【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?

１ テュティリア視点

　私わたくしが前世の記憶を取り戻したのは、7歳の誕生日でした。強烈な吐き気と頭痛が襲って来てしまい、ほぼ食べ終わっていた食事を切り上げて、私は寝台へと向かいました。

　テュティリア・メイズ・ホーエンハーム公爵令嬢である私は、母譲りのストレートな赤い髪と明るい若草色の瞳を持っています。顔立ちは父に似て居るのでしょう。肖像画の母は目元がキリリとした美人さんですが、私は目元がクッキリパッチリしています。美人かどうかは子供なので、まだ分かりませんね。


　貴族、それも公爵家の令嬢として産まれた現世の私の7歳の誕生日は、祝ってくれる人がいないとても寂しいものです。蝋燭1本の薄暗い部屋の中で頂く料理は、平民でも、もっとマシな食事をするのでしょうね。ただの水に硬くて黒い炭パンと野菜の捨てる部分の屑を入れた、とても薄い塩味のスープが置かれていました。今はトレイの上は空になっていますが。

　本家から離れたこの場所に部屋を移された私は、新しい家族と馴染めないためという理由で隔離させられました。

　私の父は入婿であり、公女であるお母様が亡くなったのが、私が3歳の時でした。
　当時は、私が言葉も覚えたての子供という事で、私が成人する18歳まで、父が代理の公爵に任命されました。母が無くなってすぐの翌年には、父は仮の公爵位を手に入れたとたんに、愛人の女性を公爵家に迎え入れました。

　私は子供ながらにショックを受けたのを覚えています。愛人の女性が連れてきた子供は、私と同じ歳で、父の色を持っていましたから。

　この事を知った国王陛下である私の叔父様は、父の再婚をお認めにならず、私にちゃんと爵位が戻るようにという配慮として、私と同じ歳の、第二王子と婚約させました。この婚約は、私が18歳になるまでの仮の婚約だと、父と愛人は思っていましたが。

　私がこの国の第二王子と婚約させられている本当の意味も理解して居ないのでしょうね。時期公女の私に第二王子が嫁ぎに来られる、つまり、国王陛下は母の血を受け継ぐ私を、王家に取り戻すおつもりなのです。母と国王陛下は異母違いの姉弟でしたから。
　姉弟の仲はとても良く、公女として降ったお母様の持っていた特殊なスキルのおかげで、国も公爵家も繁栄していたのです。

　公爵家の主な資金源はお母様の発明とスキルの恩恵で生え茂る草花や珍しい薬草などです。薬草や野菜等の生産と観賞用の薔薇などの花を輸出したりして公爵家とこの国は成り立っています。だからこそお母様は花の大公女の称号持ちだったのです。

　そんなお母様のおかげで公爵領もこの国も食べ物に困らない生活が出来ていると言うのに……。父は、公爵家のお金で豪遊を繰り返しています。それも次第に、お母様のスキルの影響が無くなった今は、衰退していく一方でしょうが。私もお母様と似たようなスキルを持っておりますが、国全体を補えるスキルではありませんから。

　頭痛と吐き気に苦しむ私は、気を紛らわすために前世の記憶について考えました。

　この世界は、私が前世で遊んでいた、魔法あり冒険ありの農業系経営シュミレーションRPGゲームの世界ととても似通っています。

　この国フィアレス王国という国名や主人公の名前が私と完全に一致しています。それに、ステータスと目を閉じて念じれば、自分のステータスが頭の中に浮かんできます。そこにある私の固有スキルに『豊穣神の加護』の文字があります。

　このスキルはまさに、あのゲームの主人公が持っていたスキルと同じです。他にも、ゲーム内で活躍していたスキルが複数あります。『裁縫』『植物魔法』『土魔法』『風魔法』『水魔法』です。

　前世の私の人物に関しての記憶はキレイにありません。ただ、漠然とこことは違う世界に住んでいた記憶が残っておりますね。鮮明に覚えているのはやっぱりゲームの記憶です。

　ゲームの始まりは主人公わたくしが17歳の時に、SS級ダンジョンへと繋がる渓谷の視察中、不慮の事故が起きて、主人公わたくしがその谷に落ちてしまいます。

　地下深くに落ちた主人公は、運良く命は助かったのですが、名前以外覚えていない記憶喪失になり、そこで水晶の民（地下ダンジョンに住む民族）に拾われるという所から物語が始まります。水色の髪の水晶の民の通称チュートリアルのイケメンお兄さんに拾われるのです。

　地下で記憶を失って行き場の無い主人公。しかし、見ず知らずの主人公を水晶の民達は信用していません。主人公は、自分のスキルを駆使して地下農業を開始し、食糧などを水晶の民に分け与えたりして、信用を勝ち取り、地下での居場所を作っていくのです。

　さらに物語が進むと、その地下産の主人公が作った野菜などを地上に出荷したりするのです。地上は、謎の伝染病に飢饉が蔓延っているので、それを解決するのが主人公の使命なのです。

　そしてエンディング間近では、水晶の民の代表として、王国の王宮へと向かいます。信用されていない水晶の民が作る食べ物や薬を主人公が持って行くのですが、国王は主人公の叔父ですので、水晶の民に姪を助けられた恩が出来るわけです。水晶の民を快く受け入れ、貿易を交わしてエンディングです。

　ゲーム開始まで待ち遠しいですね。私は自由になりたいので、ゲーム開始までひっそり準備を進めましょう。記憶喪失にはなるつもりは在りませんがね。