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2話 嫌いな赤、好きな貴方
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「貴方は何色が好き?」
女性がくるりと俺の方を振り返って聞いてきた。初めて見た、女性の前姿。顔はまだ靄がかかっていて見えない。容姿は変わっていないが、変わっている部分が1つあった。それは、声だった。幼く、無邪気な声だった。何処と無くふわと似ている気がした。とりあえず俺は、素直に質問に答えることにした。
「…俺は、赤色が好きかな」
「なんで?」
「好きになった理由は…」
「…ふふっ、そうなのね。赤色に何か大切な思い出があるのね」
くるりと女性は、後ろを振り返った。
幼さ、無邪気さはどこかに行き、声がいつも通りに戻っていた。しかも、俺の考えを見透かすかのように言った。その通りだった。俺が赤色を好きな理由は、夢月が関係していた。俺が小学生の頃にクリスマスに夢月から赤いセーターをもらった。それも、初恋の相手に。あの時の思い出は、今でも一生忘れられない思い出となった。
俺は、「何でそんなこと聞くんだよ」と言いかけたときだった。
「でもね、私は…… 赤色が大っ嫌いよ」
女性は、冷たく言葉を吐き捨てた。どんな顔で、どんな気持ちで言ったのだろう。
「なんで… っ!?」
何故か分からないが、体のあちこちが痛い。まるで、骨を折られているような、太い針で刺されているような感じで体のあちこちがズキズキと痛む。どこから来たんだこの痛み。あまりの痛みに耐えてられず、地面に膝を着いた。ハッと下を見てみると白い地面が赤黒く染まっていた。
「なんだ… これ、血…?」
「赤… 痛くて、苦しくて… 嫌いよ…」
その女性は、この言葉の他にも何かブツブツと言っているのが聞こえたが、痛みで意識が朦朧としていため、言葉が聞き取れなかった。でも、最後の言葉は、聞こえた。女性は、力強くこう言っていた。
「貴方が持っている本だけは、何としてでも捨てないで―」
と。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
とても悪い目覚めだ。あんな夢を見るなんて。冷や汗が止まらない。俺は、ベッドから落ちていた。けど、今朝の夢のせいで痛みなんて感じていなかった。今は、午前9時。いつもなら学校に行っているが、今日は日曜日。今日が休みでよかった。ふと、窓の外を見てみるとサァサァと小雨が降っていた。
「夢月が交通事故にあった時もこんな感じだったな…」
俺は、外をぼんやりと眺めながら、ぽつりと呟いた。思い出すと心がズキズキと痛んでくる。そして、立ち上がり、机の中にしまってある本を取り出そうとした瞬間、下から元気な母の声が聞こえた。
「ちょっとー、夢羽ー! まだ起きてないのー?」
「起きてる、起きてるー! 今下行くからー! …びっくりした…」
俺は、本を取り出すのをやめ、一旦居間へ降りていった。
「今日は、起きるの遅かったわね。 どうしたのよ?」
「いや、別に… あぁ、ほら今日学校休みじゃん? だから、まだ寝ててもいいかなぁ~… って」
「本当~?」
「本当だよ」
俺は、とりあえず学校がないから遅く起きたという設定にしておいた。そういえば、夢のことはまだ誰にも話してない。仲のいいふわや遊にも話していなければ、親にも話していない。「いつかは話しておいた方がいいかなぁ~…」とぼんやり考えていた。
「あっ! そう言えば、今日、休みだから押し入れの整理をしてたのよ。夢羽にとって懐かしいものがの押し入れから出てきたのよ!」
「俺にとって、懐かしいもの…?」
「ふふ、これ分かるかしら?」
にこにこしながら母が俺に見せてきたのは、赤色のセーターだった。胸元に白いハートが縫ってあるセーター。間違いなくそうだ。これ、夢月が作ってくれたものそのものだった。
「これ… 夢月が作ってくれたセーターだよな…?」
「うんうん、夢羽が小学生の頃、このセーターをもらって、とっても喜んでいたわよね」
「うん、あの時は、本当に嬉しかったよ」
俺は、朝食を軽めに摂り、2階の自分の部屋へ戻った。セーターと共に。まだ雨は、小雨だった。俺は、机の上にセーターを置き、机の中にしまってある本を取り出した。それから、椅子に座って、中身を確認してみた。
「…なーんだ、やっぱり何も書いてないじゃん」
あの時の文字は消えていた。やっぱりあの時は、目が疲れていたのではないかと思ったときだった。
「ん…なんだか急に…眠く…」
俺は、強烈な眠気に襲われ、椅子に座りながらうつ伏せで寝てしまった。
「…今朝は、ごめんなさい」
「ん…?」
あの女性の声。俺は、ゆっくりと重い瞼をあけた。
「あんなに辛い思いをさせてしまって…」
その言葉の後に女性は、何か小声で言っていたが、はっきりと聞こえなかった。
俺は、周りを見渡した。見渡す限り白。俺は、今朝のことをふと思い出し、下を見た。血らしき液体がない。しかも、どこも痛まない。どうなっているのかよく分からないが、今ならあのことを言える。俺は、ゆっくりと息を吸い、こう言った。
「何で赤色が嫌いなんだ?」
俺は、女性の方を真っ直ぐに見つめながら言った。
「それは…」
女性は、動揺しているのか分からないが、それは の次から何も言わなくなってしまった。少しの間、沈黙が続いた。なんか気まずいと感じた俺は、言った。
「…嫌なら言わなくても…」
「交通事故が関係しているの」
その女性は、俺の言葉を掻き分けるように言った。その声は、少し震えていた。
じゃあ、あの今朝のことは… 交通事故に関係していたのか? あの血も、あの痛みも全て。
その女性は、くるりと髪をなびかせながら、俺の方を向いて、
「貴方…名前は…?」と言った。
「東雲 夢羽」
「そう…」
女性は、顎に手を当てて少し考える仕草をした。やはり、まだ顔は見えない。靄がかかっていて、どんな顔をしているのか分からない。でも、今は顔のことを考えている場合ではないと思った。
交通事故。もしかしたら、この女性は… と続きを考えていたときだった。
「貴方…どこかで見た事があるような感じなのよね…この雰囲気…」
「え…?」
見た事がある? 俺のことを?
俺の中では、夢の中で会う人と認識していたが、まさか、現実でもあっていたなんて。単なる見間違えじゃないかと考えた。だが、とりあえず俺は、女性の名前を聞いてみることにした。
「あの… 貴方の名前は、なんて言うんですか…?」
今までは、タメ口で話していたが、今だけは妙な敬語になった。すると、女性は、ゆっくりと口を開き、白夢と言った。
「『白の夢』まさに、今の状況よね。この世界には、何も無い」
白夢は、しんみりと言った。俺の方を向いて言ったのではなく、白に向かって。俺も辺りを見回した。本当に何も無い、真っ白な世界。そして、つい心の声を漏らした。
「なぁ、こんなところにいてつまんなくないの?」
白夢は、少し目を大きくさせていた。俺も あ と白夢の方を見た。そして、白夢は、微笑みながらこう言った。
「…えぇ、とても退屈で寂しいわ。でも、きっと貴方が変えてくれるって信じてるから」
その声は、とても優しくて、温かかった。そして、白夢は、俺に向け唐突にこう言った。
「ねぇ、これから先の学校生活の『思い出』を聞かせて欲しいの」
俺の頭の上には、クエスチョンマークがポンと出てきていた。なんで教えないといけないのかと思い、俺はマジマジと白夢を見ていると、こちらに気づき、俺の方に向かって、ゆっくりと歩いてきた。近くで見れば、見るほど、とても美しかった。姿勢もスラッとしていて、どこかのモデルとも勘違いしそうなくらい、輝いているように見えた。そして、白夢は、俺に手を差し伸べてきた。
「今は、意味が分からないかも知れない。けれど、いずれ分かることになるわ。きっと」
だから、お願い と付け足すように言ってきた。それでも、なぜ教えなきゃいけないのか、どうも気になった。いつもならこんなに細かいことは、どうでもいいと思っている人だが、今は放っておけなかった。そして、俺は言葉にして
「なんで教えなきゃいけないんだ?そもそもなんで俺に?他の人でもいいんじゃ…」
と言いかけていたとき、白夢は俺の顔を見て、ズバッとこう言った。
「好きなの」
唐突の告白にさらにクエスチョンマークが増えた。ポン、ポンと増えていく音が聞こえそうなほどだった。俺自身でも分かるほど、顔が火照ていき、心臓がバクバクとなっていた。
「は、へ???」
声が裏返った。それだけ動揺してるのか分からないが、変な声が出た。
今まで誰にも告られたことがない俺。そんな俺に向かって、白夢は続けて言った。
「私、貴方の好きな赤色は嫌いよ。あの交通事故がなかったら、きっとこんなことにはなってなかったわ。でも、貴方のことは好き」
俺には、喋らせる暇もなく、続けて言葉を言い放った。
「貴方の性格は、みんなからマイペースとかのんびり屋とか言われてるでしょ?でも、それだけじゃないと思うのよ。あの時だってそうよね?」
白夢は、そう言ってから、ふぅと息を吐いた。あの時?いつの事だ…? と言うか、今更ながらだが、なんで俺のことをそんなに知っているんだ?俺は、深呼吸してから、火照った顔を落ち着かせ、冷静になって考えた。心臓の音は、さっきよりもゆっくりと鳴っている。こんなに詳しく知っているなんて、ただの赤の他人じゃない。やっぱりまさか―…? いいや違うだろう。じっと俺は、白夢の方を見ながら考えた。
その白夢は言葉を探すように、少し上を見てから、また俺の方に顔を向け、言った。
「なんというか… 貴方の性格はそれだけじゃない気がするの。夢羽は、優しく、暖かい心の持ち主だと思うのよ。まるで正義のヒーローみたいな赤色を持っている気がするの」
「は…?」
さっきから突然ありえないことを言われて、パンクしていた頭がさらにパンクして、ぺしゃんこになった。正直、好きとか正義のヒーローだとか、そんなこと誰にも言われたことがなかった。小さい時から高校までずっと。逆に弱虫と言われていた方が多かった。それなのに正義のヒーローみたいな赤…?俺のことを分かっていないのに何を言っているんだ。もう、訳が分からなくなり、俺は白夢にぶつけるように言葉を言ってしまった。
「…のか…?」
「え?」
「だから、俺のことをからかってるのかよ!! 突然好きとか正義のヒーローとか、だいたいお前は誰なんだよ!なんで夢に出てくるんだよ!お前は俺の何が分かるんだよ!!」
一瞬のことだった。早口言葉のように言った言葉は、白の中にすうっと消えていった。俺は、ハッとして下を向いた。強く言いすぎた。ぎゅっと握りこぶしを作っていた手は、カタカタと震えていた。俺は、唇をかみしめて、何も無い真っ白な地面を黙って見た。なんでこんなに激怒しているんだ?夢でしか会わない女性に。しばらくの間沈黙が続いた。すると、白夢から「ふふっ」と言う笑い声が聞こえた。なぜ笑っているんだ?と聞きたかったが、上手く声が出ない。大声を出しすぎたせいで喉が涸れていた。
「やっぱり、貴方、面白いわね」
その後に白夢は、ボソッと何か言っていたが、聞こえなかった。でも、今はそんなのはどうでもよかった。その言葉を発言した時、俺は見えていた。白夢の口角が少し上がっていた。薄いピンク色の艶のある綺麗な唇。今まで見えなかったものがやっと見えた。そう、白夢はきっと、微笑んでいたのだ。怒ってることなんてもうどうでもよくなった。すると、白夢は、俺にどこから取り出してきたか分からないが、何か渡してきた。
「これ、上げるわ」
と明るめの声で言った白夢は、俺の掌に何かを置いた。
「これって…」
それは、少し大きめの四つ葉のクローバーだった。なんで?と疑問に思った俺だった。
「何か、いいことがあるといいわね。さて、今日のお詫びも上げたところだし、お願い聞いてくれるかしら」
四つ葉のクローバーがお詫び…?なんでそんなちっぽけなものを。俺がしらけた顔をしていると、白夢は、四つ葉のクローバーじゃ満足してないわね?と俺の考えを見透かすように言った。
「…分かったわ。貴方が願いを聞いてくれるのなら、私がちょっとした魔法を見せるわ。こんな真っ白な世界、面白くするのよ」
と今朝の無邪気な声で魔女っぽくそう言った。多分、白夢は、ドヤ顔をしてるだろう。私は凄いんだぞ みたいな。でも俺は、ふと頭に出てきた疑問を言った。
「それなら、俺の力はいらないんじゃ…」
「いいえ、そうでもないわよ」
と言い、立て続けにこう言った。
「貴方がいることで私のこの世界は変えられる。貴方じゃなきゃ、ダメなのよ。好きだからね」
とまた、好き発言をした。俺は、頭をポリポリと搔いた。やっぱり協力した方がいいのかな と考えた。ついでに魔法も気になっていたから、俺は、白夢に手を出した。
「分かった。俺、協力するよ」
「…本当…!?」
と白夢の声が明るくなった。まるで希望の光を見つけたときのように、キラキラとしたオーラが俺に伝わってきた。
「じゃあ、これからよろしくね。夢羽」
「あぁ」
俺は、微笑んでそう言うと、俺たちは、握手を交わした。すると、体の底からじわじわと暖かくなってくるのを感じた。なぜだか分からないが、暖炉にでも当たっているかのように全身がポカポカする。俺は、そろそろ手を離してもいいかな と感じたとき、白夢は、まだ離さないで と言ってきた。俺は、離さないで握手をしたまま、周りを見てみた。そこで俺は、目を見開いた。白だった景色が淡い赤色に包まれている。もしかして…俺の性格が白に伝わった?
―夢羽は、優しく、暖かい心の持ち主だと思うのよ。
ふと、その言葉が出てきた。俺が好きな赤は、淡い感じの赤じゃなくて、はっきりと色がある赤が好きだが、こういう淡くて優しい感じの赤も悪くないかも と軽く微笑みながら思った。そして、淡い赤色の景色は、だんだん白色にすぅと戻っていった。体温も今まで通りに戻っていった。今のは、何だったんだ? と聞こうとしたとき、白夢がこう言った。
「ねぇ、地面を見て」
「?」
俺は、手を離し、地面を見た。そこには、1輪の綺麗なはっきりとした赤色の花が咲いていた。さっきの赤を凝縮したような色。俺の好きな色。白夢は、その花をとり、俺に はい と言って、渡してきた。
「四つ葉のクローバーだけじゃ、足りないって言うから」
渡してから、白夢は、後ろを向いて言った。
「これからいろんな迷惑かけると思うけど、これからよろしくね。夢羽」
「…うん、よろしくな」
「…ありがとう…」
照れているのか分からないが、とても小さい声でもごもごと言って、白夢は、こちらを振り返らず、白い髪をなびかせて、真っ直ぐどこかへ歩いていった。
「…ん?」
俺は、瞼を擦った。椅子から立ち、伸びをした。うつ伏せで寝てたせいで、体が痛い。
「時間は… げ、もうこんな時間か」
窓の外は、見事なオレンジ色に染まっていて、日が沈むところだった。俺は、ふと本のことが気になり、机の中にある本を手に取った。本のページをめくった瞬間、ひらりと何かが落ちた。それを取って、机の上に置いた。
「これ…」
四つ葉のクローバーと赤色の花。そう言えばまだこの花の名前が分からないままだった。俺は、スマホでその花について調べた。
「…ポピー?」
画像を見てみると、白やピンクなどいろんな色があって、綺麗だった。そのうち、貰ったのは赤色のポピーだった。花言葉は、慰め・感謝。
「もしかして…感謝の意味も込めて、この花を渡したのか?」
白夢は、恥ずかしがり屋なのか?最後のありがとうも、もごもごと言っていたし。だとしたら、なんだかちょっと微笑ましい。そして、俺は、本の中身を見た。
「…やっぱり、文字が書いてある…!」
あれは、目が疲れていたのではなかった。事実だった。夢を見た時にしか現れないこの謎の文。しかもその文は、俺のみたな夢の内容と同じようなことが書かれている。どんな仕組みなのか、誰が書いたのか、まだ謎だらけの本。今後、どのような内容になるか少しワクワクしつつも俺は、あの四葉とポピーを栞のようにさっきのページに挟み、本をパタンと閉じて、机の中にしまった。
そろそろ夕飯の時間か と考えている時に下から母の元気な俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっとー!夢羽ー!!そろそろ夕飯の時間よー!今日は、夢羽の好きなオムライス作ったわよー!!」
「分かったー、今行くー」
今日は、俺の好きなオムライスか。あの四葉のおかげか、ちょっといいことがあった。
「…ありがとな」
と微笑みながら、小さく呟いた。そして、俺は、美味しいオムライスが冷めないうちに と思い、階段を颯爽と降りていった。
女性がくるりと俺の方を振り返って聞いてきた。初めて見た、女性の前姿。顔はまだ靄がかかっていて見えない。容姿は変わっていないが、変わっている部分が1つあった。それは、声だった。幼く、無邪気な声だった。何処と無くふわと似ている気がした。とりあえず俺は、素直に質問に答えることにした。
「…俺は、赤色が好きかな」
「なんで?」
「好きになった理由は…」
「…ふふっ、そうなのね。赤色に何か大切な思い出があるのね」
くるりと女性は、後ろを振り返った。
幼さ、無邪気さはどこかに行き、声がいつも通りに戻っていた。しかも、俺の考えを見透かすかのように言った。その通りだった。俺が赤色を好きな理由は、夢月が関係していた。俺が小学生の頃にクリスマスに夢月から赤いセーターをもらった。それも、初恋の相手に。あの時の思い出は、今でも一生忘れられない思い出となった。
俺は、「何でそんなこと聞くんだよ」と言いかけたときだった。
「でもね、私は…… 赤色が大っ嫌いよ」
女性は、冷たく言葉を吐き捨てた。どんな顔で、どんな気持ちで言ったのだろう。
「なんで… っ!?」
何故か分からないが、体のあちこちが痛い。まるで、骨を折られているような、太い針で刺されているような感じで体のあちこちがズキズキと痛む。どこから来たんだこの痛み。あまりの痛みに耐えてられず、地面に膝を着いた。ハッと下を見てみると白い地面が赤黒く染まっていた。
「なんだ… これ、血…?」
「赤… 痛くて、苦しくて… 嫌いよ…」
その女性は、この言葉の他にも何かブツブツと言っているのが聞こえたが、痛みで意識が朦朧としていため、言葉が聞き取れなかった。でも、最後の言葉は、聞こえた。女性は、力強くこう言っていた。
「貴方が持っている本だけは、何としてでも捨てないで―」
と。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
とても悪い目覚めだ。あんな夢を見るなんて。冷や汗が止まらない。俺は、ベッドから落ちていた。けど、今朝の夢のせいで痛みなんて感じていなかった。今は、午前9時。いつもなら学校に行っているが、今日は日曜日。今日が休みでよかった。ふと、窓の外を見てみるとサァサァと小雨が降っていた。
「夢月が交通事故にあった時もこんな感じだったな…」
俺は、外をぼんやりと眺めながら、ぽつりと呟いた。思い出すと心がズキズキと痛んでくる。そして、立ち上がり、机の中にしまってある本を取り出そうとした瞬間、下から元気な母の声が聞こえた。
「ちょっとー、夢羽ー! まだ起きてないのー?」
「起きてる、起きてるー! 今下行くからー! …びっくりした…」
俺は、本を取り出すのをやめ、一旦居間へ降りていった。
「今日は、起きるの遅かったわね。 どうしたのよ?」
「いや、別に… あぁ、ほら今日学校休みじゃん? だから、まだ寝ててもいいかなぁ~… って」
「本当~?」
「本当だよ」
俺は、とりあえず学校がないから遅く起きたという設定にしておいた。そういえば、夢のことはまだ誰にも話してない。仲のいいふわや遊にも話していなければ、親にも話していない。「いつかは話しておいた方がいいかなぁ~…」とぼんやり考えていた。
「あっ! そう言えば、今日、休みだから押し入れの整理をしてたのよ。夢羽にとって懐かしいものがの押し入れから出てきたのよ!」
「俺にとって、懐かしいもの…?」
「ふふ、これ分かるかしら?」
にこにこしながら母が俺に見せてきたのは、赤色のセーターだった。胸元に白いハートが縫ってあるセーター。間違いなくそうだ。これ、夢月が作ってくれたものそのものだった。
「これ… 夢月が作ってくれたセーターだよな…?」
「うんうん、夢羽が小学生の頃、このセーターをもらって、とっても喜んでいたわよね」
「うん、あの時は、本当に嬉しかったよ」
俺は、朝食を軽めに摂り、2階の自分の部屋へ戻った。セーターと共に。まだ雨は、小雨だった。俺は、机の上にセーターを置き、机の中にしまってある本を取り出した。それから、椅子に座って、中身を確認してみた。
「…なーんだ、やっぱり何も書いてないじゃん」
あの時の文字は消えていた。やっぱりあの時は、目が疲れていたのではないかと思ったときだった。
「ん…なんだか急に…眠く…」
俺は、強烈な眠気に襲われ、椅子に座りながらうつ伏せで寝てしまった。
「…今朝は、ごめんなさい」
「ん…?」
あの女性の声。俺は、ゆっくりと重い瞼をあけた。
「あんなに辛い思いをさせてしまって…」
その言葉の後に女性は、何か小声で言っていたが、はっきりと聞こえなかった。
俺は、周りを見渡した。見渡す限り白。俺は、今朝のことをふと思い出し、下を見た。血らしき液体がない。しかも、どこも痛まない。どうなっているのかよく分からないが、今ならあのことを言える。俺は、ゆっくりと息を吸い、こう言った。
「何で赤色が嫌いなんだ?」
俺は、女性の方を真っ直ぐに見つめながら言った。
「それは…」
女性は、動揺しているのか分からないが、それは の次から何も言わなくなってしまった。少しの間、沈黙が続いた。なんか気まずいと感じた俺は、言った。
「…嫌なら言わなくても…」
「交通事故が関係しているの」
その女性は、俺の言葉を掻き分けるように言った。その声は、少し震えていた。
じゃあ、あの今朝のことは… 交通事故に関係していたのか? あの血も、あの痛みも全て。
その女性は、くるりと髪をなびかせながら、俺の方を向いて、
「貴方…名前は…?」と言った。
「東雲 夢羽」
「そう…」
女性は、顎に手を当てて少し考える仕草をした。やはり、まだ顔は見えない。靄がかかっていて、どんな顔をしているのか分からない。でも、今は顔のことを考えている場合ではないと思った。
交通事故。もしかしたら、この女性は… と続きを考えていたときだった。
「貴方…どこかで見た事があるような感じなのよね…この雰囲気…」
「え…?」
見た事がある? 俺のことを?
俺の中では、夢の中で会う人と認識していたが、まさか、現実でもあっていたなんて。単なる見間違えじゃないかと考えた。だが、とりあえず俺は、女性の名前を聞いてみることにした。
「あの… 貴方の名前は、なんて言うんですか…?」
今までは、タメ口で話していたが、今だけは妙な敬語になった。すると、女性は、ゆっくりと口を開き、白夢と言った。
「『白の夢』まさに、今の状況よね。この世界には、何も無い」
白夢は、しんみりと言った。俺の方を向いて言ったのではなく、白に向かって。俺も辺りを見回した。本当に何も無い、真っ白な世界。そして、つい心の声を漏らした。
「なぁ、こんなところにいてつまんなくないの?」
白夢は、少し目を大きくさせていた。俺も あ と白夢の方を見た。そして、白夢は、微笑みながらこう言った。
「…えぇ、とても退屈で寂しいわ。でも、きっと貴方が変えてくれるって信じてるから」
その声は、とても優しくて、温かかった。そして、白夢は、俺に向け唐突にこう言った。
「ねぇ、これから先の学校生活の『思い出』を聞かせて欲しいの」
俺の頭の上には、クエスチョンマークがポンと出てきていた。なんで教えないといけないのかと思い、俺はマジマジと白夢を見ていると、こちらに気づき、俺の方に向かって、ゆっくりと歩いてきた。近くで見れば、見るほど、とても美しかった。姿勢もスラッとしていて、どこかのモデルとも勘違いしそうなくらい、輝いているように見えた。そして、白夢は、俺に手を差し伸べてきた。
「今は、意味が分からないかも知れない。けれど、いずれ分かることになるわ。きっと」
だから、お願い と付け足すように言ってきた。それでも、なぜ教えなきゃいけないのか、どうも気になった。いつもならこんなに細かいことは、どうでもいいと思っている人だが、今は放っておけなかった。そして、俺は言葉にして
「なんで教えなきゃいけないんだ?そもそもなんで俺に?他の人でもいいんじゃ…」
と言いかけていたとき、白夢は俺の顔を見て、ズバッとこう言った。
「好きなの」
唐突の告白にさらにクエスチョンマークが増えた。ポン、ポンと増えていく音が聞こえそうなほどだった。俺自身でも分かるほど、顔が火照ていき、心臓がバクバクとなっていた。
「は、へ???」
声が裏返った。それだけ動揺してるのか分からないが、変な声が出た。
今まで誰にも告られたことがない俺。そんな俺に向かって、白夢は続けて言った。
「私、貴方の好きな赤色は嫌いよ。あの交通事故がなかったら、きっとこんなことにはなってなかったわ。でも、貴方のことは好き」
俺には、喋らせる暇もなく、続けて言葉を言い放った。
「貴方の性格は、みんなからマイペースとかのんびり屋とか言われてるでしょ?でも、それだけじゃないと思うのよ。あの時だってそうよね?」
白夢は、そう言ってから、ふぅと息を吐いた。あの時?いつの事だ…? と言うか、今更ながらだが、なんで俺のことをそんなに知っているんだ?俺は、深呼吸してから、火照った顔を落ち着かせ、冷静になって考えた。心臓の音は、さっきよりもゆっくりと鳴っている。こんなに詳しく知っているなんて、ただの赤の他人じゃない。やっぱりまさか―…? いいや違うだろう。じっと俺は、白夢の方を見ながら考えた。
その白夢は言葉を探すように、少し上を見てから、また俺の方に顔を向け、言った。
「なんというか… 貴方の性格はそれだけじゃない気がするの。夢羽は、優しく、暖かい心の持ち主だと思うのよ。まるで正義のヒーローみたいな赤色を持っている気がするの」
「は…?」
さっきから突然ありえないことを言われて、パンクしていた頭がさらにパンクして、ぺしゃんこになった。正直、好きとか正義のヒーローだとか、そんなこと誰にも言われたことがなかった。小さい時から高校までずっと。逆に弱虫と言われていた方が多かった。それなのに正義のヒーローみたいな赤…?俺のことを分かっていないのに何を言っているんだ。もう、訳が分からなくなり、俺は白夢にぶつけるように言葉を言ってしまった。
「…のか…?」
「え?」
「だから、俺のことをからかってるのかよ!! 突然好きとか正義のヒーローとか、だいたいお前は誰なんだよ!なんで夢に出てくるんだよ!お前は俺の何が分かるんだよ!!」
一瞬のことだった。早口言葉のように言った言葉は、白の中にすうっと消えていった。俺は、ハッとして下を向いた。強く言いすぎた。ぎゅっと握りこぶしを作っていた手は、カタカタと震えていた。俺は、唇をかみしめて、何も無い真っ白な地面を黙って見た。なんでこんなに激怒しているんだ?夢でしか会わない女性に。しばらくの間沈黙が続いた。すると、白夢から「ふふっ」と言う笑い声が聞こえた。なぜ笑っているんだ?と聞きたかったが、上手く声が出ない。大声を出しすぎたせいで喉が涸れていた。
「やっぱり、貴方、面白いわね」
その後に白夢は、ボソッと何か言っていたが、聞こえなかった。でも、今はそんなのはどうでもよかった。その言葉を発言した時、俺は見えていた。白夢の口角が少し上がっていた。薄いピンク色の艶のある綺麗な唇。今まで見えなかったものがやっと見えた。そう、白夢はきっと、微笑んでいたのだ。怒ってることなんてもうどうでもよくなった。すると、白夢は、俺にどこから取り出してきたか分からないが、何か渡してきた。
「これ、上げるわ」
と明るめの声で言った白夢は、俺の掌に何かを置いた。
「これって…」
それは、少し大きめの四つ葉のクローバーだった。なんで?と疑問に思った俺だった。
「何か、いいことがあるといいわね。さて、今日のお詫びも上げたところだし、お願い聞いてくれるかしら」
四つ葉のクローバーがお詫び…?なんでそんなちっぽけなものを。俺がしらけた顔をしていると、白夢は、四つ葉のクローバーじゃ満足してないわね?と俺の考えを見透かすように言った。
「…分かったわ。貴方が願いを聞いてくれるのなら、私がちょっとした魔法を見せるわ。こんな真っ白な世界、面白くするのよ」
と今朝の無邪気な声で魔女っぽくそう言った。多分、白夢は、ドヤ顔をしてるだろう。私は凄いんだぞ みたいな。でも俺は、ふと頭に出てきた疑問を言った。
「それなら、俺の力はいらないんじゃ…」
「いいえ、そうでもないわよ」
と言い、立て続けにこう言った。
「貴方がいることで私のこの世界は変えられる。貴方じゃなきゃ、ダメなのよ。好きだからね」
とまた、好き発言をした。俺は、頭をポリポリと搔いた。やっぱり協力した方がいいのかな と考えた。ついでに魔法も気になっていたから、俺は、白夢に手を出した。
「分かった。俺、協力するよ」
「…本当…!?」
と白夢の声が明るくなった。まるで希望の光を見つけたときのように、キラキラとしたオーラが俺に伝わってきた。
「じゃあ、これからよろしくね。夢羽」
「あぁ」
俺は、微笑んでそう言うと、俺たちは、握手を交わした。すると、体の底からじわじわと暖かくなってくるのを感じた。なぜだか分からないが、暖炉にでも当たっているかのように全身がポカポカする。俺は、そろそろ手を離してもいいかな と感じたとき、白夢は、まだ離さないで と言ってきた。俺は、離さないで握手をしたまま、周りを見てみた。そこで俺は、目を見開いた。白だった景色が淡い赤色に包まれている。もしかして…俺の性格が白に伝わった?
―夢羽は、優しく、暖かい心の持ち主だと思うのよ。
ふと、その言葉が出てきた。俺が好きな赤は、淡い感じの赤じゃなくて、はっきりと色がある赤が好きだが、こういう淡くて優しい感じの赤も悪くないかも と軽く微笑みながら思った。そして、淡い赤色の景色は、だんだん白色にすぅと戻っていった。体温も今まで通りに戻っていった。今のは、何だったんだ? と聞こうとしたとき、白夢がこう言った。
「ねぇ、地面を見て」
「?」
俺は、手を離し、地面を見た。そこには、1輪の綺麗なはっきりとした赤色の花が咲いていた。さっきの赤を凝縮したような色。俺の好きな色。白夢は、その花をとり、俺に はい と言って、渡してきた。
「四つ葉のクローバーだけじゃ、足りないって言うから」
渡してから、白夢は、後ろを向いて言った。
「これからいろんな迷惑かけると思うけど、これからよろしくね。夢羽」
「…うん、よろしくな」
「…ありがとう…」
照れているのか分からないが、とても小さい声でもごもごと言って、白夢は、こちらを振り返らず、白い髪をなびかせて、真っ直ぐどこかへ歩いていった。
「…ん?」
俺は、瞼を擦った。椅子から立ち、伸びをした。うつ伏せで寝てたせいで、体が痛い。
「時間は… げ、もうこんな時間か」
窓の外は、見事なオレンジ色に染まっていて、日が沈むところだった。俺は、ふと本のことが気になり、机の中にある本を手に取った。本のページをめくった瞬間、ひらりと何かが落ちた。それを取って、机の上に置いた。
「これ…」
四つ葉のクローバーと赤色の花。そう言えばまだこの花の名前が分からないままだった。俺は、スマホでその花について調べた。
「…ポピー?」
画像を見てみると、白やピンクなどいろんな色があって、綺麗だった。そのうち、貰ったのは赤色のポピーだった。花言葉は、慰め・感謝。
「もしかして…感謝の意味も込めて、この花を渡したのか?」
白夢は、恥ずかしがり屋なのか?最後のありがとうも、もごもごと言っていたし。だとしたら、なんだかちょっと微笑ましい。そして、俺は、本の中身を見た。
「…やっぱり、文字が書いてある…!」
あれは、目が疲れていたのではなかった。事実だった。夢を見た時にしか現れないこの謎の文。しかもその文は、俺のみたな夢の内容と同じようなことが書かれている。どんな仕組みなのか、誰が書いたのか、まだ謎だらけの本。今後、どのような内容になるか少しワクワクしつつも俺は、あの四葉とポピーを栞のようにさっきのページに挟み、本をパタンと閉じて、机の中にしまった。
そろそろ夕飯の時間か と考えている時に下から母の元気な俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっとー!夢羽ー!!そろそろ夕飯の時間よー!今日は、夢羽の好きなオムライス作ったわよー!!」
「分かったー、今行くー」
今日は、俺の好きなオムライスか。あの四葉のおかげか、ちょっといいことがあった。
「…ありがとな」
と微笑みながら、小さく呟いた。そして、俺は、美味しいオムライスが冷めないうちに と思い、階段を颯爽と降りていった。
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