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第3章
遭遇
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一部建て替えが決まった図書館は、大幅なエリア縮小となり人員配置も改められた。
そして葵は本棚倒壊の事故、自宅の焼失もあり、休職を申し出たらあっさりと受け入れられたのだ。
(1ヶ月の休職かぁ)
色々と感慨深いけれど、良かったかもしれない。
葵はさり気なく振り返る。
それに気づいた祥吾がヘラヘラと小さく手を振った。
(仕事行くたびにずっとこれは嫌だし)
エリア縮小に伴い、図書館の開館は週明け月曜からとなる。
今日はほとんどの職員が作業に出ていると聞いているが、来てみると職員出入口にいる管理員も不在、中に入っても人の気配がない。
(事務室になら誰かいるかな?)
書類の提出は事務室だし、葵はとりあえず事務室へ足を向ける。
だが事務室も施錠することなく無人。
今回の一件で離職や移動した職員もいるが、管理人も含めると10人弱は人がいるはずが、通路の照明は消され、物音一つしない。
予想外の状況に不気味さが這い寄るようで、葵は無意識に警戒していた。
「お疲れ様です」
そっと図書室の扉を開ける。
雑然と書籍が散乱し、段ボールが積まれている。
明らかに作業途中のはずが、人の気配がない。
「宮本さん、山口さん?」
作業に携わると言っていた職員もいない。
足音を忍ばせ棚と棚の間を見て回る。
ここまで誰にも会わないと葵は不安になった。
図書室は時間が止まったように静まり返り、不安をどんどん煽っていく。
ひんやりと暗く思い空気が足首から膝上に這い上がる。
嫌な予感がして、葵が図書室を出ようとした時だった。
カタン、と微かに受付カウンター奥の倉庫から物音がした。
やっと聞こえた物音に、葵は思わず反応していた。
何があると言うのだ。
非現実的な事ばかり、早々起きないだろうに。
「誰か…………いますか?」
ノックをしてから半開きの扉のノブに手をかけた瞬間、勢い良く扉が引かれた。
勢い余り、葵は倉庫の中へと転がる。
「……………………見ぃ、つけた」
聞き覚えのある声が扉の影から聞こえ、ゆっくりと扉が閉まっていく。
「や、山口さん?」
そこにいたのは形相を変えた職員だった。
うつろな目、半開きの口からはヨダレが垂れ、髪がひどく乱れている。
葵の知っている山口と言う男ではない、すでにない。
何か別の ──────
「やっと来たぁ…………待ってたよお」
フラリと半歩男が足を踏み出す。
呂律が回らないその声は、ねっとりと絡みつく不安そのもので恐怖を煽る。
「……………………山口さん、どうしたんですか?」
立ち上がりながら葵は鞄を抱きしめた。
様子が明らかにおかしい。
(普通じゃないっ)
葵は間合いを詰められぬようにそっと後ずさる。
「待ってたんだよぉ、君を…………おぉ」
葵に手を伸ばしながらフラフラと男が近寄ってくる。
足取りは不安定、素早く動けるようには見えない。
倉庫の棚の間に逃げ込んで倉庫を出られれば、どうにかなるように思えた。
葵がジリジリと後ずさって棚との距離を見た時だった。
「君を、こっ、殺せって言われたんだぁ!」
とたんに男がすごい勢いで飛びかかって来た。
振り上げた右手に銀色に光る刃物が見える。伸ばされた左手の指先は赤く染まっていた。
足がすくんで動けなくなる。
「伏せろ!」
男の背後から叫ばれて、葵はしゃがみこんだ。
生々しい衝撃音と共に男の体が横へと飛ぶ。
「葵ちゃん、こっちに」
息を切らせた祥吾が手にしていた椅子を放り投げて叫ぶ。
立ち上がろうにも足が思うように動かない。
そんな葵の腕を掴み祥吾は強引に立たせた。
「通報したから時期に警察がくるよ」
暗闇でうごめく男を横目に祥吾が葵を扉の外へと押し出す。
「祥吾さん…………っ」
「いいかい?出口に向かって走るんだ」
そう言うや否や、男が葵に向かって走ってくる。
「行け!」
祥吾が男を遮るように扉を閉じた。
そして葵は本棚倒壊の事故、自宅の焼失もあり、休職を申し出たらあっさりと受け入れられたのだ。
(1ヶ月の休職かぁ)
色々と感慨深いけれど、良かったかもしれない。
葵はさり気なく振り返る。
それに気づいた祥吾がヘラヘラと小さく手を振った。
(仕事行くたびにずっとこれは嫌だし)
エリア縮小に伴い、図書館の開館は週明け月曜からとなる。
今日はほとんどの職員が作業に出ていると聞いているが、来てみると職員出入口にいる管理員も不在、中に入っても人の気配がない。
(事務室になら誰かいるかな?)
書類の提出は事務室だし、葵はとりあえず事務室へ足を向ける。
だが事務室も施錠することなく無人。
今回の一件で離職や移動した職員もいるが、管理人も含めると10人弱は人がいるはずが、通路の照明は消され、物音一つしない。
予想外の状況に不気味さが這い寄るようで、葵は無意識に警戒していた。
「お疲れ様です」
そっと図書室の扉を開ける。
雑然と書籍が散乱し、段ボールが積まれている。
明らかに作業途中のはずが、人の気配がない。
「宮本さん、山口さん?」
作業に携わると言っていた職員もいない。
足音を忍ばせ棚と棚の間を見て回る。
ここまで誰にも会わないと葵は不安になった。
図書室は時間が止まったように静まり返り、不安をどんどん煽っていく。
ひんやりと暗く思い空気が足首から膝上に這い上がる。
嫌な予感がして、葵が図書室を出ようとした時だった。
カタン、と微かに受付カウンター奥の倉庫から物音がした。
やっと聞こえた物音に、葵は思わず反応していた。
何があると言うのだ。
非現実的な事ばかり、早々起きないだろうに。
「誰か…………いますか?」
ノックをしてから半開きの扉のノブに手をかけた瞬間、勢い良く扉が引かれた。
勢い余り、葵は倉庫の中へと転がる。
「……………………見ぃ、つけた」
聞き覚えのある声が扉の影から聞こえ、ゆっくりと扉が閉まっていく。
「や、山口さん?」
そこにいたのは形相を変えた職員だった。
うつろな目、半開きの口からはヨダレが垂れ、髪がひどく乱れている。
葵の知っている山口と言う男ではない、すでにない。
何か別の ──────
「やっと来たぁ…………待ってたよお」
フラリと半歩男が足を踏み出す。
呂律が回らないその声は、ねっとりと絡みつく不安そのもので恐怖を煽る。
「……………………山口さん、どうしたんですか?」
立ち上がりながら葵は鞄を抱きしめた。
様子が明らかにおかしい。
(普通じゃないっ)
葵は間合いを詰められぬようにそっと後ずさる。
「待ってたんだよぉ、君を…………おぉ」
葵に手を伸ばしながらフラフラと男が近寄ってくる。
足取りは不安定、素早く動けるようには見えない。
倉庫の棚の間に逃げ込んで倉庫を出られれば、どうにかなるように思えた。
葵がジリジリと後ずさって棚との距離を見た時だった。
「君を、こっ、殺せって言われたんだぁ!」
とたんに男がすごい勢いで飛びかかって来た。
振り上げた右手に銀色に光る刃物が見える。伸ばされた左手の指先は赤く染まっていた。
足がすくんで動けなくなる。
「伏せろ!」
男の背後から叫ばれて、葵はしゃがみこんだ。
生々しい衝撃音と共に男の体が横へと飛ぶ。
「葵ちゃん、こっちに」
息を切らせた祥吾が手にしていた椅子を放り投げて叫ぶ。
立ち上がろうにも足が思うように動かない。
そんな葵の腕を掴み祥吾は強引に立たせた。
「通報したから時期に警察がくるよ」
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「祥吾さん…………っ」
「いいかい?出口に向かって走るんだ」
そう言うや否や、男が葵に向かって走ってくる。
「行け!」
祥吾が男を遮るように扉を閉じた。
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