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あなたじゃなきゃ⑤
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「美桜さんを見ていて、そのころの自分を思い出した。どうしても逃したくない愛する人がいて、その人と一緒にいられればほかはなにも要らないとさえ思うほど必死だったころを。美桜さんの心からの言葉を聞かなければ、私の目は曇ったままだったかもしれないな。桔平に見合いをまた勧めたかもしれない」
お見合いとはきっと、厚生労働大臣の令嬢のことだろう。
桔平さんからは直接聞いていないけれど、勧められてもずっと断ってくれていたのだ。
「正直、先方から見合いの日取りはどうするのかと再三催促が来ている。それは私が責任を持って正式にお断りをしておく。その代わり桔平、会長への報告は自分でしてくれよ?」
「父さん……」
「結婚、するんだろ? 美桜さんと」
一馬さんの柔和な笑みを見て、桔平さんの表情も霧が晴れるように満面の笑みに変わっていく。
「ありがとう」
「ちゃんと美桜さんを守れよ」
「もちろん」
親子の感動のシーンだなと、まるで他人事のように見ていたけれど、これは私自身のことでもある。
なんだかどんどん勝手に話が進んでいる気がするけれど。
「桔平、美桜さん、結婚おめでとう!」
あざみさんがうるうると涙目で、小さく拍手をしながら私たちに力いっぱい言ってくれたのを見て、桔平さんが少し落ち着いてとたしなめた。
「母さん、俺たちまだ結婚してないから」
「あ、そっか。そうね!」
あざみさんのお茶目さがみんなの笑いを誘って、場が一気に和んだ。
今日はもう夜分遅いこともあって、また改めて相談や報告があれば伺うということで青砥家をあとにした。
ご挨拶をして玄関から外に出ると、緊張が解けてホッとしてしまう。やはりどうしても肩に力が入っていたようだ。
外の空気は思いのほか冷たくて、巻いていたマフラーを思わずギュッと掴んだ。
車を停めた車庫まで庭を通って歩いていると、桔平さんが外灯の前でふと歩みを止める。
「美桜、ごめん」
突然謝るなんて、どうしたのだろう。
桔平さんはコートのポケットに両手を入れたまま、眉根を寄せた複雑な表情で立ち尽くしていた。
「こちらに伺ったのは突然で驚きましたけど、いろいろと話や気持ちが聞けて良かったと思っていますから」
謝らないでください、と私が言うと、そのことじゃないと桔平さんが頭を振る。
てっきり、正面突破とばかりにいきなり私を連れてきたことについてだと思ったのだけど、違ったようだ。
「ちゃんと言えてなかった。……ていうか、まだ美桜に言ってない」
順番がおかしくなってしまったけど、と言いながら、桔平さんがその場で片膝をつく。
お見合いとはきっと、厚生労働大臣の令嬢のことだろう。
桔平さんからは直接聞いていないけれど、勧められてもずっと断ってくれていたのだ。
「正直、先方から見合いの日取りはどうするのかと再三催促が来ている。それは私が責任を持って正式にお断りをしておく。その代わり桔平、会長への報告は自分でしてくれよ?」
「父さん……」
「結婚、するんだろ? 美桜さんと」
一馬さんの柔和な笑みを見て、桔平さんの表情も霧が晴れるように満面の笑みに変わっていく。
「ありがとう」
「ちゃんと美桜さんを守れよ」
「もちろん」
親子の感動のシーンだなと、まるで他人事のように見ていたけれど、これは私自身のことでもある。
なんだかどんどん勝手に話が進んでいる気がするけれど。
「桔平、美桜さん、結婚おめでとう!」
あざみさんがうるうると涙目で、小さく拍手をしながら私たちに力いっぱい言ってくれたのを見て、桔平さんが少し落ち着いてとたしなめた。
「母さん、俺たちまだ結婚してないから」
「あ、そっか。そうね!」
あざみさんのお茶目さがみんなの笑いを誘って、場が一気に和んだ。
今日はもう夜分遅いこともあって、また改めて相談や報告があれば伺うということで青砥家をあとにした。
ご挨拶をして玄関から外に出ると、緊張が解けてホッとしてしまう。やはりどうしても肩に力が入っていたようだ。
外の空気は思いのほか冷たくて、巻いていたマフラーを思わずギュッと掴んだ。
車を停めた車庫まで庭を通って歩いていると、桔平さんが外灯の前でふと歩みを止める。
「美桜、ごめん」
突然謝るなんて、どうしたのだろう。
桔平さんはコートのポケットに両手を入れたまま、眉根を寄せた複雑な表情で立ち尽くしていた。
「こちらに伺ったのは突然で驚きましたけど、いろいろと話や気持ちが聞けて良かったと思っていますから」
謝らないでください、と私が言うと、そのことじゃないと桔平さんが頭を振る。
てっきり、正面突破とばかりにいきなり私を連れてきたことについてだと思ったのだけど、違ったようだ。
「ちゃんと言えてなかった。……ていうか、まだ美桜に言ってない」
順番がおかしくなってしまったけど、と言いながら、桔平さんがその場で片膝をつく。
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