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影
夢からはじまる
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腰の短剣に手をかけ、ラトスはゆっくりと家の中に入った。
木窓が全て閉ざされていて、空気が流れていないからだろうか。屋内の空気に息苦しさを感じながら、ラトスは腰の短剣をぬいた。
鞘からぬき切る瞬間、チンと金属音が鳴った。
その音が鳴るのと同時に、ラトスはまた一歩、家の中に足を踏み入れた。
床の木の板が、ギイときしむ。
その音は、この家に入る前に聞いた、木がきしむような音に似ていた。
木戸の先には、大小の鞄が、戸口から部屋の奥のほうまで十数ほどならんでいた。それぞれの鞄には、雑多に物が詰めこまれている。柄の長い道具などは、いくつか鞄の口から飛びだしていた。
鞄がならんでいる壁には、一本の剣がかかっていた。
その剣は、普通のものより剣身が長い。剣身の幅は、見たことがないほど広かった。ラトスの家には、こんなに大きな剣は飾られていないはずだった。
奥には、小さなテーブルと椅子がふたつあった。
その先に、小さな暖炉がある。暖炉の中には、火が入っていた。こぼれでた明かりが、床を濡らすようにチラチラと照らしている。
その暖炉のそばに、ふたつの人影があった。
一人は、ラトスと同じくらいの背の高さで、甲冑に身をつつんだ男だった。
男は、青みがかった黒の長髪で、髪の長さは肩にとどくほどだったが、綺麗に整えられていた。男はじっとこちらに顔を向けて立っていた。
その隣に寄り添うように、少女が立っていた。
「……シャーニ!?」
少女を見て、ラトスは思わず大きな声をあげた。
その大声に、甲冑の男と少女は、身動ぎひとつしなかった。二人とも、まるで人形のようだった。
甲冑の男に寄り添っている少女は、金色の長い髪が、腰のあたりまで伸びていた。
金色の髪の間から見える少女の顔が、暗闇の中からじっとラトスに向けられている。その顔、いや、その姿を、ラトスは見間違えるはずがなかった。
これは、死んだはずの妹、シャーニだ。
その姿を見て、ラトスは身体の奥底がかすかにふるえだした。斬殺されて、無残な姿になった妹を思い出したのだ。
生きているはずがない。
こんなところにいるはずがない。
この少女の身体には、血も、傷もない。何事も無かったかのように、こうして立っているはずがない。
身体の奥底のふるえは徐々に大きくなる。
胸の奥が、にぎりつぶされていくようだ。
ラトスは、もう一度会いたかったはずの妹の姿を見て、吐き気を感じた。
直後、ラトスの後ろで、ギイと木のきしむ音がした。メリーが、部屋に入ってきたのだ。屋内の様子を見ながら、ゆっくりとラトスの後ろに寄ってくる。彼女を横目で見て、ラトスはほそく、長く息を吐いた。
そうだ。
今は、悩んだり苦しんだりしている時ではない。
ラトスは湧き上がる感情を噛み殺し、少女から目をそむけて、短剣をにぎり直した。
甲冑の男をにらむように見て、数歩、ゆっくりと歩み寄る。すると、甲冑の男がゆっくりと頭を横にふった。
「この場での警戒は無用だ」
甲冑の男は、静かな声をラトスに投げてきた。
その声はひどく無感情で、熱がなかった。横にふった頭以外、身動き一つ取っていない。人間ではないのではないかと、ラトスは警戒する。
「おまえは何者だ」
ラトスは、目をほそめて言葉を返す。
短剣の柄をにぎる手に、力を入れた。甲冑の男は、もう一度頭を横にふった。
「簡潔に説明しよう」
甲冑の男がそう言うと、少しの間を置いてラトスは小さくうなずいた。
二人の様子を後ろで見ていたメリーから、唾を飲み込む音が聞こえた。
「私はセウラザという」
セウラザと名乗った甲冑の男は、左手をにぎって自分の胸を軽くたたきながら自己紹介をした。
草原で出会ったペルゥが言っていたのは、この男のことだろうか。後ろにいるメリーが、小さく手を打って、ああ! と言う。ラトスは、彼女が余計なことをしゃべらないよう、即座に手を向けて制止した。
「変わった名前だ」
「いや、名前ではない。私に名は付けられないのだ」
「どういうことだ」
「私はセウラザと呼ばれる人形であり、器なのだ」
セウラザは言いながら、一歩前に出た。
淡々と即答してくるセウラザの言葉を、ラトスはすぐに理解できなかった。
自分のことを人形だとか、器だとかいうのは、自虐的な何かなのだろうか。そう考えながら、ラトスの隣に寄ってきていたメリーを見た。彼女は、セウラザの言葉を聞いて、思考が止まってしまったようだ。口は半開きになっていて、目は泳いでいる。
「君は、ここが夢の世界だと分かっているのだろうか」
ラトスが困惑しているのを見て取ったのだろう。
セウラザは静かな口調のまま、確認してくる。
「夢の世界だって?」
「そうだ。まだ分かっていなかったのなら、すまない」
「いや。待て。確かに変わったところだが……」
ここが、普通の場所ではないことは分かっている。
不思議な世界の延長で、草原の上に浮いている巨大な岩山の中であるらしいことも分かっている。だが、「夢の世界」などと、子供のような言葉を使われると、馬鹿馬鹿しいと笑いだしたい気分になった。
嘲笑うようなな気持ちをおさえて、ラトスは家の中をぐるりと見回した。
ここは、確かに自分の家のように見える。
だが、何かが違うような気もした。胸に住み着く違和感の正体をさぐろうとして目を凝らし、眉根を寄せて考えた。結局、どこがどのように違うのか、ラトスにはなぜか分からなかった。
夢の世界だって?
このラトスの家のような場所も、エイスの城下街も、城下街の外の森も、なにか不思議な力が働いているだけではないのか。元の世界に戻りたいという、ラトスたちの隠れた気持ちに影響しているだけだ。ただひたすらに、思考力をかきみだし、錯覚させたり、理解力などを低下させたりしているに違いないと、ラトスは考えていた。
そう考えてはいたが、それが馬鹿馬鹿しい考えだということも分かっていた。だからこそ、これ以上の馬鹿馬鹿しい話は、受け入れがたかった。
「夢って、眠っている時の?」
少し混乱気味のラトスを横にして、メリーが少し興奮したように言った。
その問いに、セウラザは小さくうなずいた。
「本当に!? すごい!」
メリーは、子供のように目を輝かせた。
そして、自分の姿を見たり、部屋の中を見回したり、セウラザに近付いてその姿をながめはじめた。ラトスはまだ混乱していたが、メリーの姿を見ると、真面目に考えている自分のほうが馬鹿なのではという気がした。
「ここが、夢の世界だと? 真面目に言っているのか?」
「そうだ」
「……なんてことだ」
ラトスは大きく息を吐いて、両膝に手をついた。
確かに、あの森の中の沼での出来事から普通ではなかった。 ここに来るまでの景色も、現実的なものではなかった。
草原で出会ったペルゥも、ここは違う世界だと言っていた。
理解がおよばないので、現実的に考えることをラトスはとうに諦めていた。幻覚を見ているような、不思議な世界だということにしておこうと、曖昧な考えのまま無理やりに決めつけて、ここまで来ていた。
だが、夢の世界とは。
子供が読む、おとぎ話でもあるまいしと、ラトスは内心嘲笑った。
そして、その嘲笑いも思考を停止させ、今までのことを無視していることなのだと思うと、さらに自嘲するしかなかった。
「それで。その、セウラザ。お前は、何だって?」
「私は人形で、器のようなものだ」
「人形にしてはよく喋る」
「そうだな。少し、喋れる。身体を動かすことも出来る」
言いながら、セウラザは腕をふってみせた。
ラトスとは違い、メリーは警戒心をすべて解いていた。彼らの後ろにまで回りこんで、身体を動かすセウラザを、興味深そうに見ている。
「そちらの子も、セウラザさん?」
メリーの問いかけに、ラトスはぞくりとした。
セウラザの足元からはなれない少女を見下ろす。
少女の後ろにある暖炉の明かりが、小さな身体をゆらゆらと照らしている。金色の長い髪は、クモの糸のようにほそい。風もないのに、フワフワとゆれている。少女は、ラトスの視線になにも反応せず、じっと動かない。
「いや。この子は、この世界の住人の一人だ」
セウラザはそう言って、足元にいる少女の金色の髪を優しくなでた。だが少女はそれにも反応せず、虚ろな瞳で宙を見ている。
「シャーニ……か?」
ラトスは、小さな声で言った。
唇が少しふるえ、傷のある頬が少し引きつった。
「そうだ」
「……なぜ、ここに?」
「ラトス。ここは、君が今までいた世界ではない」
「……そうか。夢の世界と、お前は言ったな」
ラトスは、シャーニと呼んだその少女をそれ以上見ず、セウラザのほうへ顔を向けた。
セウラザの後ろで、メリーが、ハッとした表情をした。わずかに心配そうな表情をして、ラトスの顔をのぞいているような気がする。
「ここは、俺の夢の世界、なんだな」
吐き捨てるように、ラトスは言った。
顔をゆがめ、天井を見あげる。頭より少し高い位置に、明かりの付いたカンテラが一つ、ぶら下がっていた。カンテラは、風もないのに小さくゆっくりとゆれていた。その光景は、この半年の間、何度も妹の夢を見ているときに映っていた光景と同じだった。
現実は本当に最悪だと思っていたが、そんなことはない。
夢の中にまで来て、さらなる絶望を与えられると、誰が思うだろう。
「ああ。確かに。……ここは、俺の夢の中だ」
ゆれるカンテラを見ながら、ラトスは唇をむすんだ。
目の前と胸の奥に、黒い靄がゆっくりと渦巻いていくのが分かる。また少し、傷のある頬が引きつっていく。
直後、ラトスの視界は真っ暗になった。
木窓が全て閉ざされていて、空気が流れていないからだろうか。屋内の空気に息苦しさを感じながら、ラトスは腰の短剣をぬいた。
鞘からぬき切る瞬間、チンと金属音が鳴った。
その音が鳴るのと同時に、ラトスはまた一歩、家の中に足を踏み入れた。
床の木の板が、ギイときしむ。
その音は、この家に入る前に聞いた、木がきしむような音に似ていた。
木戸の先には、大小の鞄が、戸口から部屋の奥のほうまで十数ほどならんでいた。それぞれの鞄には、雑多に物が詰めこまれている。柄の長い道具などは、いくつか鞄の口から飛びだしていた。
鞄がならんでいる壁には、一本の剣がかかっていた。
その剣は、普通のものより剣身が長い。剣身の幅は、見たことがないほど広かった。ラトスの家には、こんなに大きな剣は飾られていないはずだった。
奥には、小さなテーブルと椅子がふたつあった。
その先に、小さな暖炉がある。暖炉の中には、火が入っていた。こぼれでた明かりが、床を濡らすようにチラチラと照らしている。
その暖炉のそばに、ふたつの人影があった。
一人は、ラトスと同じくらいの背の高さで、甲冑に身をつつんだ男だった。
男は、青みがかった黒の長髪で、髪の長さは肩にとどくほどだったが、綺麗に整えられていた。男はじっとこちらに顔を向けて立っていた。
その隣に寄り添うように、少女が立っていた。
「……シャーニ!?」
少女を見て、ラトスは思わず大きな声をあげた。
その大声に、甲冑の男と少女は、身動ぎひとつしなかった。二人とも、まるで人形のようだった。
甲冑の男に寄り添っている少女は、金色の長い髪が、腰のあたりまで伸びていた。
金色の髪の間から見える少女の顔が、暗闇の中からじっとラトスに向けられている。その顔、いや、その姿を、ラトスは見間違えるはずがなかった。
これは、死んだはずの妹、シャーニだ。
その姿を見て、ラトスは身体の奥底がかすかにふるえだした。斬殺されて、無残な姿になった妹を思い出したのだ。
生きているはずがない。
こんなところにいるはずがない。
この少女の身体には、血も、傷もない。何事も無かったかのように、こうして立っているはずがない。
身体の奥底のふるえは徐々に大きくなる。
胸の奥が、にぎりつぶされていくようだ。
ラトスは、もう一度会いたかったはずの妹の姿を見て、吐き気を感じた。
直後、ラトスの後ろで、ギイと木のきしむ音がした。メリーが、部屋に入ってきたのだ。屋内の様子を見ながら、ゆっくりとラトスの後ろに寄ってくる。彼女を横目で見て、ラトスはほそく、長く息を吐いた。
そうだ。
今は、悩んだり苦しんだりしている時ではない。
ラトスは湧き上がる感情を噛み殺し、少女から目をそむけて、短剣をにぎり直した。
甲冑の男をにらむように見て、数歩、ゆっくりと歩み寄る。すると、甲冑の男がゆっくりと頭を横にふった。
「この場での警戒は無用だ」
甲冑の男は、静かな声をラトスに投げてきた。
その声はひどく無感情で、熱がなかった。横にふった頭以外、身動き一つ取っていない。人間ではないのではないかと、ラトスは警戒する。
「おまえは何者だ」
ラトスは、目をほそめて言葉を返す。
短剣の柄をにぎる手に、力を入れた。甲冑の男は、もう一度頭を横にふった。
「簡潔に説明しよう」
甲冑の男がそう言うと、少しの間を置いてラトスは小さくうなずいた。
二人の様子を後ろで見ていたメリーから、唾を飲み込む音が聞こえた。
「私はセウラザという」
セウラザと名乗った甲冑の男は、左手をにぎって自分の胸を軽くたたきながら自己紹介をした。
草原で出会ったペルゥが言っていたのは、この男のことだろうか。後ろにいるメリーが、小さく手を打って、ああ! と言う。ラトスは、彼女が余計なことをしゃべらないよう、即座に手を向けて制止した。
「変わった名前だ」
「いや、名前ではない。私に名は付けられないのだ」
「どういうことだ」
「私はセウラザと呼ばれる人形であり、器なのだ」
セウラザは言いながら、一歩前に出た。
淡々と即答してくるセウラザの言葉を、ラトスはすぐに理解できなかった。
自分のことを人形だとか、器だとかいうのは、自虐的な何かなのだろうか。そう考えながら、ラトスの隣に寄ってきていたメリーを見た。彼女は、セウラザの言葉を聞いて、思考が止まってしまったようだ。口は半開きになっていて、目は泳いでいる。
「君は、ここが夢の世界だと分かっているのだろうか」
ラトスが困惑しているのを見て取ったのだろう。
セウラザは静かな口調のまま、確認してくる。
「夢の世界だって?」
「そうだ。まだ分かっていなかったのなら、すまない」
「いや。待て。確かに変わったところだが……」
ここが、普通の場所ではないことは分かっている。
不思議な世界の延長で、草原の上に浮いている巨大な岩山の中であるらしいことも分かっている。だが、「夢の世界」などと、子供のような言葉を使われると、馬鹿馬鹿しいと笑いだしたい気分になった。
嘲笑うようなな気持ちをおさえて、ラトスは家の中をぐるりと見回した。
ここは、確かに自分の家のように見える。
だが、何かが違うような気もした。胸に住み着く違和感の正体をさぐろうとして目を凝らし、眉根を寄せて考えた。結局、どこがどのように違うのか、ラトスにはなぜか分からなかった。
夢の世界だって?
このラトスの家のような場所も、エイスの城下街も、城下街の外の森も、なにか不思議な力が働いているだけではないのか。元の世界に戻りたいという、ラトスたちの隠れた気持ちに影響しているだけだ。ただひたすらに、思考力をかきみだし、錯覚させたり、理解力などを低下させたりしているに違いないと、ラトスは考えていた。
そう考えてはいたが、それが馬鹿馬鹿しい考えだということも分かっていた。だからこそ、これ以上の馬鹿馬鹿しい話は、受け入れがたかった。
「夢って、眠っている時の?」
少し混乱気味のラトスを横にして、メリーが少し興奮したように言った。
その問いに、セウラザは小さくうなずいた。
「本当に!? すごい!」
メリーは、子供のように目を輝かせた。
そして、自分の姿を見たり、部屋の中を見回したり、セウラザに近付いてその姿をながめはじめた。ラトスはまだ混乱していたが、メリーの姿を見ると、真面目に考えている自分のほうが馬鹿なのではという気がした。
「ここが、夢の世界だと? 真面目に言っているのか?」
「そうだ」
「……なんてことだ」
ラトスは大きく息を吐いて、両膝に手をついた。
確かに、あの森の中の沼での出来事から普通ではなかった。 ここに来るまでの景色も、現実的なものではなかった。
草原で出会ったペルゥも、ここは違う世界だと言っていた。
理解がおよばないので、現実的に考えることをラトスはとうに諦めていた。幻覚を見ているような、不思議な世界だということにしておこうと、曖昧な考えのまま無理やりに決めつけて、ここまで来ていた。
だが、夢の世界とは。
子供が読む、おとぎ話でもあるまいしと、ラトスは内心嘲笑った。
そして、その嘲笑いも思考を停止させ、今までのことを無視していることなのだと思うと、さらに自嘲するしかなかった。
「それで。その、セウラザ。お前は、何だって?」
「私は人形で、器のようなものだ」
「人形にしてはよく喋る」
「そうだな。少し、喋れる。身体を動かすことも出来る」
言いながら、セウラザは腕をふってみせた。
ラトスとは違い、メリーは警戒心をすべて解いていた。彼らの後ろにまで回りこんで、身体を動かすセウラザを、興味深そうに見ている。
「そちらの子も、セウラザさん?」
メリーの問いかけに、ラトスはぞくりとした。
セウラザの足元からはなれない少女を見下ろす。
少女の後ろにある暖炉の明かりが、小さな身体をゆらゆらと照らしている。金色の長い髪は、クモの糸のようにほそい。風もないのに、フワフワとゆれている。少女は、ラトスの視線になにも反応せず、じっと動かない。
「いや。この子は、この世界の住人の一人だ」
セウラザはそう言って、足元にいる少女の金色の髪を優しくなでた。だが少女はそれにも反応せず、虚ろな瞳で宙を見ている。
「シャーニ……か?」
ラトスは、小さな声で言った。
唇が少しふるえ、傷のある頬が少し引きつった。
「そうだ」
「……なぜ、ここに?」
「ラトス。ここは、君が今までいた世界ではない」
「……そうか。夢の世界と、お前は言ったな」
ラトスは、シャーニと呼んだその少女をそれ以上見ず、セウラザのほうへ顔を向けた。
セウラザの後ろで、メリーが、ハッとした表情をした。わずかに心配そうな表情をして、ラトスの顔をのぞいているような気がする。
「ここは、俺の夢の世界、なんだな」
吐き捨てるように、ラトスは言った。
顔をゆがめ、天井を見あげる。頭より少し高い位置に、明かりの付いたカンテラが一つ、ぶら下がっていた。カンテラは、風もないのに小さくゆっくりとゆれていた。その光景は、この半年の間、何度も妹の夢を見ているときに映っていた光景と同じだった。
現実は本当に最悪だと思っていたが、そんなことはない。
夢の中にまで来て、さらなる絶望を与えられると、誰が思うだろう。
「ああ。確かに。……ここは、俺の夢の中だ」
ゆれるカンテラを見ながら、ラトスは唇をむすんだ。
目の前と胸の奥に、黒い靄がゆっくりと渦巻いていくのが分かる。また少し、傷のある頬が引きつっていく。
直後、ラトスの視界は真っ暗になった。
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