42 / 50
あなたじゃなきゃ②
しおりを挟む
桔平さんの言葉に一馬さんが無表情で返事をする。
桔平さんもそこは織り込み済みだったのか、やっぱりそうか、という反応だった。
「この前会った時、恋人の名前を言ってただろ? “みお”さんだと。オッティモの受付で働いてる“みお”さんと言ったら、浅木美桜さんしかいなかったから。興信所に調査を依頼した」
詳しくはわからないけれど、桔平さんはご両親に私の話をしたことがあるようだ。
母のことをすでに知られていたとは思っていなくて驚いていると、一馬さんが視線を私のほうへ向けた。
「美桜さん、勝手に調べて本当に申し訳ない」
『遅かれ早かれ、向こうの親は美桜のことを調べてくるぞ』と、川井さんに以前言われたことを思い出した。
その通りになったけれど、正直謝られるとは夢にも思っていなかったので頭の中が混乱してくる。
私は「いえ」と小さく返事をして、恐縮しながら首を横に振った。
「あなたが香澄さんの娘さんだとわかって本当に驚いたよ。こんな偶然はあるはずがないと、調査報告書を穴が開くほど何度も見た」
「申し訳ありません」
思わず頭を下げながらそう言うと、正面にいる一馬さんが驚いた表情に変わった。
「なんで美桜が謝るんだよ。なにも謝る必要はない」
一馬さんが興信所を使ったことに対して怒っているのだろうか。隣にいる桔平さんの声からイライラが伝わってくる。
「そうよ! 美桜さんが謝ることないわ! 勝手なことをした私たちが悪いの。桔平がお見合いをどうしても嫌だって言うから、恋人がどんな人なのか調べたくなっちゃって……」
ごめんなさいね、とあざみさんが反省したように肩をすぼめたのが意外すぎて、私はキョトンとしてしまう。
「悪い。母はちょっと天然なんだ」
小さな声で横から桔平さんに言われ、口元が緩んでしまった。
先ほど、着替えなければ良かったと桔平さんに抗議していたときにも感じたけれど、これで合点がいった。
このかわいらしさは、天然な性格から来るものだったのだ、と。
正直なところ、お嬢様育ちであるあざみさんはワガママ放題に育てられた可能性もあるし、怖くて陰険な人だったらどうしよう……と、ものすごく失礼な想像をしていたのだけれど。
それとは正反対に天然で、いつも周囲を笑顔にさせる人なのだろうとイメージが変わった。
「俺、美桜と結婚するから」
突如桔平さんが、ご両親に向かってはっきりと言い放った。
声には出さなかったものの、おそらく一番驚いたのはこの私だ。
だって、結婚なんて話は……今初めて聞いたから。
「あ!……俺……」
桔平さんが体ごと私のほうに向いて、しまった!という顔をした。
「船のデッキで言うつもりだったんだ。けど、予定が狂って今になったっていうか……ごめん!」
本来なら私は素敵な夜景をバックに、デッキでプロポーズされる予定だった、ということだろうか。
結局デッキには出ず、私が抱えていた重い話をしてしまったことで桔平さんとしてはタイミングを逃したのかもしれない。
アタフタとあわてる桔平さんを見て、私は拍子抜けしてしまい、どう言葉をかけていいかわからずに口ごもってしまう。
「桔平、もしかして……今のがプロポーズなの?」
私たちの様子がおかしいと思ったのか、あざみさんが眉根を寄せながら桔平さんに問う。
桔平さんは右手で頭を抱えながら、そんなところだ、という感じでうなずいた。
桔平さんもそこは織り込み済みだったのか、やっぱりそうか、という反応だった。
「この前会った時、恋人の名前を言ってただろ? “みお”さんだと。オッティモの受付で働いてる“みお”さんと言ったら、浅木美桜さんしかいなかったから。興信所に調査を依頼した」
詳しくはわからないけれど、桔平さんはご両親に私の話をしたことがあるようだ。
母のことをすでに知られていたとは思っていなくて驚いていると、一馬さんが視線を私のほうへ向けた。
「美桜さん、勝手に調べて本当に申し訳ない」
『遅かれ早かれ、向こうの親は美桜のことを調べてくるぞ』と、川井さんに以前言われたことを思い出した。
その通りになったけれど、正直謝られるとは夢にも思っていなかったので頭の中が混乱してくる。
私は「いえ」と小さく返事をして、恐縮しながら首を横に振った。
「あなたが香澄さんの娘さんだとわかって本当に驚いたよ。こんな偶然はあるはずがないと、調査報告書を穴が開くほど何度も見た」
「申し訳ありません」
思わず頭を下げながらそう言うと、正面にいる一馬さんが驚いた表情に変わった。
「なんで美桜が謝るんだよ。なにも謝る必要はない」
一馬さんが興信所を使ったことに対して怒っているのだろうか。隣にいる桔平さんの声からイライラが伝わってくる。
「そうよ! 美桜さんが謝ることないわ! 勝手なことをした私たちが悪いの。桔平がお見合いをどうしても嫌だって言うから、恋人がどんな人なのか調べたくなっちゃって……」
ごめんなさいね、とあざみさんが反省したように肩をすぼめたのが意外すぎて、私はキョトンとしてしまう。
「悪い。母はちょっと天然なんだ」
小さな声で横から桔平さんに言われ、口元が緩んでしまった。
先ほど、着替えなければ良かったと桔平さんに抗議していたときにも感じたけれど、これで合点がいった。
このかわいらしさは、天然な性格から来るものだったのだ、と。
正直なところ、お嬢様育ちであるあざみさんはワガママ放題に育てられた可能性もあるし、怖くて陰険な人だったらどうしよう……と、ものすごく失礼な想像をしていたのだけれど。
それとは正反対に天然で、いつも周囲を笑顔にさせる人なのだろうとイメージが変わった。
「俺、美桜と結婚するから」
突如桔平さんが、ご両親に向かってはっきりと言い放った。
声には出さなかったものの、おそらく一番驚いたのはこの私だ。
だって、結婚なんて話は……今初めて聞いたから。
「あ!……俺……」
桔平さんが体ごと私のほうに向いて、しまった!という顔をした。
「船のデッキで言うつもりだったんだ。けど、予定が狂って今になったっていうか……ごめん!」
本来なら私は素敵な夜景をバックに、デッキでプロポーズされる予定だった、ということだろうか。
結局デッキには出ず、私が抱えていた重い話をしてしまったことで桔平さんとしてはタイミングを逃したのかもしれない。
アタフタとあわてる桔平さんを見て、私は拍子抜けしてしまい、どう言葉をかけていいかわからずに口ごもってしまう。
「桔平、もしかして……今のがプロポーズなの?」
私たちの様子がおかしいと思ったのか、あざみさんが眉根を寄せながら桔平さんに問う。
桔平さんは右手で頭を抱えながら、そんなところだ、という感じでうなずいた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる