Passing 〜僕達の「好き」〜

*花*

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❾過去

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僕はズンズンと連れていかれた。さっきまでの景色が速く、速く逆戻りしているように。そして僕は、全然行った時のない道を真っ直ぐ進んでは、曲がり角をグネグネと通っていった。

……これから僕はどこに行くんだろう――

不安な気持ちが、心配な気持ちが胸いっぱいに広がっていき、足がもつれそうになる。殴ったり蹴ったりとか暴行されるのか。何か脅されるのか。……それがお金とか……ないと思うけど、体目当てだったらどうしよう。
それとも――無惨に殺されてしまうのか。
考えているだけで、ゾッと寒気が襲ってくる。不穏な空気が漂う中、僕はなぜか古ぼけた公園に案内された。あちこちの遊具はさびれていて、誰一人としていない静かな公園だった。僕が警戒して辺りを見回していると、突然、強引に強い力で肩をドンッと押された。肩辺りからジンジンと鈍い痛みが走る。その反動に重なり、背負っていたカバンの重みもあって、僕は盛大に尻もちを着いた。手に提げていたスクールバッグが、ズシャッ、と乾いた砂の地面に、掠れた音を出した。

「……ちょっと!何するんですか……!?」

僕は地べたに座った状態のまま、上を見上げた。すると、グループの頭だろうか。僕の前にドンと立ちはだかった。鋭い視線を送り、チッ、と舌打ちをした。そして、いつの間にか僕は6人くらいの男の人達に囲まれていた。そして、前にいた男がしゃがみ、僕の目線に合わせてきた。大きくて、目力の強い目が、獲物を逃すまいと監視するように、じっと見つめてきた。すると、急にふっと目を細め、優しく微笑んだ。それも、妖艶な笑みで。次に彼は衝撃の言葉を言い放った。

「……お前、やっぱし可愛い顔してんな。俺達、通りすがった時に思っちまったんだよ」

すると、「な?」と共感を求めるように、柔らかな笑み残しつつ、ぐるりと周りを見た。周りの人達はこくこくと頭を縦に振っている。僕はそのことを否定しようと口を開いた。
だが、そんな余裕はなく、いつの間にか僕の手首はがっしりと強い力で握られていた。

「……だからさ、俺らと一緒についてこねぇか……?なぁに、怖くなんかねぇよ。楽しいお遊びさ。さ、一緒に行こっか。ねぇ?」
「……ちょっと!嫌だっ……!離し……てっ!」

僕が腕をブンブンと降ったり、引っ張っりして必死に抵抗していても、男は何も感じていないのか、ニコニコと笑みを作ったままでいる。そして、男は後ろを振り返った。さらに何人かが走ってくるのが見えた。その人達を見るなり、「おい!早く車を準備しろぉ!!」
 とドスの効いた声で、唸るように叫んだ。

怖い……怖いよ……
誰か……誰でもいいから助けてっ……!

このままじゃ連れて行かれる、そう焦った僕は、攻めてもの最後の抵抗で、手足をジタバタさせて、もがきまくった。それでも男はグイグイと傲慢に腕を引き、僕を立たせようとした。互いに引っ張り合い、踏ん張り合い、そんな乱闘をしている時だった。

ドゴッ!

自分の手に鈍い衝撃が電撃のように、ビリビリッと流れてきた。それと同時に相手は「ガッ……!?」と苦痛の中に、驚きが混じっている声を出した。そして、よろめいた。

……今がチャンスだ!

そう僅かな希望を感じ取ったのもつかの間。僕はその場から逃げ出そうと、立とうとした。が、足腰になかなか上手く力が入らない。さっきの尻もちの衝撃のせいか、はたまた、威圧にビビって腰を抜かしてしまったか。でも、そんな原因を突き止めることなんてどうでもよかった。今は「逃げたい」の一点張りだった。焦燥感に駆られながら、僕は懸命になって体制を整えようとした。けれども、相手の回復力は速かった。男は何かぶつぶつと呪文のように、独り言を唱えた後、「て……テ、メェ……!よくも……!!」
と、猛烈な苛立ちを顕にした。鬼のような形相で、ギロリとこちらを鋭く睨みつけてくる。すると、いつからか分からないが、ズボンのポケットに忍び込ませていた、小型のナイフをそっと取り出した。そして、僕にじりじりと歩み寄って来た。

……あぁ。僕、もうここで死んじゃうのかな……

妙に頬がぴくぴくとつり上がる。
もう、上手く立つことすらままならない僕が、ここからどう逃げろと……?
僕はぼんやりと少し遠くを見つめた。何だか視界がぼんやりと霞んで見える。誰かが遠くで、わやわやと揉めている声が聞こえてくる。多分、この男の仲間達だろう。

……今日、あんな事が起きてなかったらなぁ。今頃、こんな事になってなかったのに……
……会いたい。会いたいよ……昊明――

その願いを切り裂くように、「……さっさとついてくればよかったのによぉ!!」と男の叫ぶ声が聞こえ、僕の方目掛けて走ってきた。

……やばい!殺される――!






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