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2 四花繚乱
32 ハート公女ペルシクム 2
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「わきまえなさい!
何を勘違いしているのか知らないけれど、お前はわたくしの侍女なのよ?
主であるわたくしに対する口の利き方も出来ないでよく侍女試験に合格したものだわね?」
「‥ッ!
な、生意気な!
あんたなんか殺してやるッ!」
いつも押し黙っているから見た目通り頭空っぽのお人形だと侮っていたペルシクムにピシャリと叱られ、イキシアはブチ切れる。
物凄い形相で主であるペルシクムに掴み掛かろうとする――が、あっという間に数人の宮廷騎士達に取り押さえられる。
宮廷騎士達は庭園のそこここに配置されていて、異常を察知し直ぐに動いたのだ。
ちなみにハート公国の護衛騎士は一歩も動けずポカンと見ていただけだ。
「きゃあッ!
痛いじゃないのッ!
離せッ、離しなさい!
私を誰だと思っているの!?
今は侍女なんかしてるけど、本当は公女――ハート公王の娘よ!
そこのペルシクムの姉なんだからッ!」
両脇を宮廷騎士に拘束されジタバタと足を鳴らしながらイキシアが怒鳴り散らす。
「何ですって!?
お前、よくもそんな不敬な事を!」
突然おかしな事を言い出したイキシアに、ペルシクムは怒りで青褪める。
「本当の事よ!
あんたが知らないだけ!
私の母が亡くなる時私に打ち明けたのよ!
私の父親はハート公王!
二人がたっぷり愛し合った結果この私が生まれたのよ!
本当なら、今日皇帝陛下にお会いするのは私のはずだったのよ!
皇后陛下となるべく選ばれるのは、この私のはずだったのよ!
それなのに何であんたなんかが!?
あのアバズレの娘なんかがどうして!?
あぁもう離せったら!
あの女殺してやるんだから!
妹のクセに私の人生を奪いやがって!」
尚もギャアギャア騒ぎ立てるイキシアを宮廷騎士が連行していく。
その様子を目で追いながら茫然とするペルシクム。
一人の宮廷騎士が『西の城までお送り致します』と声を掛けて来るが、ペルシクムは丁重に断る。
「結構よ…どうやらこの庭園はあなた達に守られ安全の様だから、今しばらく散策させて下さいな。
…実は一人になりたかったのだけど、完全に一人とはいかなくて窮屈に思っていたところだったの。
侍女も護衛騎士もいない本当の一人で散歩するなんて中々出来ない冒険だわ」
「‥ッ‥
ハート公女殿下‥」
声も体も震えているのに平気を装うペルシクムに、宮廷騎士は胸を掴まれた様な感覚を覚える。
公女として恥ずかしくない様にあろうとする姿のいじらしさが宮廷騎士を捉えたのである。
困惑した様子の宮廷騎士の後ろからペルシクムの護衛騎士がひょっこり顔を出し
「あ、あの、姫様、
私が護衛を致しま‥」
「‥お前ね、はぁ…
先程宮廷騎士の方達が止めてくれなかったらわたくしはイキシアに害されていたわよね?
お前はわたくしの護衛騎士でありながらイキシアを止めなかった」
「ま、まさか侍女である彼女が主である姫様を襲うなんて思わなくてッ」
「どんな状況でどんな相手だろうと職務を全うするべきよ。
わたくしはハート公女。
わたくしだけの身ではないのよ。
お前にわたくしの護衛騎士は任せられないわ」
ガックリ肩を落とす護衛騎士。
『では、庭園入り口でお待ちします』と言ってすごすごと戻って行く。
(‥そこで戻るのね‥はぁ‥本当に護衛騎士に向かないのね‥まぁ仕方ないわ)
護衛騎士とは逆方向に歩き出すペルシクム。
頭の中はさっきのイキシアの主張がグルグル回っている。
(‥嘘をついている感じじゃなかった‥
事実かどうかは分からないけど、イキシアは本気で信じているのね‥
だからわたくしが憎いというワケね。
わたくしの位置は本当は自分のものなのにって。
わたくしの母がアレだから余計にそう思うんでしょう。
自分の方が公女として相応しいのにって…)
「あ、あの、突然声を掛けさせて頂く非礼をどうぞお許しくださいませ…
ハート公女殿下」
綺麗に整備された庭園の少し離れた迷路の様な立ち入り禁止区画の前で亜麻色の髪の若い女性が深く礼をしている。
ペルシクムは彼女に見覚えがある。
何を勘違いしているのか知らないけれど、お前はわたくしの侍女なのよ?
主であるわたくしに対する口の利き方も出来ないでよく侍女試験に合格したものだわね?」
「‥ッ!
な、生意気な!
あんたなんか殺してやるッ!」
いつも押し黙っているから見た目通り頭空っぽのお人形だと侮っていたペルシクムにピシャリと叱られ、イキシアはブチ切れる。
物凄い形相で主であるペルシクムに掴み掛かろうとする――が、あっという間に数人の宮廷騎士達に取り押さえられる。
宮廷騎士達は庭園のそこここに配置されていて、異常を察知し直ぐに動いたのだ。
ちなみにハート公国の護衛騎士は一歩も動けずポカンと見ていただけだ。
「きゃあッ!
痛いじゃないのッ!
離せッ、離しなさい!
私を誰だと思っているの!?
今は侍女なんかしてるけど、本当は公女――ハート公王の娘よ!
そこのペルシクムの姉なんだからッ!」
両脇を宮廷騎士に拘束されジタバタと足を鳴らしながらイキシアが怒鳴り散らす。
「何ですって!?
お前、よくもそんな不敬な事を!」
突然おかしな事を言い出したイキシアに、ペルシクムは怒りで青褪める。
「本当の事よ!
あんたが知らないだけ!
私の母が亡くなる時私に打ち明けたのよ!
私の父親はハート公王!
二人がたっぷり愛し合った結果この私が生まれたのよ!
本当なら、今日皇帝陛下にお会いするのは私のはずだったのよ!
皇后陛下となるべく選ばれるのは、この私のはずだったのよ!
それなのに何であんたなんかが!?
あのアバズレの娘なんかがどうして!?
あぁもう離せったら!
あの女殺してやるんだから!
妹のクセに私の人生を奪いやがって!」
尚もギャアギャア騒ぎ立てるイキシアを宮廷騎士が連行していく。
その様子を目で追いながら茫然とするペルシクム。
一人の宮廷騎士が『西の城までお送り致します』と声を掛けて来るが、ペルシクムは丁重に断る。
「結構よ…どうやらこの庭園はあなた達に守られ安全の様だから、今しばらく散策させて下さいな。
…実は一人になりたかったのだけど、完全に一人とはいかなくて窮屈に思っていたところだったの。
侍女も護衛騎士もいない本当の一人で散歩するなんて中々出来ない冒険だわ」
「‥ッ‥
ハート公女殿下‥」
声も体も震えているのに平気を装うペルシクムに、宮廷騎士は胸を掴まれた様な感覚を覚える。
公女として恥ずかしくない様にあろうとする姿のいじらしさが宮廷騎士を捉えたのである。
困惑した様子の宮廷騎士の後ろからペルシクムの護衛騎士がひょっこり顔を出し
「あ、あの、姫様、
私が護衛を致しま‥」
「‥お前ね、はぁ…
先程宮廷騎士の方達が止めてくれなかったらわたくしはイキシアに害されていたわよね?
お前はわたくしの護衛騎士でありながらイキシアを止めなかった」
「ま、まさか侍女である彼女が主である姫様を襲うなんて思わなくてッ」
「どんな状況でどんな相手だろうと職務を全うするべきよ。
わたくしはハート公女。
わたくしだけの身ではないのよ。
お前にわたくしの護衛騎士は任せられないわ」
ガックリ肩を落とす護衛騎士。
『では、庭園入り口でお待ちします』と言ってすごすごと戻って行く。
(‥そこで戻るのね‥はぁ‥本当に護衛騎士に向かないのね‥まぁ仕方ないわ)
護衛騎士とは逆方向に歩き出すペルシクム。
頭の中はさっきのイキシアの主張がグルグル回っている。
(‥嘘をついている感じじゃなかった‥
事実かどうかは分からないけど、イキシアは本気で信じているのね‥
だからわたくしが憎いというワケね。
わたくしの位置は本当は自分のものなのにって。
わたくしの母がアレだから余計にそう思うんでしょう。
自分の方が公女として相応しいのにって…)
「あ、あの、突然声を掛けさせて頂く非礼をどうぞお許しくださいませ…
ハート公女殿下」
綺麗に整備された庭園の少し離れた迷路の様な立ち入り禁止区画の前で亜麻色の髪の若い女性が深く礼をしている。
ペルシクムは彼女に見覚えがある。
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