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3日目(水) 楽しい家族とのお出かけと静寂に包まれた喫茶店6

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思った以上に話はテンポよく進んでいった。まず始めに温泉のことについて話した。とても気持ちよかったと。また来ようかなと考えていたこと。次にデパートで買い物をしてきたことについてだ。こっちにはないような物が沢山あったよと。そして最後に、一番伝えたかったとんぼ玉について言った。終始、彗くんは相槌を入れながら話を聞いてくれていた。でも、微かに私と目が合っていない気がした。どこかぼんやりと遠くをみているような感じがした。私は「おーい」や「大丈夫?」などと声掛けをした。すると彗くんはしっかり反応して「あぁ、大丈夫だよ。続けて」と少しばかり不自然な笑顔で返してきた。その度に私は本当かなぁ と疑い、心配になった。それでも私は話を続けることにした。

「はい、これあげる。私が今日作ってきたんだ」
「わぁ……!ありがとう。すごく綺麗だね」

と表情を明るくしてから、そっと受け取り、ランプの明かりに照らし、眺めていた。大空を固めたようなとんぼ玉。それに光が加わり、まるで、晴れた大空に太陽が照りつける、すっきりするような綺麗な風景が見えた。彗くんは眺め終えると、そのペンダントを私の方に渡してきて、「これ、付けてくれるかな」と少し頬を赤らめて聞いてきた。私は「分かった」と頷くと、彗くんの背後に回り、付けてあげた。付け終わり、また元の位置に戻った。

「わぁ……!綺麗……!彗くん、似合ってるよ」
「本当?嬉しいな」

と照れたようにへへっと笑った。それから、さっきよりも自然な笑顔で、幸せそうに「本当にありがとう」と言い、きっちりお礼をした。「いえいえ」と私もつられて微笑んだ。
「気に入ったかな?」と聞いてみると、彗くんは微笑んで「うん」と頷いてくれた。

好きだ。私は彗くんの幸せそうな微笑み、そして笑顔が大好きだ。

やっぱり、今聞くのはやめておこう。もう、夜なのだ。あまり遅いと親に心配される。今度、時間があった時にでも聞こう。ゆっくりと。今はこの幸せで楽しい時間が少しでも長く過ごせればいいなと彗くんのことを見つめながら思った。


「じゃ、そろそろ帰るね」
「あぁ、うん。分かった」

私は席を立ち、外へ出た。
彗くんもついてきて、外に来てくれた。

「今日はありがとね」
「いえいえ、彗くんが喜んでくれてよかったよ」
「ふふ」

と少し綻んでから、彗くんは首にかけたペンダントのとんぼ玉をそっと撫で下ろした。それからゆっくりと顔を上げた。私はその時の表情を見て、はっと息を飲んだ。その顔はとても優しいものだった。月光に照らされていて、微笑んでいた。それは今までで見た時がない表情だった。店内での表情とは一変して、この表情は『希望』という二文字が見えてくるようにも見えた。しばらく見とれていると、少し強めの夜風がひゅうと吹いてきた。彗くんの髪が少し揺れた。私は あっ と言う顔をした。そして私は「こちらこそありがとね」と慌てた様子で早口に言った。今私はどんな表情をしているだろう。少し視線を逸らした。彗くんは ははっ と軽く笑ってから、私に近づいて「顔ちょっと赤いよ? 大丈夫? 早く帰らないと風邪ひいちゃうかもよ?」と言い、私の頭を撫でた。急のあまり、私はビクッと肩を上げた。その後、彗くんは あっ と小さく呻いた。それからすぐに手を離し、「じゃあね」と早口で言った。私も「うん、じゃあね」と言ってから、そそくさとその場を立ち去った。いつの間にか私の足元にはいつものぶち猫がいた。そして今日は早歩きで公園まで行った。

やばい、やばいぃ…… あれ、頭撫でてたよね……!?

さっきの行動を思い出し、みるみると顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。夜風が落ち着いて と私を宥めるように冷たく吹いて来るのだった。

公園に着いたら、「じゃあね、また明日も来るね」と手を振って言い、また早歩きで家まで向かった。

今でも忘れられないあの手の感触。最初はびっくりしたけど、後々考えてみれば、なぜかちょっと安心していた気がする。

今日は、早歩きのせい、いや、さっきの出来事のせいでいつもよりもドクンドクンと鼓動が早かった。そして、私の恋の加速は止まらず、少しずつ進んで行っていた。


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