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2 四花繚乱
26 クローバー公女オクサリス 1
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こちらは『東の城』。
クローバー公女オクサリスの専属侍女カーミレが音もなく廊下を走り、主がお茶をしているはずの部屋へ滑り込むと捲し立てる。
「姫様!
オクサリス様!
スペード公女様とダイヤ公女様はそれぞれ人気店と名高い仕立て屋のお針子を押えました!
お二方とも姫様同様野暮ったいドレスを着用されていましたが急遽ドレスをお直しする様ですわ!
――姫様?」
ようやく主の様子がいつもと違う事に気付いたカーミレ。
いつもの主なら長椅子に悠然と座り余裕でお茶をしているはずだが…
主は窓に向かって腕組みをして立ち、じっと外を見ている。
視線の先にあるのは本宮殿だ。
「…カーミレ、正直に答えて。
わたくしは16才にしてもう魅力が枯渇してしまったの?」
「は…?
何を仰います?
いつも自信満々の姫様が?」
「見つめたのよ」
「は?」
「そして微笑んで見せた――いつも通りに」
「…あぁ、はい」
「なのにあの御方は…
皇帝陛下はピクリともなさらなかったわ!」
「まぁ?
いつも通りではありませんか?
姫様の魅力にやられて時が止まってしまったのでございましょう」
「違うわ!
ビクともしなかったのよ!
1ミリも心を動かされなかった!
わたくしの魅力がまるで通用しなかったのよ!
こんな事は初めてだわ!
最悪なのは、わたくしの魅力はまるで通用しないのに、わたくしはあの御方にすっかり魅せられてしまったの!」
「まぁ~~…
良かったではないですか?」
「何がいいの!?
わたくしはこんなに苦しんでいるのにッ!?」
「望みが叶ったでございましょう?」
「えぇ!?」
「姫様は常日頃仰っているではないですか?
『わたくしも誰かに心底夢中になってみたいものだわ…
小説にある様な身も心も焦がす様な恋をしてみたいと思うのよ…
でも現実は小説とは程遠い…
殿方は魅力的だし幾つか恋を楽しんでみたけど夢中になる程ではなかったわ。
ねぇ、誰かにすっかり心を奪われるなんて事、実際にあるの?』と。
姫様はとうとう『誰かにすっかり心を奪われる』という夢を叶えたんですわ!」
「~~~~~~ッッ、
こんなのは望んでないわ!
わたくしだけが心を奪われるなんてミジメじゃないの!
相手もわたくしと同じ位、いいえ、わたくし以上にわたくしに夢中になってくれなきゃイヤッ!
こんなの…こんな…」
「ですが姫様はいつも殿方を振り向かせ夢中にさせては無視するなんて事、遊びでなさってますよね?
振り回される側の痛み、苦しみ、やるせなさ、少しはお解りになられたのでは?」
「…意地悪を言うのはやめて頂戴!
カーミレの息子の事はワザと誘惑したんじゃないわよ?
ちょっと微笑みかけただけなのに、勝手に夢中になったのだから」
「姫様はご自分の微笑みの威力をよく御存知ですよね?
それなのに何故あの子に微笑みかけたのだか…」
穏やかな口調で棘のある追及を続けるカーミレは36才で既婚、子持ち。
18才になる自慢の長男がオクサリスに夢中になり、失恋し、いまだに恋の傷が癒えず引き籠り状態となっている。
と言っても、実はそんなに気にしていない。
真面目過ぎる息子には丁度いい薬でしょう。
それより姫様にちゃんとしたレディになって頂くチャンス!
姫様には『あの女』の様になって欲しくない‥
「まぁまぁ、あなたたちは何を話しているの?」
背後からのねちっこい女の声。
チッ、とカーミレは心の中で舌打ちする。
『あの女』のご登場である。
クローバー公女オクサリスの専属侍女カーミレが音もなく廊下を走り、主がお茶をしているはずの部屋へ滑り込むと捲し立てる。
「姫様!
オクサリス様!
スペード公女様とダイヤ公女様はそれぞれ人気店と名高い仕立て屋のお針子を押えました!
お二方とも姫様同様野暮ったいドレスを着用されていましたが急遽ドレスをお直しする様ですわ!
――姫様?」
ようやく主の様子がいつもと違う事に気付いたカーミレ。
いつもの主なら長椅子に悠然と座り余裕でお茶をしているはずだが…
主は窓に向かって腕組みをして立ち、じっと外を見ている。
視線の先にあるのは本宮殿だ。
「…カーミレ、正直に答えて。
わたくしは16才にしてもう魅力が枯渇してしまったの?」
「は…?
何を仰います?
いつも自信満々の姫様が?」
「見つめたのよ」
「は?」
「そして微笑んで見せた――いつも通りに」
「…あぁ、はい」
「なのにあの御方は…
皇帝陛下はピクリともなさらなかったわ!」
「まぁ?
いつも通りではありませんか?
姫様の魅力にやられて時が止まってしまったのでございましょう」
「違うわ!
ビクともしなかったのよ!
1ミリも心を動かされなかった!
わたくしの魅力がまるで通用しなかったのよ!
こんな事は初めてだわ!
最悪なのは、わたくしの魅力はまるで通用しないのに、わたくしはあの御方にすっかり魅せられてしまったの!」
「まぁ~~…
良かったではないですか?」
「何がいいの!?
わたくしはこんなに苦しんでいるのにッ!?」
「望みが叶ったでございましょう?」
「えぇ!?」
「姫様は常日頃仰っているではないですか?
『わたくしも誰かに心底夢中になってみたいものだわ…
小説にある様な身も心も焦がす様な恋をしてみたいと思うのよ…
でも現実は小説とは程遠い…
殿方は魅力的だし幾つか恋を楽しんでみたけど夢中になる程ではなかったわ。
ねぇ、誰かにすっかり心を奪われるなんて事、実際にあるの?』と。
姫様はとうとう『誰かにすっかり心を奪われる』という夢を叶えたんですわ!」
「~~~~~~ッッ、
こんなのは望んでないわ!
わたくしだけが心を奪われるなんてミジメじゃないの!
相手もわたくしと同じ位、いいえ、わたくし以上にわたくしに夢中になってくれなきゃイヤッ!
こんなの…こんな…」
「ですが姫様はいつも殿方を振り向かせ夢中にさせては無視するなんて事、遊びでなさってますよね?
振り回される側の痛み、苦しみ、やるせなさ、少しはお解りになられたのでは?」
「…意地悪を言うのはやめて頂戴!
カーミレの息子の事はワザと誘惑したんじゃないわよ?
ちょっと微笑みかけただけなのに、勝手に夢中になったのだから」
「姫様はご自分の微笑みの威力をよく御存知ですよね?
それなのに何故あの子に微笑みかけたのだか…」
穏やかな口調で棘のある追及を続けるカーミレは36才で既婚、子持ち。
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と言っても、実はそんなに気にしていない。
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それより姫様にちゃんとしたレディになって頂くチャンス!
姫様には『あの女』の様になって欲しくない‥
「まぁまぁ、あなたたちは何を話しているの?」
背後からのねちっこい女の声。
チッ、とカーミレは心の中で舌打ちする。
『あの女』のご登場である。
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