちゃ、ちゃんと、
『今なら見つけられますわ【これが鍵です】』
って伝えたはず!)
そう思いながらもう一度皇帝の口に鍵を押し込むも皇帝の舌が受け取ってくれた様だと思った瞬間また押し戻されて来て――
入れては戻され、更に奥に押し込んでもまた戻され――
唇は離さず角度を変え何度も何度も鍵を移動させ合う舌の攻防が続き――
(こ、これはもうダメだわ…他に方法を考えなければ…)
とソルが諦め、力が抜けたところで漸く皇帝がシッカリとその口中に鍵を受け取ったのだった。
皇帝、恐るべし…
「では、失礼致します…おやすみなさいませ」
そしてソルは客室へ…
入ると同時に部屋の中央まで走り、室内で待ち構えていた3人の刺客を仕留める。
ソルに続いて室内に入って来た刺客の先頭が目に映るものを処理できずにいる内に、ソルはマントと外側のスカートを外し、刺客が固まっている扉に向かって投げ――
――ッ――
軽い布材のそれらは扉付近でブワリと広がり、刺客の眼に一瞬映った後、床に崩れ落ちた刺客達をかすめて床に着地する。
10秒も掛からず10人の刺客達を始末したソルは奥の寝室へ向かう。
月光が『地下宮殿』への通路の入り口である暖炉を示す様カーテンを調節し、暖炉をスライドして通路に入ると、万が一の事を考え、暖炉の位置を戻しておく。
少しだけズレた状態にしておけば皇帝なら気付くはず。
パニエ(スカートを膨らませる為の籠を逆さにした様な下着)と一体化した様な外側のスカートを外した事で、ドレスはシンプルなワンピース型の動きやすいものになり、ソルはサクサクと進んでいく。
(30年前探検した時とまるで変わっていない…時間の経過が感じられない…これを作ったのは古代人でしょうね…ブリッジ修道院地下の温泉施設同様、今の技術では出来ない造りだもの)
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