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2 四花繚乱
54 父娘の相談 1
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「と、とにかく落ち着きなさい」
「落ち着いてなんかいられないわ!…お母様は『約束がある』と仰っていて‥」
「とにかく2人で話そう――皆様にご迷惑だ」
ただならない様子の娘にハート公王は続きの小部屋で話す事にする。
ハート公妃の事は皆に聞かせられない事も多い。
「彼女は確かに『約束がある』と?――カード宮殿へ着いてからまだ数時間だぞ?…知り合いなどいるはずがない…
一体誰と約束したというのだ!?」
小部屋に入るやいなや父が娘に疑問をぶつける。
「分からないわ!
あの時はそこまで聞く余裕なんて無かったもの!
宮廷騎士も居たし、あんまりプライベートな事、聞けないでしょう?
おかしな様子も無かったからまさか行方不明になってしまうなんて思わなくて…」
「いや、まだ行方不明という訳では…」
「何か事件に巻き込まれていたらどうしよう!?」
「その点は大丈夫だ。
カード宮殿の警備は完璧だ。
もう大昔の話だが、カード宮殿の厳重な警備をかいくぐって賊が侵入した事があったんだ。
それ以来、元々厳重だった警備を更に幾重にも厳重にして完璧にした。
事件など起こる前に防いでくれるさ」
「――そうね、庭園もたくさんの宮廷騎士に守られていたわ。
彼等のお陰でわたくしはイキシアに害されずに済んだのだったわ。
…そう言えばお母様は庭園が守られている事を――警備内容をよく御存知だった…
『カード宮殿滞在のしおり』にそんな事は書いてなかったし、謁見が終わって少ししか経ってなかったのだから誰かに聞く暇などなかったでしょう?
何故お母様は御存知なの!?
お母様はここ、カード宮殿に来た事があるの!?」
「ハハ、まさか…
そんな事あるはず…
――ハッ!‥あの時‥
い、いやまさかッ!
だったら彼女は誰だったというんだ!?
まさか私はとんでもないことを…」
娘の指摘に顔色を変え取り乱す父。
ブツブツと支離滅裂な言葉を呟いている。
(――ッ、もう!
お父様は頼りにならないわ!
あぁ、あの時お止め出来ていたら…
わたくしも気が動転していたし、あの後も色々と――)
色々あったのだ。
先ず、宮廷騎士に『西の城』まで送ってもらう途中で若い2人の女性が泣いているのに出くわした。
聞けば仕立て屋『ドレスレド』のお針子だという。
「私達、スペード公女殿下のドレスアレンジを依頼されて、張り切ってデザイン画を描いたんです。
ところが、チーフを始めとした先輩お針子達に『デザインはもう決まっている。余計な事をせず早速アレンジに掛かれ』と言われました。
『これに出来るだけ似せる様に』と渡されたのは赤と銀のギラギラ光る素材で作られたマーメイド・ラインのワンショルダー・ドレスです。
左肩・左側の胸元・背中・膝から下が大胆に露出してしまう下品なもので――クールで上品なスペード公女殿下が着るのに相応しくないと、帝都で今流行っているのは、やはりマーメイド・ラインだけれども上品で華やかでスペード公女殿下にお似合いのはずだからと言ったら凄く激怒されて…『出て行け!クビだ!』って…」
同期の仲間たちが『独立する。一緒にやろう』と誘ってくれた時、悩みながらもお世話になった『ドレスレド』に義理立てして残ると決めて頑張って来た2人。
それなのに、いつも意見を全く聞いてもらえず、仕事は任されているのに『見習い』扱いで同僚たちが辞めた分過重労働させられ、挙句の果てに『クビ』。
就職口を探そうにも『ドレスレド』に睨まれたお針子を雇ってくれる仕立て屋は無いだろう。
かと言って、辞めた同僚たちが立ち上げ大成功している『プシケ』の門をたたくのも今さらで気が引ける。
誘いを断った時にケンカみたいになってしまったから…
ペルシクムはそんな2人にドレスのアレンジを頼む事にした。
『西の城』に2人を連れ帰ってドレスのアレンジを頼み、その後は――
イキシア問題だ。
「落ち着いてなんかいられないわ!…お母様は『約束がある』と仰っていて‥」
「とにかく2人で話そう――皆様にご迷惑だ」
ただならない様子の娘にハート公王は続きの小部屋で話す事にする。
ハート公妃の事は皆に聞かせられない事も多い。
「彼女は確かに『約束がある』と?――カード宮殿へ着いてからまだ数時間だぞ?…知り合いなどいるはずがない…
一体誰と約束したというのだ!?」
小部屋に入るやいなや父が娘に疑問をぶつける。
「分からないわ!
あの時はそこまで聞く余裕なんて無かったもの!
宮廷騎士も居たし、あんまりプライベートな事、聞けないでしょう?
おかしな様子も無かったからまさか行方不明になってしまうなんて思わなくて…」
「いや、まだ行方不明という訳では…」
「何か事件に巻き込まれていたらどうしよう!?」
「その点は大丈夫だ。
カード宮殿の警備は完璧だ。
もう大昔の話だが、カード宮殿の厳重な警備をかいくぐって賊が侵入した事があったんだ。
それ以来、元々厳重だった警備を更に幾重にも厳重にして完璧にした。
事件など起こる前に防いでくれるさ」
「――そうね、庭園もたくさんの宮廷騎士に守られていたわ。
彼等のお陰でわたくしはイキシアに害されずに済んだのだったわ。
…そう言えばお母様は庭園が守られている事を――警備内容をよく御存知だった…
『カード宮殿滞在のしおり』にそんな事は書いてなかったし、謁見が終わって少ししか経ってなかったのだから誰かに聞く暇などなかったでしょう?
何故お母様は御存知なの!?
お母様はここ、カード宮殿に来た事があるの!?」
「ハハ、まさか…
そんな事あるはず…
――ハッ!‥あの時‥
い、いやまさかッ!
だったら彼女は誰だったというんだ!?
まさか私はとんでもないことを…」
娘の指摘に顔色を変え取り乱す父。
ブツブツと支離滅裂な言葉を呟いている。
(――ッ、もう!
お父様は頼りにならないわ!
あぁ、あの時お止め出来ていたら…
わたくしも気が動転していたし、あの後も色々と――)
色々あったのだ。
先ず、宮廷騎士に『西の城』まで送ってもらう途中で若い2人の女性が泣いているのに出くわした。
聞けば仕立て屋『ドレスレド』のお針子だという。
「私達、スペード公女殿下のドレスアレンジを依頼されて、張り切ってデザイン画を描いたんです。
ところが、チーフを始めとした先輩お針子達に『デザインはもう決まっている。余計な事をせず早速アレンジに掛かれ』と言われました。
『これに出来るだけ似せる様に』と渡されたのは赤と銀のギラギラ光る素材で作られたマーメイド・ラインのワンショルダー・ドレスです。
左肩・左側の胸元・背中・膝から下が大胆に露出してしまう下品なもので――クールで上品なスペード公女殿下が着るのに相応しくないと、帝都で今流行っているのは、やはりマーメイド・ラインだけれども上品で華やかでスペード公女殿下にお似合いのはずだからと言ったら凄く激怒されて…『出て行け!クビだ!』って…」
同期の仲間たちが『独立する。一緒にやろう』と誘ってくれた時、悩みながらもお世話になった『ドレスレド』に義理立てして残ると決めて頑張って来た2人。
それなのに、いつも意見を全く聞いてもらえず、仕事は任されているのに『見習い』扱いで同僚たちが辞めた分過重労働させられ、挙句の果てに『クビ』。
就職口を探そうにも『ドレスレド』に睨まれたお針子を雇ってくれる仕立て屋は無いだろう。
かと言って、辞めた同僚たちが立ち上げ大成功している『プシケ』の門をたたくのも今さらで気が引ける。
誘いを断った時にケンカみたいになってしまったから…
ペルシクムはそんな2人にドレスのアレンジを頼む事にした。
『西の城』に2人を連れ帰ってドレスのアレンジを頼み、その後は――
イキシア問題だ。
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