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4話 如月兄妹仲直り大作戦《後編》
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「へぇ、そんなこと会長と話してたのか」
―あぁ、言ってしまった。今の時間は、16時。今いる場所は、屋上。今なら部活をやっている時間だが、今日は、どこの部活も休みだ。
(やっぱり、話しちゃったなぁ…)
俺は、今日目一杯悩んだ挙句、遊に会長との話を話すことにした。やはり、俺一人だけじゃ、いい方法が思いつかない気がするし、なんて言ったって、こいつもふわと関係があるやつだ。でも、やっぱり、1人で解決したいと言う気持ちが少しあった。けど、もう話したことだから仕方が無いと思った。
「それで…どんな方法なら解決できると思う?」
「うーん…まぁ、明日の朝にでも直接話しかけてみたら? お兄さんが許して欲しいって言ってたって。あぁ、後、それかプリン買いに行くとか?」
「買いに行くっていっても… 俺らで?あのお店って、ほとんどが女子なんでしょ? 気まずいんだけど…」
「あぁ…そっかぁ…」
面倒臭いなー と口を尖らせて遊は、言った。俺は少し足元を見た。出来れば、他の人を巻き込みたくはなかった。自分1人で何とかしようと思っていた。髪でいじめられたときとか遊に助けて貰ってたし、というか、なんだかんだ、遊に助けて貰っているときが多い。俺は、遊に甘えているのだろうか。遊に話せば何とかなるとおもっているのか。俺が遊を助けたことなんて―…
1人で考えていたとき、遊が俺の背中をとんと叩いて「まぁまぁ、そんなに1人で考え込むなよ。」と言った。俺が振り返ると遊は、微笑んでいた。
「遊…」
「一緒に何とかしていこうぜ」
と歯を出して、ニカッと笑った。いつもなら、俳優のような爽やかな笑顔でいろんな人に対応しているが、今は、何処と無く違う雰囲気があった。田舎の少年が珍しい昆虫か何かをとって喜んでいるような。そして、誰かに自慢げに笑っているような。あまり見ない顔に俺もつられて笑ってしまった。その顔は、眩しい太陽に照らされて、さらに輝いて見えた。すると遊は、ふっとその顔を辞めて、顎に手を当て、考える素振りをしながらこう言った。
「なぁ、思ったんだけどさ。プリンだけのことでこんなとこなるのか? そこまでしてか…?」
「あぁ、それは俺も思った」
「まさか、会長さんがプリンが好きだったとはなぁ~」
「それ。初めて知ったわ。 それで…対策は…?」
「うーん… ずっとここにいるのもあれだからなぁー…」
と言った後、俺の方に顔を向けて、
「今から夢羽の家に行ってもいい?」
と聞いてきた。最初は、えっ と思ったが、対策を練るためだ、仕方が無い という考えになっていき、「分かった」と返事をしてしまった。言った後には、もう遅かった。「本当か! じゃ、今すぐ夢羽の家に行こうか」とキラキラと目を輝かせて言った。遊を俺の家へ連れて行くのは、いつぶりだろう。高校は忙しくて、なかなか一緒に勉強したり、遊んだりする暇があまりなかった。今の時間は、4時半。親もまだ帰ってこないだろう。俺たちは、屋上から出た。そして、3階へ2階へと降りていった。学校の中は、シーンと静まり返っていた。俺達がちょうど生徒会室の前を通った時だった。中から「うわぁぁ」という、叫び声が聞こえてきた。何があったのかと俺は、気になり、生徒会室の前で足を止めた。遊も同じく生徒会室の前で立ち止まった。その後に「うぅぅ…」という、呻き声も耳に入ってきた。
「…さっき、何か叫び声が聞こえたよな…?」と遊が恐る恐る聞いてきたので、俺は、「うん、聞こえてきた」と別に大したことの無いように言った。多分いるのは…だいたい検討は、ついていた。
「中に入ってみるか」と俺が遊に聞くと、
遊は、「俺は、いいや」と言った後に、「だって、幽霊とかだったら怖いし」と少し震え気味でボソッと言った。
「…そんなに怖いか?」
「と、とりあえず行ってこいよ…!」
さっきの屋上で見せた笑いはどこいったよ… 遊の顔から笑顔は抜けきっていた。逆にちょっと青ざめているような… 本気で怖がっているのだと思い、俺は1人で生徒会室に入ることにした。軽くノックをしてから「失礼します」と朝よりもしっかりとした声で言った。そして、ドアを開けると、中には、1人倒れている会長を発見した。転んだのだろう、会長の周りには色々な本や資料やらが散らばっていた。
「うぅぅ… 痛いぃ… って、あ!……夢羽君、さっきの叫び声聞こえてた…?」
「…はい。バリバリ聞こえてましたよ」
「…そうなんだ……は、恥ずかしいぃ…」
会長は立ち上がって、赤くなっていく顔を手で覆って隠した。顔を隠したまま、「結構、こういうことが多いんだよねぇ…」ともごもごと言った。「そうなんですか」と俺は言いながら、散らばっている本や資料を拾った。チラッとドアの方に目を向けると、ドアの隙間から遊が覗いていた。「入ってこいよ」と俺が言うと、「…失礼します」と様子を伺うように入ってきた。
「遊君…! 君いつからここに…!?」
会長は顔を覆っている手の間から遊のことを見た。
「い、いえ…ずっとドアの前に居ましたけど…」と遊は少しオドオドした感じで言った。そろそろ手を外してもいいんじゃないか と考えているうちに散らばっていたものはすっかり無くなっていて、会長の机に置かれていた。無意識に手が動いていたのか? 俺そんなに仕事早い人だっけ? まぁ、いいや。俺は2人のことをジイッと見た。2人とも何も話そうとしない。そんな2人に向かって、「あの…」と声をかけた。2人はバッとこっちを見た。会長はいつの間にか覆っていた手を退かしていた。俺は会長に向かってこう言った。
「会長、俺の家来ませんか?」
ニッコリとハッキリと言った。言ったすぐ後、後悔した。「あっ」と小さく呻いて、2人から目線を逸らした。会長は俺に歩み寄ってきて、「いいのかい…?」と慎重に言って、首を傾げた。純粋な目で何かを訴えかけるような感じで。
「い、いえ…これは…その…」
何とかして誤魔化そうとしたが無理だった。遊は付け足すようにして「夢羽、別にいいんじゃないか? ちょうど会長もいることだし」と問いかけてきた。さっきと同じような考えだ。ここまで来たなら仕方が無い。俺は少しため息混じりで
「……はい…いいですよ」と答えた。
「…でも…本当にいいのかい? ご家族もいるんじゃないのかな…?」
「それについては大丈夫ですよ。多分仕事で帰って来てないと思います」
「そうなのか。では、僕も行こうかな」
とニコニコしながら言った。そして会長は俺に伝わるくらいの小さな声で「僕、あまり他の人の家に行くことがないんだよねぇ…」と帰る準備をしながら言った。
どこかちょっと嬉しそうな感じで。でも、表情は少し暗かった気がした。もしかしたら、会長は友達が少ないのか…? そもそも、仕事が忙しくて遊んでいられないとか…?色々な可能性が脳内を横切って行った。理由は質問する時にでも聞けばいいか。これが解決すれば聞けるんだ。自分でうんうんと頷きながら納得させていた。
「それじゃ、行きますよー…」
と俺は少し怠げに言ったが、2人は行く気満々で「はーい!」と手を挙げて言った。「遊ぶんじゃないからな…?」と言ってから、俺達は生徒会室を出た。
そして俺達は学校を出た。家に着くまで俺達は世間話をしながら歩いて行った。最終的には学校がどうのこうのと言う話になっていた。しばらく歩いていると、俺の家が見えてきた。
「ここが俺の家です」と自分の家を指差しながら言うと会長は「おぉ、あれが夢羽君の家かぁ~」と少し目を見開いて言った。初めて見る人には少し大きい家だなと思う人も多いだろう。青い屋根が目立つ家だ。でも中は天井が高いだけで特に変わりのない家だと俺は思う。そして俺達は家の前まで着いた。親の車が無いことを確認してから「どうぞ」と行って家に上がらせた。2人は「お邪魔します」といって靴をキッチリ揃えて上がった。俺は居間に案内した。改めて思うが友達を家に上がらせるのは久しぶりだ。遊はいつぶりだろうか。俺は居間のドアを少し開けて、物が片付いているかを確認してから、ガラッと開けた。
「ここが居間です。会長」
「おぉ…!綺麗だねぇ…!」
「夢羽の家久しぶりだなぁ」と2人は口々に言って、居間へ入った。
「とりあえず、そのソファに座ってて。俺飲み物あるか確認してくる」
と2、3人座れるくらいのソファだ。抹茶のような緑色で、座り心地のよいソファ。クリーム色の木でできた四角いテーブルを挟んで、同じソファがある。2人はちょこんと座った。俺は冷蔵庫の方に歩いていき、中身を確認した。
「何か飲み物は…… あ、あった」
俺はお茶を取り出し、コップに継いだ。ついでにプリンも3つあったから皿に乗っけて、2人に出した。
「おぉ…! プリン…!!」
会長は素早く反応した。それからじっとプリンを見つめていた。右隣に座っている遊はお茶を飲み始めていた。俺は会長と遊の正面に向かって座った。
「それじゃ、始めますか」
という2人への掛け声から作戦会議は始まった。
……あれからどれくらい時間が経っただろうか?俺はふと壁にかかっている白色で針や数字は黒色の白黒な時計に目をやった。今の時間は6時。あまりいい案は出てこなかった。屋上で話していた遊の考えに会長は賛成した。でも、強いて言うなら新しい案として『自分達で作ってみる』という案を俺は出したが、2人はうーんと唸っていた。遊は「あまりお菓子作ったことないからなー」と考える様にして言っていた。会長は「僕は食べること専門で、作ること専門では…」と言ってからお茶を啜っていた。俺はちらりとプリンを見た。2人とも皿にはプリンが残っていなかった。
「…なぁ、そろそろ帰った方がいいよな…?」
と遊は俺を見ながら言った。その後に続いて会長も「うん、そうだねぇ」と頷きながら言った。
「分かった。とりあえず今日はここまでで。2人とも何かいい考えがあったら教えてくれよな」と俺は言った。ここまでと言っても、早く解決した方がいいのだが… ふわの機嫌もどうなるか分からない。遊は「おう、分かった」とグッと親指を立てて言った。会長は「りょーかい」とのほほんとした感じで言った。
「それじゃ、夢羽、また明日」
「夢羽君、さようなら」
2人は立ち上がって、帰る準備をした。
「俺、見送るよ」と言って、俺も立ち上がり、伸びをした。そして、俺達は家の外を出た。2人はしっかり「お邪魔しました」と俺に言ってから、遊は「じゃあねー」といい、ブンブンと手を振っていた。と言っても、遊の家は俺のすぐ近くだった。会長は1人で帰って行ったが、家に向かう時よりも少し足取りが軽くなっているような気がした。2人の姿が見えなくなるまで俺はそこに立っていた。外はまだ日は出ていたが、空は少しオレンジがかっていた。烏が空で9、10羽くらいの群れを作って、カァ、カァと鳴いていた。そして、電線へと止まった。
「………よし、行くか」
俺は1人で行きたい場所があった。2人の姿が見えなくなったことを確認してから、俺は何も持たず、あの場所目掛けて、少し早歩きで歩いて行った。
「……ゴメンなって…烏丸」
そう、俺が来たのは学校の近くの古ぼけたいつも行っている図書館。その屋根には3羽の烏が止まっていた。俺がドアの前で立ち止まると1羽が俺をめがけて一直線に飛んできた。そして頭に止まる。いつもならパンのカスやちょっとした余り物などをあげているが、今日は何も無い。烏丸はずっと俺の頭をつっついていた。
「ちょ…痛いっ、痛いって…」
やたらと腹が減っているのか、何か食べたいのかよく分からないが、よくつっついてくる。俺が手で引っ張ろうとするが、今度は手をつっついてきて、軽く頭を振っても、なかなか離れようとしない。だったら……
「っ… やめろ!!」
俺は1音1音ハッキリと大声で言った。屋根に止まっていた烏がバサバサッと音を立てて、どこかへ飛んで行ってしまった。肝心の烏丸はすこし驚いたのか、つっつくのを止め、俺の頭を離れ、次は肩へ止まった。
「ふぅ… まだ、頭よりはマシか…?あ…懐中電灯持ってくるんだったな…失敗したー…」
俺はそう言いながら、ドアを開けた。ギィィィ。いつも鳴るこの鈍い音。何故か今日は1層鈍く感じられた。
なぜ、俺がここに来たのか。それは、プリンのことだった。『自分達で作る』ということを俺はまだ諦めてはいなかった。これを機にプリンの作り方も覚えればいいだろう。会長はプリンが大好物だって言うし。少しはお菓子も作れるようになってみたいと思っているし。それで俺は何か図書館に本がないかと探しに来た。
「やっぱり、ちょっと暗いな…」
結構遅い時間だ。中は暗く、少し不気味だった。烏丸がカァ、カァと鳴くと、より不気味さを引き立てた。
「早く見つけて、早く帰ろう… さて…料理の本がある棚は何処だ…?」
俺は中を歩いて探した。やはり、歩く度に微かに床がギシギシと音を立てていた。この図書館の本の数は数えていないが、沢山あるだろう。そして、様々な種類の本がある。その中から料理の本を探すのだ。
「…ここは…伝記ものか…? 暗くてよく見えないな…」
俺は目を凝らしてみたが、暗くて、よく見えなかった。これじゃ、見つからない と思っていた時だった。突然、烏丸が「カァァァ!」と羽をばたつかせて、俺の肩から飛んだ。
「あ!ちょ!おい…!」
俺は烏丸を追った。カラスは黒いし、中も暗い。同じような色合いの中、烏丸の飛んで行く方向へ俺もついて行った。そして、烏丸の近くへ来たとき、ガサゴソと言う音がした。何をしているか分からなかった。けれど、何かを引っ張っているということは分かった。
「烏丸、何してるんだよ…?」
俺はそう言った。烏丸は俺の声に気づいたのか、口に何かを咥えて、戻ってきた。そして、肩の上へと着地した。俺は少し厚みのある本を受け取った。そこにはこんな題名が書かれていた。
「…スイーツ特集…? まさか…」
パラパラとページをめくってみると、そこには色々なスイーツの作り方が書かれていた。マカロン、タルト、ブッシュドノエル、シュークリーム、ババロア、プリンなど幅広く… プリン―…?
「おぉ!! あったー! 烏丸、よくやったなぁ!」
今までにないくらいの明るく、喜んだ声で叫ぶように言った。図書館の中にキラキラと輝いている声が少し響いてから、暗闇にすぅと消えた。古い木と木の隙間から見えた景色は、少し明るい紺色の絵の具を、空に溶かしたような暗さだった。日は落ちかけているだろう。
俺は笑顔で、烏丸の頭を撫でた。それから「早く帰ろう」と図書館の外へ出ようと歩き出した時だった。
…痛い―… 頭がクラクラしてハンマーで叩かれているようにズキズキと痛む。そして、目の前がぐにゃりと歪んで見えた。息が浅い。烏丸が鳴いている。でも、その声が逆に俺の頭を刺激して、さらに痛む。
「っ… ぐっ… ぁ…」
声もまともに出ない。俺はその場に倒れるように座った。
……やばい、立っていられない。そろそろ帰らなきゃ親も心配するのに。宿題も残ってるし…。そう思っていても、足が動いてくれない。と言うか、力が入らない。じわじわと力が抜け落ちていくような感じがした。急に歳でもとったかのように。とうとう、俺は全身の力が抜け、その場に倒れ込んだ。床はひんやりと冷たかった。本はプリンの作り方が書かれてあるページが開いたまま、バサッと音を立てて落ちた。そして、最後に襲ってきたのは、猛烈な眠気だった。
この感覚は… いつか感じたことのあるような…
俺は瞼をゆっくりと閉じた。最後の力を振り絞って、烏丸が取ってくれた本の上に手を添えた。最後に俺の耳に突き刺すように入ってきたのは、烏丸が「カァー!!」と泣き叫ぶように鳴いていた声だった。それを最後にして、俺は少し肌寒くて、不気味な図書館の中で寝てしまった。
―あぁ、言ってしまった。今の時間は、16時。今いる場所は、屋上。今なら部活をやっている時間だが、今日は、どこの部活も休みだ。
(やっぱり、話しちゃったなぁ…)
俺は、今日目一杯悩んだ挙句、遊に会長との話を話すことにした。やはり、俺一人だけじゃ、いい方法が思いつかない気がするし、なんて言ったって、こいつもふわと関係があるやつだ。でも、やっぱり、1人で解決したいと言う気持ちが少しあった。けど、もう話したことだから仕方が無いと思った。
「それで…どんな方法なら解決できると思う?」
「うーん…まぁ、明日の朝にでも直接話しかけてみたら? お兄さんが許して欲しいって言ってたって。あぁ、後、それかプリン買いに行くとか?」
「買いに行くっていっても… 俺らで?あのお店って、ほとんどが女子なんでしょ? 気まずいんだけど…」
「あぁ…そっかぁ…」
面倒臭いなー と口を尖らせて遊は、言った。俺は少し足元を見た。出来れば、他の人を巻き込みたくはなかった。自分1人で何とかしようと思っていた。髪でいじめられたときとか遊に助けて貰ってたし、というか、なんだかんだ、遊に助けて貰っているときが多い。俺は、遊に甘えているのだろうか。遊に話せば何とかなるとおもっているのか。俺が遊を助けたことなんて―…
1人で考えていたとき、遊が俺の背中をとんと叩いて「まぁまぁ、そんなに1人で考え込むなよ。」と言った。俺が振り返ると遊は、微笑んでいた。
「遊…」
「一緒に何とかしていこうぜ」
と歯を出して、ニカッと笑った。いつもなら、俳優のような爽やかな笑顔でいろんな人に対応しているが、今は、何処と無く違う雰囲気があった。田舎の少年が珍しい昆虫か何かをとって喜んでいるような。そして、誰かに自慢げに笑っているような。あまり見ない顔に俺もつられて笑ってしまった。その顔は、眩しい太陽に照らされて、さらに輝いて見えた。すると遊は、ふっとその顔を辞めて、顎に手を当て、考える素振りをしながらこう言った。
「なぁ、思ったんだけどさ。プリンだけのことでこんなとこなるのか? そこまでしてか…?」
「あぁ、それは俺も思った」
「まさか、会長さんがプリンが好きだったとはなぁ~」
「それ。初めて知ったわ。 それで…対策は…?」
「うーん… ずっとここにいるのもあれだからなぁー…」
と言った後、俺の方に顔を向けて、
「今から夢羽の家に行ってもいい?」
と聞いてきた。最初は、えっ と思ったが、対策を練るためだ、仕方が無い という考えになっていき、「分かった」と返事をしてしまった。言った後には、もう遅かった。「本当か! じゃ、今すぐ夢羽の家に行こうか」とキラキラと目を輝かせて言った。遊を俺の家へ連れて行くのは、いつぶりだろう。高校は忙しくて、なかなか一緒に勉強したり、遊んだりする暇があまりなかった。今の時間は、4時半。親もまだ帰ってこないだろう。俺たちは、屋上から出た。そして、3階へ2階へと降りていった。学校の中は、シーンと静まり返っていた。俺達がちょうど生徒会室の前を通った時だった。中から「うわぁぁ」という、叫び声が聞こえてきた。何があったのかと俺は、気になり、生徒会室の前で足を止めた。遊も同じく生徒会室の前で立ち止まった。その後に「うぅぅ…」という、呻き声も耳に入ってきた。
「…さっき、何か叫び声が聞こえたよな…?」と遊が恐る恐る聞いてきたので、俺は、「うん、聞こえてきた」と別に大したことの無いように言った。多分いるのは…だいたい検討は、ついていた。
「中に入ってみるか」と俺が遊に聞くと、
遊は、「俺は、いいや」と言った後に、「だって、幽霊とかだったら怖いし」と少し震え気味でボソッと言った。
「…そんなに怖いか?」
「と、とりあえず行ってこいよ…!」
さっきの屋上で見せた笑いはどこいったよ… 遊の顔から笑顔は抜けきっていた。逆にちょっと青ざめているような… 本気で怖がっているのだと思い、俺は1人で生徒会室に入ることにした。軽くノックをしてから「失礼します」と朝よりもしっかりとした声で言った。そして、ドアを開けると、中には、1人倒れている会長を発見した。転んだのだろう、会長の周りには色々な本や資料やらが散らばっていた。
「うぅぅ… 痛いぃ… って、あ!……夢羽君、さっきの叫び声聞こえてた…?」
「…はい。バリバリ聞こえてましたよ」
「…そうなんだ……は、恥ずかしいぃ…」
会長は立ち上がって、赤くなっていく顔を手で覆って隠した。顔を隠したまま、「結構、こういうことが多いんだよねぇ…」ともごもごと言った。「そうなんですか」と俺は言いながら、散らばっている本や資料を拾った。チラッとドアの方に目を向けると、ドアの隙間から遊が覗いていた。「入ってこいよ」と俺が言うと、「…失礼します」と様子を伺うように入ってきた。
「遊君…! 君いつからここに…!?」
会長は顔を覆っている手の間から遊のことを見た。
「い、いえ…ずっとドアの前に居ましたけど…」と遊は少しオドオドした感じで言った。そろそろ手を外してもいいんじゃないか と考えているうちに散らばっていたものはすっかり無くなっていて、会長の机に置かれていた。無意識に手が動いていたのか? 俺そんなに仕事早い人だっけ? まぁ、いいや。俺は2人のことをジイッと見た。2人とも何も話そうとしない。そんな2人に向かって、「あの…」と声をかけた。2人はバッとこっちを見た。会長はいつの間にか覆っていた手を退かしていた。俺は会長に向かってこう言った。
「会長、俺の家来ませんか?」
ニッコリとハッキリと言った。言ったすぐ後、後悔した。「あっ」と小さく呻いて、2人から目線を逸らした。会長は俺に歩み寄ってきて、「いいのかい…?」と慎重に言って、首を傾げた。純粋な目で何かを訴えかけるような感じで。
「い、いえ…これは…その…」
何とかして誤魔化そうとしたが無理だった。遊は付け足すようにして「夢羽、別にいいんじゃないか? ちょうど会長もいることだし」と問いかけてきた。さっきと同じような考えだ。ここまで来たなら仕方が無い。俺は少しため息混じりで
「……はい…いいですよ」と答えた。
「…でも…本当にいいのかい? ご家族もいるんじゃないのかな…?」
「それについては大丈夫ですよ。多分仕事で帰って来てないと思います」
「そうなのか。では、僕も行こうかな」
とニコニコしながら言った。そして会長は俺に伝わるくらいの小さな声で「僕、あまり他の人の家に行くことがないんだよねぇ…」と帰る準備をしながら言った。
どこかちょっと嬉しそうな感じで。でも、表情は少し暗かった気がした。もしかしたら、会長は友達が少ないのか…? そもそも、仕事が忙しくて遊んでいられないとか…?色々な可能性が脳内を横切って行った。理由は質問する時にでも聞けばいいか。これが解決すれば聞けるんだ。自分でうんうんと頷きながら納得させていた。
「それじゃ、行きますよー…」
と俺は少し怠げに言ったが、2人は行く気満々で「はーい!」と手を挙げて言った。「遊ぶんじゃないからな…?」と言ってから、俺達は生徒会室を出た。
そして俺達は学校を出た。家に着くまで俺達は世間話をしながら歩いて行った。最終的には学校がどうのこうのと言う話になっていた。しばらく歩いていると、俺の家が見えてきた。
「ここが俺の家です」と自分の家を指差しながら言うと会長は「おぉ、あれが夢羽君の家かぁ~」と少し目を見開いて言った。初めて見る人には少し大きい家だなと思う人も多いだろう。青い屋根が目立つ家だ。でも中は天井が高いだけで特に変わりのない家だと俺は思う。そして俺達は家の前まで着いた。親の車が無いことを確認してから「どうぞ」と行って家に上がらせた。2人は「お邪魔します」といって靴をキッチリ揃えて上がった。俺は居間に案内した。改めて思うが友達を家に上がらせるのは久しぶりだ。遊はいつぶりだろうか。俺は居間のドアを少し開けて、物が片付いているかを確認してから、ガラッと開けた。
「ここが居間です。会長」
「おぉ…!綺麗だねぇ…!」
「夢羽の家久しぶりだなぁ」と2人は口々に言って、居間へ入った。
「とりあえず、そのソファに座ってて。俺飲み物あるか確認してくる」
と2、3人座れるくらいのソファだ。抹茶のような緑色で、座り心地のよいソファ。クリーム色の木でできた四角いテーブルを挟んで、同じソファがある。2人はちょこんと座った。俺は冷蔵庫の方に歩いていき、中身を確認した。
「何か飲み物は…… あ、あった」
俺はお茶を取り出し、コップに継いだ。ついでにプリンも3つあったから皿に乗っけて、2人に出した。
「おぉ…! プリン…!!」
会長は素早く反応した。それからじっとプリンを見つめていた。右隣に座っている遊はお茶を飲み始めていた。俺は会長と遊の正面に向かって座った。
「それじゃ、始めますか」
という2人への掛け声から作戦会議は始まった。
……あれからどれくらい時間が経っただろうか?俺はふと壁にかかっている白色で針や数字は黒色の白黒な時計に目をやった。今の時間は6時。あまりいい案は出てこなかった。屋上で話していた遊の考えに会長は賛成した。でも、強いて言うなら新しい案として『自分達で作ってみる』という案を俺は出したが、2人はうーんと唸っていた。遊は「あまりお菓子作ったことないからなー」と考える様にして言っていた。会長は「僕は食べること専門で、作ること専門では…」と言ってからお茶を啜っていた。俺はちらりとプリンを見た。2人とも皿にはプリンが残っていなかった。
「…なぁ、そろそろ帰った方がいいよな…?」
と遊は俺を見ながら言った。その後に続いて会長も「うん、そうだねぇ」と頷きながら言った。
「分かった。とりあえず今日はここまでで。2人とも何かいい考えがあったら教えてくれよな」と俺は言った。ここまでと言っても、早く解決した方がいいのだが… ふわの機嫌もどうなるか分からない。遊は「おう、分かった」とグッと親指を立てて言った。会長は「りょーかい」とのほほんとした感じで言った。
「それじゃ、夢羽、また明日」
「夢羽君、さようなら」
2人は立ち上がって、帰る準備をした。
「俺、見送るよ」と言って、俺も立ち上がり、伸びをした。そして、俺達は家の外を出た。2人はしっかり「お邪魔しました」と俺に言ってから、遊は「じゃあねー」といい、ブンブンと手を振っていた。と言っても、遊の家は俺のすぐ近くだった。会長は1人で帰って行ったが、家に向かう時よりも少し足取りが軽くなっているような気がした。2人の姿が見えなくなるまで俺はそこに立っていた。外はまだ日は出ていたが、空は少しオレンジがかっていた。烏が空で9、10羽くらいの群れを作って、カァ、カァと鳴いていた。そして、電線へと止まった。
「………よし、行くか」
俺は1人で行きたい場所があった。2人の姿が見えなくなったことを確認してから、俺は何も持たず、あの場所目掛けて、少し早歩きで歩いて行った。
「……ゴメンなって…烏丸」
そう、俺が来たのは学校の近くの古ぼけたいつも行っている図書館。その屋根には3羽の烏が止まっていた。俺がドアの前で立ち止まると1羽が俺をめがけて一直線に飛んできた。そして頭に止まる。いつもならパンのカスやちょっとした余り物などをあげているが、今日は何も無い。烏丸はずっと俺の頭をつっついていた。
「ちょ…痛いっ、痛いって…」
やたらと腹が減っているのか、何か食べたいのかよく分からないが、よくつっついてくる。俺が手で引っ張ろうとするが、今度は手をつっついてきて、軽く頭を振っても、なかなか離れようとしない。だったら……
「っ… やめろ!!」
俺は1音1音ハッキリと大声で言った。屋根に止まっていた烏がバサバサッと音を立てて、どこかへ飛んで行ってしまった。肝心の烏丸はすこし驚いたのか、つっつくのを止め、俺の頭を離れ、次は肩へ止まった。
「ふぅ… まだ、頭よりはマシか…?あ…懐中電灯持ってくるんだったな…失敗したー…」
俺はそう言いながら、ドアを開けた。ギィィィ。いつも鳴るこの鈍い音。何故か今日は1層鈍く感じられた。
なぜ、俺がここに来たのか。それは、プリンのことだった。『自分達で作る』ということを俺はまだ諦めてはいなかった。これを機にプリンの作り方も覚えればいいだろう。会長はプリンが大好物だって言うし。少しはお菓子も作れるようになってみたいと思っているし。それで俺は何か図書館に本がないかと探しに来た。
「やっぱり、ちょっと暗いな…」
結構遅い時間だ。中は暗く、少し不気味だった。烏丸がカァ、カァと鳴くと、より不気味さを引き立てた。
「早く見つけて、早く帰ろう… さて…料理の本がある棚は何処だ…?」
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「…ここは…伝記ものか…? 暗くてよく見えないな…」
俺は目を凝らしてみたが、暗くて、よく見えなかった。これじゃ、見つからない と思っていた時だった。突然、烏丸が「カァァァ!」と羽をばたつかせて、俺の肩から飛んだ。
「あ!ちょ!おい…!」
俺は烏丸を追った。カラスは黒いし、中も暗い。同じような色合いの中、烏丸の飛んで行く方向へ俺もついて行った。そして、烏丸の近くへ来たとき、ガサゴソと言う音がした。何をしているか分からなかった。けれど、何かを引っ張っているということは分かった。
「烏丸、何してるんだよ…?」
俺はそう言った。烏丸は俺の声に気づいたのか、口に何かを咥えて、戻ってきた。そして、肩の上へと着地した。俺は少し厚みのある本を受け取った。そこにはこんな題名が書かれていた。
「…スイーツ特集…? まさか…」
パラパラとページをめくってみると、そこには色々なスイーツの作り方が書かれていた。マカロン、タルト、ブッシュドノエル、シュークリーム、ババロア、プリンなど幅広く… プリン―…?
「おぉ!! あったー! 烏丸、よくやったなぁ!」
今までにないくらいの明るく、喜んだ声で叫ぶように言った。図書館の中にキラキラと輝いている声が少し響いてから、暗闇にすぅと消えた。古い木と木の隙間から見えた景色は、少し明るい紺色の絵の具を、空に溶かしたような暗さだった。日は落ちかけているだろう。
俺は笑顔で、烏丸の頭を撫でた。それから「早く帰ろう」と図書館の外へ出ようと歩き出した時だった。
…痛い―… 頭がクラクラしてハンマーで叩かれているようにズキズキと痛む。そして、目の前がぐにゃりと歪んで見えた。息が浅い。烏丸が鳴いている。でも、その声が逆に俺の頭を刺激して、さらに痛む。
「っ… ぐっ… ぁ…」
声もまともに出ない。俺はその場に倒れるように座った。
……やばい、立っていられない。そろそろ帰らなきゃ親も心配するのに。宿題も残ってるし…。そう思っていても、足が動いてくれない。と言うか、力が入らない。じわじわと力が抜け落ちていくような感じがした。急に歳でもとったかのように。とうとう、俺は全身の力が抜け、その場に倒れ込んだ。床はひんやりと冷たかった。本はプリンの作り方が書かれてあるページが開いたまま、バサッと音を立てて落ちた。そして、最後に襲ってきたのは、猛烈な眠気だった。
この感覚は… いつか感じたことのあるような…
俺は瞼をゆっくりと閉じた。最後の力を振り絞って、烏丸が取ってくれた本の上に手を添えた。最後に俺の耳に突き刺すように入ってきたのは、烏丸が「カァー!!」と泣き叫ぶように鳴いていた声だった。それを最後にして、俺は少し肌寒くて、不気味な図書館の中で寝てしまった。
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