6 / 10
⑥
しおりを挟む
文化祭当日がやってきた。
前日に飾りつけを完成させた教室は、手作り感でいっぱいのカレー店になっている。
入口には私がマスキングテープで描いた看板が立てかけられた。
大胆な構図にしてみたけれど、目立つからこれでよかったなとあらためてそう思う。
前日から準備していた具材を朝から寸胴で煮ているので、窓を開けていても部屋の中はカレーのスパイシーな香りが漂っている。
店番はシフトが組まれていて交代制。
カレーを盛り付けるスペースに行くと、外からは見えない位置にあちこち手書きの指示書が貼ってある。
それもこれもすべて実行委員である日鞠が準備してくれたもので、彼女のきめ細かな配慮には本当に頭が下がる。
そんな日鞠は今日も大忙しで、先ほどほかのクラスの実行委員に呼ばれて行ってしまった。
部屋の中をぐるりと見回すと、水上くんが窓辺でクラスメイトと談笑している。
今からソワソワしていても仕方がないので頭を切り替え、日鞠の指示書に従って作業を進めた。
日鞠の独断で、私の店番の時間は水上くんがいるグループと同じにしてもらった。
彼女と一緒に作戦を考えたのだけれど、店番を交代したあとは自由時間になるので、水上くんに話があると言って呼び出そうと思っている。
幸い今日は文化祭で、普段とは違う非日常だから、喧騒がベールとなって目立ちにくい。
声をかけるときに神妙な面持ちにならず、重くて暗い空気をまとわないようにしようと今から肝に銘じているが、うまくいくかどうか不安で仕方ない。
「さぁ、張り切っていこう!」
戻ってきた日鞠がみんなに発破をかける。
「特に透桜子、がんばって!」
「特にって……」
意味深なことを言わないでとばかりに小さく口を尖らせると、口パクで「ごめん」と謝られた。
「俺はなにをしたらいい?」
水上くんが日鞠に指示を仰ぎに来たのだけれど、声を聞くだけでドキッと心臓が跳ね上がった。
「水上くんには廊下で呼び込みをやってもらおうかな。あ、やっぱりダメ。そのまま女子に連れ去られそうだから中で仕事して」
「なんだそれ。門脇はときどき変な妄想をするよな」
「やだ、褒めないで」
「褒めてねぇよ」
ふたりのこういうやり取りを隣で聞いているだけでほっこりする。
自然に冗談を言い合ったりしているし、ふたりは本当に仲が良くてお似合いだから、もし付き合うことになったらみんなから祝福されるだろう。
それに比べて私は……
そこまで考えたところで小さくかぶりを振った。今日だけはネガティブ思考を封印すると決めてきたから。
前日に飾りつけを完成させた教室は、手作り感でいっぱいのカレー店になっている。
入口には私がマスキングテープで描いた看板が立てかけられた。
大胆な構図にしてみたけれど、目立つからこれでよかったなとあらためてそう思う。
前日から準備していた具材を朝から寸胴で煮ているので、窓を開けていても部屋の中はカレーのスパイシーな香りが漂っている。
店番はシフトが組まれていて交代制。
カレーを盛り付けるスペースに行くと、外からは見えない位置にあちこち手書きの指示書が貼ってある。
それもこれもすべて実行委員である日鞠が準備してくれたもので、彼女のきめ細かな配慮には本当に頭が下がる。
そんな日鞠は今日も大忙しで、先ほどほかのクラスの実行委員に呼ばれて行ってしまった。
部屋の中をぐるりと見回すと、水上くんが窓辺でクラスメイトと談笑している。
今からソワソワしていても仕方がないので頭を切り替え、日鞠の指示書に従って作業を進めた。
日鞠の独断で、私の店番の時間は水上くんがいるグループと同じにしてもらった。
彼女と一緒に作戦を考えたのだけれど、店番を交代したあとは自由時間になるので、水上くんに話があると言って呼び出そうと思っている。
幸い今日は文化祭で、普段とは違う非日常だから、喧騒がベールとなって目立ちにくい。
声をかけるときに神妙な面持ちにならず、重くて暗い空気をまとわないようにしようと今から肝に銘じているが、うまくいくかどうか不安で仕方ない。
「さぁ、張り切っていこう!」
戻ってきた日鞠がみんなに発破をかける。
「特に透桜子、がんばって!」
「特にって……」
意味深なことを言わないでとばかりに小さく口を尖らせると、口パクで「ごめん」と謝られた。
「俺はなにをしたらいい?」
水上くんが日鞠に指示を仰ぎに来たのだけれど、声を聞くだけでドキッと心臓が跳ね上がった。
「水上くんには廊下で呼び込みをやってもらおうかな。あ、やっぱりダメ。そのまま女子に連れ去られそうだから中で仕事して」
「なんだそれ。門脇はときどき変な妄想をするよな」
「やだ、褒めないで」
「褒めてねぇよ」
ふたりのこういうやり取りを隣で聞いているだけでほっこりする。
自然に冗談を言い合ったりしているし、ふたりは本当に仲が良くてお似合いだから、もし付き合うことになったらみんなから祝福されるだろう。
それに比べて私は……
そこまで考えたところで小さくかぶりを振った。今日だけはネガティブ思考を封印すると決めてきたから。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

恋に不器用な俺と彼女のすれ違い
干支猫
恋愛
高校一年の冬、ひょんなことがきっかけで学年一の美少女・浜崎花音とカラオケに偶然居合わせることになったのだが、主人公の深沢潤と浜崎花音には周囲にほとんど知られていなかった少しばかりの過去があった。
過去、中学時代の一時期だが、同じ中学に通っていた潤と花音は体育委員をきっかけにして知り合った。お互い惹かれていき気持ちを持っていたのだが、素直になれずに言葉にして伝えることがないどころか、心にもないことを口にしてしまう。そうして近付いた距離は知り合う以前と同じようになって中学を卒業することになってしまった。
その後、偶然同じ高校に進学したのだが、中学の時のように話すことはないまま月日だけが過ぎていった。
そんな二人が再び出会い、距離が近付いては離れて、又、潤の周囲にいる人物達を巻き込んで繰り広げられる普通の高校生の普通の恋愛。

あなたの弟子にしてください 〜サラリーマンと女子高生が出逢いました〜
紅夜チャンプル
恋愛
美少女の女子高生に「弟子にしてください」と言われ、一緒に住むことに‥‥
貴弘(たかひろ)は、小説の公募にも挑戦する普通のサラリーマン。ある日、母校の文芸部を訪れるとそこには大人びた美少女の女子高生の菜結(なゆ)がいた。そして彼女に「弟子にしてください」と言われ、さらに一緒に住むことになって‥‥


ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる