上 下
55 / 117
2 四花繚乱

54 父娘の相談 1

しおりを挟む
「と、とにかく落ち着きなさい」

「落ち着いてなんかいられないわ!…お母様は『約束がある』と仰っていて‥」

「とにかく2人で話そう――皆様にご迷惑だ」


ただならない様子の娘にハート公王は続きの小部屋で話す事にする。

ハート公妃の事は皆に聞かせられない事も多い。


「彼女は確かに『約束がある』と?――カード宮殿へ着いてからまだ数時間だぞ?…知り合いなどいるはずがない…
一体誰と約束したというのだ!?」


小部屋に入るやいなや父が娘に疑問をぶつける。


「分からないわ!
あの時はそこまで聞く余裕なんて無かったもの!
宮廷騎士も居たし、あんまりプライベートな事、聞けないでしょう?
おかしな様子も無かったからまさか行方不明になってしまうなんて思わなくて…」

「いや、まだ行方不明という訳では…」

「何か事件に巻き込まれていたらどうしよう!?」

「その点は大丈夫だ。
カード宮殿の警備は完璧だ。
もう大昔の話だが、カード宮殿の厳重な警備をかいくぐって賊が侵入した事があったんだ。
それ以来、元々厳重だった警備を更に幾重にも厳重にして完璧にした。
事件など起こる前に防いでくれるさ」

「――そうね、庭園もたくさんの宮廷騎士に守られていたわ。
彼等のお陰でわたくしはイキシアに害されずに済んだのだったわ。
…そう言えばお母様は庭園が守られている事を――警備内容をよく御存知だった…
『カード宮殿滞在のしおり』にそんな事は書いてなかったし、謁見が終わって少ししか経ってなかったのだから誰かに聞く暇などなかったでしょう?
何故お母様は御存知なの!?
お母様はここ、カード宮殿に来た事があるの!?」

「ハハ、まさか…
そんな事あるはず…
――ハッ!‥あの時‥
い、いやまさかッ!
だったら彼女は誰だったというんだ!?
まさか私はとんでもないことを…」


娘の指摘に顔色を変え取り乱す父。

ブツブツと支離滅裂な言葉を呟いている。


(――ッ、もう!
お父様は頼りにならないわ!
あぁ、あの時お止め出来ていたら…
わたくしも気が動転していたし、あの後も色々と――)


色々あったのだ。

先ず、宮廷騎士に『西の城』まで送ってもらう途中で若い2人の女性が泣いているのに出くわした。

聞けば仕立て屋『ドレスレド』のお針子だという。


「私達、スペード公女殿下のドレスアレンジを依頼されて、張り切ってデザイン画を描いたんです。
ところが、チーフを始めとした先輩お針子達に『デザインはもう決まっている。余計な事をせず早速アレンジに掛かれ』と言われました。
『これに出来るだけ似せる様に』と渡されたのは赤と銀のギラギラ光る素材で作られたマーメイド・ラインのワンショルダー・ドレスです。
左肩・左側の胸元・背中・膝から下が大胆に露出してしまう下品なもので――クールで上品なスペード公女殿下が着るのに相応しくないと、帝都で今流行っているのは、やはりマーメイド・ラインだけれども上品で華やかでスペード公女殿下にお似合いのはずだからと言ったら凄く激怒されて…『出て行け!クビだ!』って…」


同期の仲間たちが『独立する。一緒にやろう』と誘ってくれた時、悩みながらもお世話になった『ドレスレド』に義理立てして残ると決めて頑張って来た2人。

それなのに、いつも意見を全く聞いてもらえず、仕事は任されているのに『見習い』扱いで同僚たちが辞めた分過重労働させられ、挙句の果てに『クビ』。

就職口を探そうにも『ドレスレド』に睨まれたお針子を雇ってくれる仕立て屋は無いだろう。

かと言って、辞めた同僚たちが立ち上げ大成功している『プシケ』の門をたたくのも今さらで気が引ける。

誘いを断った時にケンカみたいになってしまったから…


ペルシクムはそんな2人にドレスのアレンジを頼む事にした。

『西の城』に2人を連れ帰ってドレスのアレンジを頼み、その後は――

イキシア問題だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役公爵令嬢のご事情

あいえい
恋愛
執事であるアヒムへの虐待を疑われ、平民出身の聖女ミアとヴォルフガング殿下、騎士のグレゴールに詰め寄られたヴァルトハウゼン公爵令嬢であるエレオノーラは、釈明の機会を得ようと、彼らを邸宅に呼び寄せる。そこで明された驚愕の事実に、令嬢の運命の歯車が回りだす。そして、明らかになる真実の愛とは。 他のサイトにも投稿しております。 名前の国籍が違う人物は、移民の家系だとお考え下さい。 本編4話+外伝数話の予定です。

嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜

悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜 嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。 陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。 無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。 夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。 怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……

推しのトラウマメイカーを全力で回避したら未来が変わってしまったので、責任もって彼を育てハッピーエンドを目指します!

海老飛りいと
恋愛
異世界転生したら乙女ゲームのスチルに一瞬映るモブキャラ(たぶん悪役)で、推しキャラに性的トラウマを与えたトラウマメイカー役だった。 今まさにその現場に当人としていることを思い出したので、推しを救いだしたらルートが改変? 彼の未来が変わってしまったようなので、責任をとってハッピーエンドになるようにがんばる! な、モブキャラの大人女性×ショタヒーローからはじまるちょっとえっちなギャグラブコメディです。 ライトな下品、ご都合あり。ラッキースケベ程度のエロ。恋愛表現あり。年の差と立場と前世の記憶でじれじれだけどなんだかんだで結果的にはラブラブになります。 完結しました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

運命の再会だと言う騎士様の愛が重すぎます!!

茜カナコ
恋愛
私は子どものころ、国王のパレードを見て騎士に憧れを抱いていた。 自分も騎士になりたいと、騎士団の訓練をたびたび、こっそり見に行っていた。 その時に、私は騎士見習いのブラッドのブラッドを助けた。月日は流れ、私は、騎士となり結婚を考える年齢になったブラッドと、再会した。婚約相手として。でも、ほぼ初対面と言っていいくらいの関係のはずなのに、ブラッド様の愛が重すぎるんですけど!?

私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ
恋愛
 カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。  ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。  十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。  しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。  だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。  カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。  一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……

処理中です...