上 下
45 / 45

7日目(日) 伝えるんだ。私の気持ち《終》

しおりを挟む

「これで後、しばらくの間、お別れかぁ……」

沢山の思い出ができた喫茶店『まりも』。私が小学一年生の時、初めて訪れたこの場所。今となっては私の大切な存在だ。私はゆっくりとドアハンドルに手をかけた。

この瞬間も大切な私の思い出。もう、何もかもが思い出だ。

私は すっ とドアを開けた。ベルのチリンという音と同時に、中から「パーン」と言う音が聞こえてきて、びっくりした。
私は そっ と入っていくと、三人同時に言葉をかけられた。

「瀬良ちゃん、今までありがとう!」

私は思わず泣きそうになった。私は三人に飛びつき、「ありがとうございます!!」と泣いているんだか、笑っているんだか分からない声で抱きついた。
そして私は、「こちらへどうぞ」と彗くんにテーブル席へ案内された。彗くんは元気になっていた。異常な回復っぷりに私は驚いた。それから、夕佳さんが沢山の真っ赤ないちごを使ったホールケーキを持ってきた。それを四等分にして「はい、どうぞ」と私に勧めた。そして零さんはコーヒーを持ってきた。「これ、俺が作って、二人に美味いなっていわれたやつ」と言って、置いた。四人揃ったところで「かんぱーい」とカップを合わせた。

それから私達は色々なお喋りをした。

やっぱり楽しいな。みんなとお話するの。

私は沢山笑って、楽しんだ。そして、私はとうとう切り出した。

「ねぇ、彗くん。ちょっと来て」
「ん?どうしたの?」
「おっ!?なになに~!?」

私は彗くんと向かい合わせで立った。

私……伝えるんだ。この気持ち。この率直な思いを告げるんだ……
あぁ、心臓が口から飛び出してきそうなくらい、バクバクして、ドキドキしている。
でも……それでも…………

伝えるんだ。私の気持ち。

私は思い切り息を吸って、言った。

「私、最初に会った時と、この一週間ずっとこのまりもに来て、感じたんだ。私、彗くんと一緒にいると、楽しいなって。そして、明るくて優しい性格も、そして、一生懸命仕事を頑張っているところも、全部、全部」

私はもう一度息を大きく吸って、言った。

「私は彗くんのことが好きです。付き合ってください!」

私はぺこりと頭を下げた。

言った!言えた。私。

気持ち伝わったかな……

彗くんから出た言葉。それは長々と綴られた言葉だった。彗くんは少し頬を赤く染めて、私のことを じっ と見てきた。そして、ふぅと息を吐いてから、こんなことを言ってきた。

「瀬良ちゃん……!!でも……僕、本当は…………猫なんだ。いつも公園にいるぶち猫なんだ。昨日のことでも……分かるだろう。あの時はごめんね……
僕も……君のことを気にかけていたんだ。いつも笑顔で、明るくて、元気で、可愛いなって思ってたんだ。でも僕は……君のそばにはいられない。僕はこの喫茶店『まりも』のオーナーだから。そして、この喫茶店は大切な僕の居場所なんだ。だから守り続けていくんだ」

そして、彗くんは私と同じく大きく息を吸って、黄色い目を細め、朗らかな笑顔で、私に言った。

こんな僕でもよかったら、よろしくお願いします。―と。

私はその言葉を聞いた直後、ぽろぽろと涙が溢れだしてきた。そして私は彗くんに抱き着いた。

「彗くぅぅん……!ありがとうぅぅ……!!」
「泣かないで、瀬良ちゃん」
「ええっ!?彗くん、瀬良ちゃん!?!?お互い好きだったの!?!?両思いなの!?」
「マジか……」

二人とも唖然とした顔で私達を見つめていたが、その後、夕佳さんが私に飛びついてきて、「おめでとうぅぅ!!!!」と叫んできた。そして、「よかったねぇぇ」とぼろぼろと嬉し涙を流した。零さんも私達に近づいてきて、「おめでとう」とぼそっと呟いた。でもその顔には、少し優しい笑みが浮かんでいた。
そして、私達は四人で抱き合い、「おめでとう」と声を揃えて言った。

私の片思いの恋は、両思いへと変わった。

そして、その後、とうとう十二時という時間がやってきてしまった。私は美香ちゃんに今までのことを話した。終始、美香ちゃんはびっくりしたままだったけど、最後には「おめでとう」と明るい声で祝福してくれた。そして、幼なじみの優斗にも電話をした。優斗は「あーあ、瀬良との恋がぁぁぁ」と泣き叫ぶように言った後、「おめでとさん、これから彼氏さんと仲良くやっていけよな」と言った後、「頑張れ」と励ましの言葉をもらった。本当に最高な幼なじみだ。

そして、私は十二時、家を出た。この懐かしい『ふるさと』を出た。また絶対来るから。



それから―

喫茶店『まりも』は私にとって、かけがえのない場所になりました。彗くんとは遠距離恋愛という形になったけど……それでも、永遠に忘れられない、とても大切で、沢山の思い出が詰まった、宝物になりました。

今は自分の家にいるからどうなっているか分からないけど、また私は行くんだ。そして私は笑顔に満ち溢れた顔でこう言うんだ。

ただいま―って。

ーENDー
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...