Passing 〜僕達の「好き」〜

*花*

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❹過去

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無事、卒園して僕は小学生になった。卒園するまでの間、僕と昊明くんで一緒に話したり、遊んだりして仲良くなった。僕の場合、昊明くんをあだ名で呼ぶようにもなった。

でも最初のころはなかなかお互いに打ち解けられず、距離を縮められなかった。僕があの時助けてもらって以来、あまり話すことがなかったからだ。「何か、怖いな……」とか「実は話すことが苦手なのかな……」と思うときがあった。でも、徐々にお互いで話し始めていって仲良くなり、最初にあったイメージは変えられていった。

そこで分かってきたことがあった。昊明くんは僕と同じく、本が好きだってこと。甘いものも好きだってこと。弟――名前は聞いてないから分からない――がいるということ。そして、昊明くんは普段、感情をあまり出さないけど、僕の前ではいろんな表情を見せてるんだ。笑ってくれて、泣いてくれて、怒ってくれて。さまざまな感情を共にしてきた。だから、僕達が卒園する時は一緒に大声で泣いた。泣きじゃくった。

だって、昊明くんとはもう、お別れだから――



「あ……」
「……ん?」

僕達は校門の前で顔を見合っていた。そよ風に吹かれ、僕の首元まである長くて、白い髪の毛がはらはらとなびいた。そしてピタリと止むと、「え!?」と一緒のタイミングで言った。そして、はははと笑い合った。

「……やあ、白兎しろうさぎさん」
「……黒猫くろねこさんこそ……」

『白うさぎと黒猫のちっちゃな冒険』。僕達が共通して好きな本。僕は白兎で、昊明くんは黒猫。だって、見た目もそれっぽく見えるからさ。僕達はたまにこうやって呼び合っていた。少しそのキャラクターになりきって会話をした。そして、改めて向き直った。

「……こうちゃん、また一緒になれたね」
「おう!……よかった。また白兎と一緒にいれるからさ。嬉しいよ」

すると、昊明くんは恥ずかしそうに頬を赤く染め、ちょっと下を向いた。ぽりぽりと頭をかき、ちらりとこっちを見ながら「また、よろしくな」と言ってきた。その反応が何だか可愛く思えてきて、僕はふふっと少し笑ってから、満面の笑みを浮かべて「うん」と頷いた。



――小学校生活も、時々いじめられることがあった。保育園でいじめてきた子の何人かが同じ小学校だったから。でも、保育園の時とは違った。もう、ひとりぼっちじゃなくなったから。こんな僕でも友達になってくれる子がいた。そして、昊明がそばにいてくれるから、守ってくれるから、僕は心強かった。明るい気持ちでいられた。保育園の頃は、将来の学校生活に対して、「苦しい」「辛い」「嫌だ」というマイナスなイメージを持っていた。けど、昊明と一緒になってからは「楽しい」「面白い」というプラスのイメージに覆された。明日は何話そうとか何しようとか考えてしまうくらいに。

季節はあっという間に過ぎ去り、無事小学校も卒業した。次は中学生。

今度もきっと昊明がいてくれる。そばで、支えてくれる。大丈夫だ、きっと。中学校生活も楽しいんだろうなぁ。どんなこと頑張っていこうかなぁ。

――なんて、当時の僕は軽々しくそう思っていた。けど、そんなことはなかった。のせいで、僕の中学校生活は台無しになり、一気に叩き落とされた。

そして、僕は気づいてしまったんだ。
僕は友達がだ。喜怒哀楽を共にしてきた大切な仲間だから。けれど、昊明には、全く別物のの感情を抱いていたということを。





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