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2 四花繚乱
36 ハート公女ペルシクム 6
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ダイヤ公女が侍女アセビを連れて庭園を去って行く。
その姿を憐れむ様に見送るハート公妃にペルシクムが声を掛ける。
「お母様…わたくし…
申し訳ございません」
「姫…人を疑わねばならないのは辛いわね。
理不尽に悪意を向けられる事も、道理の無い攻撃をされる事も」
「‥!‥お母様ッ…」
公女としてあまりにも稚拙で至らなかった自分の対応を咎められるかと思っていたのに…さらに先程よろめいた自分を支えてくれながらさり気なくアセビという侍女と自分の間に入り守ってくれた事を思い出し、とうとう涙が溢れてしまう。
ハート公妃はそんなペルシクムをやさしく抱きしめるので、ペルシクムは泣きながらもあたたかな、幸せな気持ちが溢れて来る。
ハート公妃の柔らかな胸に顔を埋めるペルシクム。
ペルシクムの髪を撫でながら、ハート公妃が柔らかな心地の良い声で言う。
「可哀想に…全く…
あの謁見の際の皇帝陛下の振る舞いのせいよね…
皇帝陛下はご自分の一挙手一投足がどれだけ注目され、影響を与えるのかを自覚されていない様ね――困った御方だわ…」
「―――(ハッ)!」
ペルシクムはあの謁見で皇帝陛下に感じた違和感が何だったのかが突然分かった気がして、顔を上げてハート公妃に――
「お母様、あの…」
「なあに?」
「えと‥‥」
言葉が見つからず困ってしまうペルシクム――と、
くすっ‥
ハート公妃が笑うので、ペルシクムは気付いたはずの何かを忘れ、頬は紅に、頭の中は真っ白に。
「‥え?‥あの?」
「やっぱり。
この重い前髪は上げた方がずっと素敵よ。
勿論、分かった上でそうしているのだろうけれど」
「‥あ‥」
ハート公妃に抱きついた事でペルシクムの髪は乱れてしまった。
それを整えてくれながら、ハート公妃は残念そうに続ける。
「姫が意識して自分の魅力を隠している事を『残念だ』と思うのはわたくしの勝手ね――でもいつか、姫が姫らしく居られる日が来ればいいと願うわ」
「お母…様…」
「ホラ、素敵」
「‥え???」
ペルシクムは前髪が妙に軽く視界が明るい事に驚く。
目ギリギリまで分厚く下ろしたパッツン前髪はどこに?
「さ、冷えて来たわ。
そろそろ城に戻って体を温めた方がいいわ」
「‥お母様はッ?
お母様も一緒に‥」
「ごめんなさい、
約束があるの。
そこの宮廷騎士さん、
公女を『西の城』まで送り届けてくれるかしら」
ハート公妃が花のアーチに声を掛けると驚き目を丸くした宮廷騎士が姿を現わす。
ついさっきペルシクムに『西の城までお送り致します』と申し出て断られた宮廷騎士だ。
ペルシクムが心配で樹木などに隠れながらそっと付いて来ていたのだ。
「驚きました。
上手く隠れていたつもりでしたが…」
「ふふ、年の功よ。
庭園の入り口に公女の護衛騎士が控えているだろうけど頼りにならないから『西の城』までシッカリと送り届けてくれる?」
「はい!
喜んでお引き受けさせて頂きます!」
「お願いね」
「お母様…」
尚もハート公妃に甘える様な縋る様な視線を向けるペルシクム。
「後でね」
と優しく言って去って行くハート公妃から目を離せないでいるペルシクムに宮廷騎士が声を掛ける。
「さ、こちらです。
この後どんどん冷えて来ますので、急いだ方がいいかと…ハッ!」
「‥あ、ええ。
あら、あなたは先程の宮廷騎士さん…え‥と…どうかした?」
驚いて頬を真っ赤に染めた宮廷騎士にペルシクムも驚いて尋ねると。
「あの、いえ、本当に
う、おお美しいです!
その、前髪を上げられた方がずっと!」
重い前髪は器用に編み込まれサイドから後ろに流されて。
小さすぎた印象のペルシクムの美しい卵型の顔が露わになれば、大きな目はより大きく、形のいい眉が少女に大人の女性の強さと儚さを醸し出させて――
真っ赤になって大汗をかく宮廷騎士。
宮廷騎士の様子を見たペルシクムは今一度ハート公妃が歩き去った方角を振り返り心の中で誓う。
(わたくし、やるわ!――頑張るわ!
皇后の座を手に入れる為に、やれる事は全部やるわッ!)
その姿を憐れむ様に見送るハート公妃にペルシクムが声を掛ける。
「お母様…わたくし…
申し訳ございません」
「姫…人を疑わねばならないのは辛いわね。
理不尽に悪意を向けられる事も、道理の無い攻撃をされる事も」
「‥!‥お母様ッ…」
公女としてあまりにも稚拙で至らなかった自分の対応を咎められるかと思っていたのに…さらに先程よろめいた自分を支えてくれながらさり気なくアセビという侍女と自分の間に入り守ってくれた事を思い出し、とうとう涙が溢れてしまう。
ハート公妃はそんなペルシクムをやさしく抱きしめるので、ペルシクムは泣きながらもあたたかな、幸せな気持ちが溢れて来る。
ハート公妃の柔らかな胸に顔を埋めるペルシクム。
ペルシクムの髪を撫でながら、ハート公妃が柔らかな心地の良い声で言う。
「可哀想に…全く…
あの謁見の際の皇帝陛下の振る舞いのせいよね…
皇帝陛下はご自分の一挙手一投足がどれだけ注目され、影響を与えるのかを自覚されていない様ね――困った御方だわ…」
「―――(ハッ)!」
ペルシクムはあの謁見で皇帝陛下に感じた違和感が何だったのかが突然分かった気がして、顔を上げてハート公妃に――
「お母様、あの…」
「なあに?」
「えと‥‥」
言葉が見つからず困ってしまうペルシクム――と、
くすっ‥
ハート公妃が笑うので、ペルシクムは気付いたはずの何かを忘れ、頬は紅に、頭の中は真っ白に。
「‥え?‥あの?」
「やっぱり。
この重い前髪は上げた方がずっと素敵よ。
勿論、分かった上でそうしているのだろうけれど」
「‥あ‥」
ハート公妃に抱きついた事でペルシクムの髪は乱れてしまった。
それを整えてくれながら、ハート公妃は残念そうに続ける。
「姫が意識して自分の魅力を隠している事を『残念だ』と思うのはわたくしの勝手ね――でもいつか、姫が姫らしく居られる日が来ればいいと願うわ」
「お母…様…」
「ホラ、素敵」
「‥え???」
ペルシクムは前髪が妙に軽く視界が明るい事に驚く。
目ギリギリまで分厚く下ろしたパッツン前髪はどこに?
「さ、冷えて来たわ。
そろそろ城に戻って体を温めた方がいいわ」
「‥お母様はッ?
お母様も一緒に‥」
「ごめんなさい、
約束があるの。
そこの宮廷騎士さん、
公女を『西の城』まで送り届けてくれるかしら」
ハート公妃が花のアーチに声を掛けると驚き目を丸くした宮廷騎士が姿を現わす。
ついさっきペルシクムに『西の城までお送り致します』と申し出て断られた宮廷騎士だ。
ペルシクムが心配で樹木などに隠れながらそっと付いて来ていたのだ。
「驚きました。
上手く隠れていたつもりでしたが…」
「ふふ、年の功よ。
庭園の入り口に公女の護衛騎士が控えているだろうけど頼りにならないから『西の城』までシッカリと送り届けてくれる?」
「はい!
喜んでお引き受けさせて頂きます!」
「お願いね」
「お母様…」
尚もハート公妃に甘える様な縋る様な視線を向けるペルシクム。
「後でね」
と優しく言って去って行くハート公妃から目を離せないでいるペルシクムに宮廷騎士が声を掛ける。
「さ、こちらです。
この後どんどん冷えて来ますので、急いだ方がいいかと…ハッ!」
「‥あ、ええ。
あら、あなたは先程の宮廷騎士さん…え‥と…どうかした?」
驚いて頬を真っ赤に染めた宮廷騎士にペルシクムも驚いて尋ねると。
「あの、いえ、本当に
う、おお美しいです!
その、前髪を上げられた方がずっと!」
重い前髪は器用に編み込まれサイドから後ろに流されて。
小さすぎた印象のペルシクムの美しい卵型の顔が露わになれば、大きな目はより大きく、形のいい眉が少女に大人の女性の強さと儚さを醸し出させて――
真っ赤になって大汗をかく宮廷騎士。
宮廷騎士の様子を見たペルシクムは今一度ハート公妃が歩き去った方角を振り返り心の中で誓う。
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