【完結】ずっと好きでした~そばにいてもいいですか?~

夏目若葉

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 校舎の窓から教室内へ日の光が燦燦と降り注いでいる放課後。
 私、木南きなみ 透桜子とおこは色とりどりのマスキングテープを手に取りながら頭をひねっていた。

「透桜子、飾りつけまで手伝わせちゃってごめんね。パンフレットも作ってもらったのにね」

 私が首を横に振ると、親友の門脇かどわき 日鞠ひまりは苦笑いを浮かべてガーランドを作り始めた。
 余っているカラフルな折り紙を三角形に切ってひもに取り付ければ、立派な装飾品の出来上がりだ。

 季節は秋を迎え、もうすぐ文化祭の日がやってくる。
 文化祭実行委員である日鞠は、毎日遅くまで残ってあれこれ準備を進めていた。

「日鞠はえらいよ。実行委員なんて大役を任されるんだもん」
「誰もやりたがらないからね。それなら私がやろうって思っただけ」

 放課後に残って作業をするだけでも嫌がる生徒がいる中、先生方とこまめに連絡を取りながら、生徒たちをまとめるのも実行委員の役目だ。
 本当に頭が下がる。私には絶対に真似できないから。

「でもさ、去年のほうが大変だったかも。クラスの出し物がお化け屋敷だったから。小道具や衣装も凝ったものにしようってなって、みんなで必死に作ったりして」

 日鞠は昨年も文化祭実行委員だった。
 彼女は気さくで誰とでもすぐに打ち解ける性格だから、とても向いていると思う。

「それと比べたら今年は楽だよ。カレー屋だもん」

 ヘヘっと笑う日鞠に、私もマスキングテープを手でちぎりながら笑みを返した。

 私たちは高校三年生だ。春には卒業を迎えるが、その前に今から受験を控えている。
 なのでいくら学校行事の文化祭といえども、みんな昨年のように準備に大幅な時間は割けない。
 そこは学校側も理解しているので、三年のクラスはどこも簡単な出し物にしている。
 私たちのクラスはチキンカレーを作って振る舞うことにした。
 大きな寸胴鍋でカレーを作っておけば、あとは炊いたご飯と共に盛り付けるだけだ。
 劇をしたりイベントを開催するよりは、準備が少なくて済む。

 とはいえ、実行委員の日鞠はいろいろと大変だ。
 私は親友としてもちろん全力で手伝うつもり。先日パンフレット作りを頼まれたときも、快く引き受けた。
 
「ここに直接貼っていけばいいんだよね?」

 私の身長と同じくらいの大きな白いボードを前に、マスキングテープを掲げながら日鞠に確認を入れた。
 美術部だった私は、カレー店の看板を描いてほしいと彼女に頼まれたのだ。

「ていうか透桜子、下書きとかしないの?」
「大丈夫だよ」
「すごいね!」

 マスキングテープを使ってちぎり絵にしようと思っている。
 気に入らなければ剥がしてまた貼ればいいから修正はしやすい。その辺りは絵の具と違って気楽だ。

 頭の中で構成はできているので、ちぎったマスキングテープをペタペタと大胆に貼り付けていった。
 昔から絵を描くのは好きだけれど、なにかないとこういう創作はしないからとても楽しい。
 
「透桜子まで巻き込んでごめんね。勉強の妨げだよね」
「謝らないで。私は日鞠の役に立ちたいの」

 両手で握り拳を作って真剣に言うと、日鞠は「ありがとう」とにっこり笑った。
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