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紅
向かう想いからはじまる
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玉座の間を出て、奇妙な議会場にもどってくる。
議会場の床や壁には、まだ亀裂が入っていなかった。まるで別の場所と言わんばかりに、変化はない。強いて言えば、玉座の間同様、わずかに床がかたむいていた。
ラトスとメリー、フィノアをかかえたセウラザは、飛ぶように、議会場を駆けぬけていく。
中央にある円卓に目を向けると、大きな四角い穴が消えていた。天井にえがかれていた夜空の絵からは、目が消えていた。ゼメリカを撃ったからだろうかと思ったが、立ち止まって考える暇はなかった。
次の扉を開く。
暗闇の通路が、延びている。
「走るぞ。こけるなよ、メリーさん」
「ぜ、善処します」
メリーの返答を聞いて、ラトスは暗闇に飛びこんだ。扉からはなれるほどに、足元が見えなくなっていく。長い通路の先には階段があるはずなので、全力では走れない。暗闇の中で運悪く階段に飛びこめば、真っ逆さまに転落するだろう。ラトスは目をほそめしながら、できるかぎり足元に注意をはらって走った。
「ラトス、音がする」
最後尾を走るセウラザが、声をあげた。
「何の音だ」
「分からない。だが、後ろから追ってくるようだ」
そう言ったセウラザの声は静かだったが、ラトスは背に冷やりとしたものを感じた。
わずかに走る速度を落とし、振り返る。遠くはなれたところに、先ほどくぐりぬけた扉が見えた。扉は開けはなったままだったので、その奥にある議会場の明かりも見える。
ラトスはさらに目をほそめて、明かりをじっと見た。セウラザが言うように、確かに音が聞こえる。連続的になにかが砕ける音のようだった。音に合わせて、議会場の明かりがゆれているようにも見える。
「セウラザ、メリーさん。先を行け」
「ラトスさんは?」
「俺は後ろに付くだけだ。嫌な予感がする。セウラザ、王女さんを落とすなよ」
「無論だ」
セウラザは応えると、先頭を走りだした。背中の大剣をぬき、無数の刃を展開しはじめる。
なにをする気だと、ラトスは首をかしげた。するとセウラザは、無数の刃を床にすりつけさせながら飛ばし、先行させた。
「なるほどな」
ラトスはうなった。
床を擦り付けさせて刃を走らせれば、音の違いで通路の先の状態が分かる。瞬時に行動したということは、こういった暗闇を走る経験が今まであったのかもしれない。分かっていれば最初から先頭を走らせたのだがと、ラトスは苦笑した。
「メリーさんも早く行け」
逡巡していたメリーに、ラトスがうながす。ラトスを置いていくような気まずさがあったのだろう。ラトスの言葉を聞いてもメリーはしばらくもたついていたが、やがて飛びだすようにセウラザの後を追った。
二人の足音が遠ざかるまで、ラトスはしばらく扉の方を見ていた。
音は大きくなっている。崩落する音なのかと思ったが、どうも違うようだった。一定間隔で、似たような音がひびきつづけていたからだ。音が鳴ると、明かりも必ずゆれる。なぜだと思った瞬間、ぱっと明かりが消えた。
議会場の床や壁には、まだ亀裂が入っていなかった。まるで別の場所と言わんばかりに、変化はない。強いて言えば、玉座の間同様、わずかに床がかたむいていた。
ラトスとメリー、フィノアをかかえたセウラザは、飛ぶように、議会場を駆けぬけていく。
中央にある円卓に目を向けると、大きな四角い穴が消えていた。天井にえがかれていた夜空の絵からは、目が消えていた。ゼメリカを撃ったからだろうかと思ったが、立ち止まって考える暇はなかった。
次の扉を開く。
暗闇の通路が、延びている。
「走るぞ。こけるなよ、メリーさん」
「ぜ、善処します」
メリーの返答を聞いて、ラトスは暗闇に飛びこんだ。扉からはなれるほどに、足元が見えなくなっていく。長い通路の先には階段があるはずなので、全力では走れない。暗闇の中で運悪く階段に飛びこめば、真っ逆さまに転落するだろう。ラトスは目をほそめしながら、できるかぎり足元に注意をはらって走った。
「ラトス、音がする」
最後尾を走るセウラザが、声をあげた。
「何の音だ」
「分からない。だが、後ろから追ってくるようだ」
そう言ったセウラザの声は静かだったが、ラトスは背に冷やりとしたものを感じた。
わずかに走る速度を落とし、振り返る。遠くはなれたところに、先ほどくぐりぬけた扉が見えた。扉は開けはなったままだったので、その奥にある議会場の明かりも見える。
ラトスはさらに目をほそめて、明かりをじっと見た。セウラザが言うように、確かに音が聞こえる。連続的になにかが砕ける音のようだった。音に合わせて、議会場の明かりがゆれているようにも見える。
「セウラザ、メリーさん。先を行け」
「ラトスさんは?」
「俺は後ろに付くだけだ。嫌な予感がする。セウラザ、王女さんを落とすなよ」
「無論だ」
セウラザは応えると、先頭を走りだした。背中の大剣をぬき、無数の刃を展開しはじめる。
なにをする気だと、ラトスは首をかしげた。するとセウラザは、無数の刃を床にすりつけさせながら飛ばし、先行させた。
「なるほどな」
ラトスはうなった。
床を擦り付けさせて刃を走らせれば、音の違いで通路の先の状態が分かる。瞬時に行動したということは、こういった暗闇を走る経験が今まであったのかもしれない。分かっていれば最初から先頭を走らせたのだがと、ラトスは苦笑した。
「メリーさんも早く行け」
逡巡していたメリーに、ラトスがうながす。ラトスを置いていくような気まずさがあったのだろう。ラトスの言葉を聞いてもメリーはしばらくもたついていたが、やがて飛びだすようにセウラザの後を追った。
二人の足音が遠ざかるまで、ラトスはしばらく扉の方を見ていた。
音は大きくなっている。崩落する音なのかと思ったが、どうも違うようだった。一定間隔で、似たような音がひびきつづけていたからだ。音が鳴ると、明かりも必ずゆれる。なぜだと思った瞬間、ぱっと明かりが消えた。
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