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「ほかの子から誉め言葉を言われてもなにも感じないんだけど、音羽は違う。照れるし……うれしい。それって、そういうことだろう」
「……え?」

 なにかを思い返すようにつぶやきながら前を向いて運転していた晴瑠が、ゆっくりと車を路肩に寄せて停めた。
 ギアをパーキングに入れてサイドブレーキを引いたあと、体をこちらに向けて私に視線を注ぐ。

「音羽が好きだ」

 妖艶な瞳で紡がれた愛の言葉が、私の耳から脳へと届き、体中に染み渡っていく。
 決して聞き間違いではない。彼の真剣な表情を見ればわかる。

 胸の中がぐるぐるとして、どうしようもなくキュンとした。

「昔はこの気持ちをちゃんと伝えてなかったよな。いくらでもチャンスはあると思ってたし、言葉にしなくても両思いな自信があったんだ。バカだったよ。結局後悔しか残らなかったんだから」

 晴瑠がそんなふうに考えていたのだと、今初めて知った。
 私がわざと連絡を絶ったことを不思議に感じたとしても、それはほんの一時期で、彼はバレーに熱中するうちに忘れていくだろうと思っていたのに。

「あのとき、どうして音羽が距離を置いたのか、俺はわかってた」

 うろたえる私を見守るように、晴瑠は切なさが混じった視線で私を射貫く。

「大学でバレーを続けるのか実業団のチームに入るのか、進む道を決めようとしてるときに、海外でのバレー留学の話まで来たからな。俺はいっぱいいっぱいだった。ガキだったんだ」

 進路は多かれ少なかれみんな悩むものだ。バレーの才能がある晴瑠はいくつも道が開かれていたからなおさらだった。

「気がついたら俺は音羽を失ってた。手を離したつもりはなかったのに。単純に俺が嫌われただけかと最初は思ったけど、音羽の性格を考えたらそんなわけないよな。全部俺のためだろ。その気持ちを無下にしたくなかった。だから俺からも……連絡するのをやめたんだ」
「……そっか」

 晴瑠はきちんと私の気持ちを汲み取ってくれていた。あのとき道をたがえた甲斐があったのなら本望だ。
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