4 / 10
④
しおりを挟む
「実は……これを聞いたら透桜子はショックを受けると思うんだよね」
「なに?」
「実行委員の私には先に話してくれただけだから、みんなにはまだ内緒なんだけどさ……」
周りには誰もいなくて私たちふたりきりなのに、日鞠は注意深くキョロキョロと辺りを見回したあと、声のトーンを最小限に落とした。
「水上くん、引っ越しで転校するみたい」
「え、ウソ!」
「透桜子、声が大きいよ」
驚いて声が出てしまった私はあわてて両手で口を塞いだ。
「引っ越しの準備があるから、あんまり文化祭の手伝いはできそうにないって言われてるの。でもこうしてやれることはやってくれてるんだけど」
先ほど彼が持ってきた段ボールを指さして、日鞠が苦笑いを浮かべる。
突然の話を耳にし、私はサーッと血の気が引いたようになってただ茫然とするだけだった。
「大丈夫?」
「転校ってどうして……。春には卒業だし、受験もあるのに」
高校三年のこの時期に転校するなんて聞いたことがない。
パニックになり、なぜ? どうして? と疑問符ばかりが頭に浮かぶ。
「そうだよね。水上くんってどこの大学を受けるんだろう? やっぱり国立大かなぁ?」
日鞠があご元に手を当てて頭をひねっているが、彼女が知らないのに私が知っているわけがない。
だけど水上くんの成績は常に学年でトップクラスなので、有名な国立大を狙うのだろうと、それは私でも予想はつく。
「引っ越しってどこに?」
日鞠に尋ねてみても、彼女は困ったように首をかしげるだけだった。
水上くんの中で志望校が決まっているなら、引っ越し先とは関係なく行きたい大学を受験するのだと思うけれど。
「どこだろう。そこまでは聞いてない。……転校するくらいだから他県かもね」
お父さんが転勤になって、家族で引っ越すのだろうか。
水上くんが遠くへ行ってしまう。今聞いたばかりで実感はまだ湧かないものの、もうすぐ彼に会えなくなるのだ。
「一緒に卒業できると思ってたのに……」
まだ信じられなくて、小さな声でポツリとつぶやいた。
中学の卒業式のあと、水上くんに「卒業おめでとう」と声をかけたかったのに、どうしても勇気が出せなかった。
だから高校の卒業式の日に、絶対にリベンジしようと決めていた。
だけど彼が卒業前に去ってしまうなら、それは叶わない。
「文化祭当日までは来るらしいよ。転校はそのあとかな」
「そうなんだ……」
日鞠が懸命に私の表情をうかがって気を使っているのはわかっているけれど、今の私は愛想笑いすら上手にできない。
「透桜子、こうなったら選択肢はひとつしかないでしょ!」
「……なに?」
「いなくなる前に気持ちを伝えるの!」
なんでもないことのように言う日鞠に対し、私は顔の前で右手をブンブンと大げさに横に振った。
「なに?」
「実行委員の私には先に話してくれただけだから、みんなにはまだ内緒なんだけどさ……」
周りには誰もいなくて私たちふたりきりなのに、日鞠は注意深くキョロキョロと辺りを見回したあと、声のトーンを最小限に落とした。
「水上くん、引っ越しで転校するみたい」
「え、ウソ!」
「透桜子、声が大きいよ」
驚いて声が出てしまった私はあわてて両手で口を塞いだ。
「引っ越しの準備があるから、あんまり文化祭の手伝いはできそうにないって言われてるの。でもこうしてやれることはやってくれてるんだけど」
先ほど彼が持ってきた段ボールを指さして、日鞠が苦笑いを浮かべる。
突然の話を耳にし、私はサーッと血の気が引いたようになってただ茫然とするだけだった。
「大丈夫?」
「転校ってどうして……。春には卒業だし、受験もあるのに」
高校三年のこの時期に転校するなんて聞いたことがない。
パニックになり、なぜ? どうして? と疑問符ばかりが頭に浮かぶ。
「そうだよね。水上くんってどこの大学を受けるんだろう? やっぱり国立大かなぁ?」
日鞠があご元に手を当てて頭をひねっているが、彼女が知らないのに私が知っているわけがない。
だけど水上くんの成績は常に学年でトップクラスなので、有名な国立大を狙うのだろうと、それは私でも予想はつく。
「引っ越しってどこに?」
日鞠に尋ねてみても、彼女は困ったように首をかしげるだけだった。
水上くんの中で志望校が決まっているなら、引っ越し先とは関係なく行きたい大学を受験するのだと思うけれど。
「どこだろう。そこまでは聞いてない。……転校するくらいだから他県かもね」
お父さんが転勤になって、家族で引っ越すのだろうか。
水上くんが遠くへ行ってしまう。今聞いたばかりで実感はまだ湧かないものの、もうすぐ彼に会えなくなるのだ。
「一緒に卒業できると思ってたのに……」
まだ信じられなくて、小さな声でポツリとつぶやいた。
中学の卒業式のあと、水上くんに「卒業おめでとう」と声をかけたかったのに、どうしても勇気が出せなかった。
だから高校の卒業式の日に、絶対にリベンジしようと決めていた。
だけど彼が卒業前に去ってしまうなら、それは叶わない。
「文化祭当日までは来るらしいよ。転校はそのあとかな」
「そうなんだ……」
日鞠が懸命に私の表情をうかがって気を使っているのはわかっているけれど、今の私は愛想笑いすら上手にできない。
「透桜子、こうなったら選択肢はひとつしかないでしょ!」
「……なに?」
「いなくなる前に気持ちを伝えるの!」
なんでもないことのように言う日鞠に対し、私は顔の前で右手をブンブンと大げさに横に振った。
2
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

辺境のキャバ嬢、遊び人のイケオジ伯爵に勇気を見る
XI
恋愛
辺境の街・プロテッラのキャバクラで働いているミレイは二十七歳だ。キャバ嬢としては決して若いとは言えない年齢でもあり、そろそろ家庭に入りたいなぁとか赤ちゃんが欲しいなぁなどと考えているのだけれど、いい男を見つけられたためしはなく、今後も出会いに恵まれそうな予感はまるでない。言い寄られることは数あれど、それはあくまで仕事場でのことだ。金を払って女性とおしゃべりをしようとする輩にろくなのはいないに違いない。カイン・ローグだってそうだ。伯爵なる地位にあろうが、イケオジだろうが、誠実そうであろうが、男性という浅薄な生き物であることに変わりはない――。
※他サイトにも掲載しています。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?
瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」
婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。
部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。
フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。
ざまぁなしのハッピーエンド!
※8/6 16:10で完結しました。
※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。
※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。
公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです
エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」
塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。
平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。
だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。
お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。
著者:藤本透
原案:エルトリア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる