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第3章
楓
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満琉がお姉様と呼んだその少女は、明らかに小学校低学年。くりっとした目が印象的な女の子である。
「お元気でしたか、天音」
トコトコとカウンターまで来ると少女は満琉を見上げる。
「お姉様もお元気そうね」
違和感が否めない会話に葵は呆然とする。
満琉を天音と呼ぶということは、前世絡みの人物であり、満琉がお姉様と呼んでいるあたりからして…………
(前世で天音さんのお姉さん?)
葵は当惑の眼差しで横にいる要を見上げる。
「天音の双子の姉、律音です」
要は少しかがむと葵の耳元でこっそりと囁いた。
要の息がかかる耳元が急速に熱を持ち、葵はうつむく。
囁く要の声は、普段意識しないようなところを甘く擽り、落ち着かなくなる。
視線を下げた事でカウンターの影からひょっこりと覗く少女と目が合った。
「ところで蒼麻様、そちらが架南様ですか?」
キラキラと輝く瞳には好意に満ちている。
架南様だなんて言われても違和感しかない。
葵はカウンターの中から出て、少女の前にしゃがみ込む。
「初めまして、日向 葵です」
「初めまして!わたくし、藤堂 楓と申します。前世では天音の姉の律音でした」
深々とお辞儀をして、楓は嬉しそうに笑った。
「架南様にお会いできて光栄です!」
小さな手が葵の手をとる。
柔らかな感触が思いの外に力強く、葵は楓からの無言の訴えを感じた気がした。
「今日は突然どうされましたか?」
要が楓に声をかけながらカウンターの中から出て来た。
口調が少しだけ優しく聞こえる。
「海斗が入院したと聞いたので、お見舞いがてらお仕事を伝えに来ました」
「仕事?メールでは伝えきれない案件ですか?」
「それもありますが、何より架南様に一目お会いしたくて」
楓は屈託無く満面の笑みを浮かべている。
「ちなみに、蒼麻様と架南様は今も恋人同士なのですか?」
「 ────── っえ?」
まさかの予期せぬ質問に、葵は絶句する。
(な、なんてことを聞くの)
好きとか、付き合いましょうとか、特にお互いの気持ちは確かめてなくて、だけどキスはしているわけで、実際、葵としても微妙な関係だとは思っていた。
ただ確かめる手立てもなく、そんな余裕もなく、流されているだけの現状。
どうしたものかと困窮する葵は完全に言葉を失っていた。
「恋人ですよ」
「っええ?!」
あっさり返答する要に葵は驚いて声を上げる。
「…………え?」
「え??」
要が葵の反応を見て声を上げ、満琉はそんな二人を見て声を上げた。
そんな三人を順番に見やり、楓が「あ!」と声を上げる。
「天音ったら、まだ蒼麻様を諦めてないのですか?三角関係はいけませんよっ」
満琉に向き直り、楓はビシッと指を差した。
「それはもうないわよ。目の前でいいだけイチャコラされて萎えたわ」
「イ、イチャコラなんてしてませんっ」
鼻で笑う満琉に葵は慌てて叫ぶ。
もう何だか色々と顔が熱い。
…………恋人?
はっきり恋人だって認めてたよね。
ふわふわと頭の中が浮ついて行く。
背徳感と迷いを嬉しさが押し退けていくようだ。
だけれど、葵は頭を振って浮かれる気持ちを占め出した。
事あるごとに蒼麻と要が重なってしまうことを忘れてはいけない。
(しかも、18才)
未成年と恋人になると言う事は、そんな軽んじてはいけない問題である。
更に、要はかなり経験豊富なのではと疑惑が浮上中、恋愛経験ゼロに近い自分では全く太刀打ちできない気配すらしている。
「まぁとりあえず、先に仕事の話を片付けましょうか」
楓を連れ満琉はソファ席へと移動する。
葵が立ち上がって熱くなった頬に手を当てていると、要と目が合った。
「後で話し合いですね」
すれ違いざまに呟いて要もソファ席へと向かう。
(怒ってるのかな?)
要の目がちょっと怖く感じた。
怖気付いている自分を見透かされた様で、葵は居た堪れなくなる。
「じゃあ私、ちょっと席外しますね」
「葵ちゃん、待って」
さっさと立ち去りたい葵を満琉が呼び止めた。
「丁度いいから、一緒に聞いてくれる?」
「はい…………」
仕事の話と言えば、ペットボトルのあの黒い水が思い浮かんだ。
昨日、黒い水がどんな風にできるのかを見ている。
(だから関係ある話なんだ)
エプロンをとり、葵もソファ席に座った。
「お元気でしたか、天音」
トコトコとカウンターまで来ると少女は満琉を見上げる。
「お姉様もお元気そうね」
違和感が否めない会話に葵は呆然とする。
満琉を天音と呼ぶということは、前世絡みの人物であり、満琉がお姉様と呼んでいるあたりからして…………
(前世で天音さんのお姉さん?)
葵は当惑の眼差しで横にいる要を見上げる。
「天音の双子の姉、律音です」
要は少しかがむと葵の耳元でこっそりと囁いた。
要の息がかかる耳元が急速に熱を持ち、葵はうつむく。
囁く要の声は、普段意識しないようなところを甘く擽り、落ち着かなくなる。
視線を下げた事でカウンターの影からひょっこりと覗く少女と目が合った。
「ところで蒼麻様、そちらが架南様ですか?」
キラキラと輝く瞳には好意に満ちている。
架南様だなんて言われても違和感しかない。
葵はカウンターの中から出て、少女の前にしゃがみ込む。
「初めまして、日向 葵です」
「初めまして!わたくし、藤堂 楓と申します。前世では天音の姉の律音でした」
深々とお辞儀をして、楓は嬉しそうに笑った。
「架南様にお会いできて光栄です!」
小さな手が葵の手をとる。
柔らかな感触が思いの外に力強く、葵は楓からの無言の訴えを感じた気がした。
「今日は突然どうされましたか?」
要が楓に声をかけながらカウンターの中から出て来た。
口調が少しだけ優しく聞こえる。
「海斗が入院したと聞いたので、お見舞いがてらお仕事を伝えに来ました」
「仕事?メールでは伝えきれない案件ですか?」
「それもありますが、何より架南様に一目お会いしたくて」
楓は屈託無く満面の笑みを浮かべている。
「ちなみに、蒼麻様と架南様は今も恋人同士なのですか?」
「 ────── っえ?」
まさかの予期せぬ質問に、葵は絶句する。
(な、なんてことを聞くの)
好きとか、付き合いましょうとか、特にお互いの気持ちは確かめてなくて、だけどキスはしているわけで、実際、葵としても微妙な関係だとは思っていた。
ただ確かめる手立てもなく、そんな余裕もなく、流されているだけの現状。
どうしたものかと困窮する葵は完全に言葉を失っていた。
「恋人ですよ」
「っええ?!」
あっさり返答する要に葵は驚いて声を上げる。
「…………え?」
「え??」
要が葵の反応を見て声を上げ、満琉はそんな二人を見て声を上げた。
そんな三人を順番に見やり、楓が「あ!」と声を上げる。
「天音ったら、まだ蒼麻様を諦めてないのですか?三角関係はいけませんよっ」
満琉に向き直り、楓はビシッと指を差した。
「それはもうないわよ。目の前でいいだけイチャコラされて萎えたわ」
「イ、イチャコラなんてしてませんっ」
鼻で笑う満琉に葵は慌てて叫ぶ。
もう何だか色々と顔が熱い。
…………恋人?
はっきり恋人だって認めてたよね。
ふわふわと頭の中が浮ついて行く。
背徳感と迷いを嬉しさが押し退けていくようだ。
だけれど、葵は頭を振って浮かれる気持ちを占め出した。
事あるごとに蒼麻と要が重なってしまうことを忘れてはいけない。
(しかも、18才)
未成年と恋人になると言う事は、そんな軽んじてはいけない問題である。
更に、要はかなり経験豊富なのではと疑惑が浮上中、恋愛経験ゼロに近い自分では全く太刀打ちできない気配すらしている。
「まぁとりあえず、先に仕事の話を片付けましょうか」
楓を連れ満琉はソファ席へと移動する。
葵が立ち上がって熱くなった頬に手を当てていると、要と目が合った。
「後で話し合いですね」
すれ違いざまに呟いて要もソファ席へと向かう。
(怒ってるのかな?)
要の目がちょっと怖く感じた。
怖気付いている自分を見透かされた様で、葵は居た堪れなくなる。
「じゃあ私、ちょっと席外しますね」
「葵ちゃん、待って」
さっさと立ち去りたい葵を満琉が呼び止めた。
「丁度いいから、一緒に聞いてくれる?」
「はい…………」
仕事の話と言えば、ペットボトルのあの黒い水が思い浮かんだ。
昨日、黒い水がどんな風にできるのかを見ている。
(だから関係ある話なんだ)
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