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彼の嫉妬⑥
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「桔平さん! あの……」
左手を引っ張られながらも、一旦止まって話をしようと声をかけるけれど、桔平さんは歩く速度を緩めない。
彼の横顔を見れば、怒っているのだろうか、笑顔がなくブスッとしている。
オシャレなカフェやレストラン、少し逸れた場所に公園のベンチもあるけれど、桔平さんにはどれも見えていないのか全部素通りしていく。
そして私の手をしっかりと握ったまま、突然とあるマンションのエントランスに入り、慣れた様子でオートロックを解除した。
「どこに、行くんですか?」
無言のままふたりでエレベーターに乗りこみ、そのまま静かに上昇する。
足早に引っ張って来られたので多少息が上がり気味だったが、桔平さんの顔色をうかがいながら質問した。
「俺の家」
ポツリとそうつぶやいて、桔平さんが私を見下ろす。やはり機嫌が悪そうだ。
会社の近くに住まいがあるのは聞いていたものの、今から行くのはなんだか微妙だ。桔平さんが珍しく不機嫌なときに、行っていいものかどうか迷う。
川井さんのことをなにか誤解しているのだろうけれど、どう説明したらいいのだろう。
「来るの嫌?」
「え?! そんなことないです!」
「で、さっきの男は誰?」
ズバッと直球で川井さんのことを尋ねられた。でも聞いてくれて良かった。
このままなにも触れてくれないよりは全然いい。
「えっと、さっきの人は、蘭の好きな人なんです」
「……?」
「ほら、私と一緒に受付で働いてる同僚の!」
私の説明に桔平さんは少し考え込んだあと、蘭のことを思い出したのか、「あの子ね」と相槌を打った。
そのタイミングでエレベーターが止まって扉が開くと、桔平さんは再び私の手を引いて歩きだす。
「たまたま偶然、帰り道で一緒になっただけなんですよ」
部屋の玄関扉を開けると、桔平さんは私を先に中に招き入れた。明かりが勝手に点灯する。
さすが高級マンションだ。玄関スペースですらかなり広い。
へぇ、中はこんな造りなのか、と見回す短い時間すらもなく、桔平さんは先に靴を脱いで上がっていて、再び力強く私の腕を引いた。
履いていたヒールを慌てて私も脱いだけれど、気がついたら私は玄関を上がったすぐの場所で、壁と桔平さんに挟まれた状態になっていた。
顔を上げると、切なさとイライラが混じったような複雑な顔をした桔平さんと視線が合う。
「さっきの男、“美桜”って馴れ馴れしく呼んでた」
「でも……親しくはないですから」
半ば私の言葉を遮るように、桔平さんが私の唇を奪う。
いつもの優しい桔平さんらしいキスではなく、深くて荒々しいキスだ。
「……桔平……さん……」
こんな桔平さんを見るのは初めてで、思わず体を離そうとしてしまったけれど後ろは壁だ。
再び私の唇は桔平さんに捉えられ、舌を絡めとられた。
酸素が薄い。息が上がってくる。
激しいキスで頭がぼんやりとしてきたところで、やっと少し桔平さんの唇が離れた。
「悪い。ただの嫉妬」
お互いの鼻先がくっつきそうな至近距離で桔平さんがボソリとつぶやき、少しずつ顔が離れていく。
まだイライラは残っているようだが、少し落ち着いた表情に変わっていることにホッとした。徐々にいつもの桔平さんに戻っている。
左手を引っ張られながらも、一旦止まって話をしようと声をかけるけれど、桔平さんは歩く速度を緩めない。
彼の横顔を見れば、怒っているのだろうか、笑顔がなくブスッとしている。
オシャレなカフェやレストラン、少し逸れた場所に公園のベンチもあるけれど、桔平さんにはどれも見えていないのか全部素通りしていく。
そして私の手をしっかりと握ったまま、突然とあるマンションのエントランスに入り、慣れた様子でオートロックを解除した。
「どこに、行くんですか?」
無言のままふたりでエレベーターに乗りこみ、そのまま静かに上昇する。
足早に引っ張って来られたので多少息が上がり気味だったが、桔平さんの顔色をうかがいながら質問した。
「俺の家」
ポツリとそうつぶやいて、桔平さんが私を見下ろす。やはり機嫌が悪そうだ。
会社の近くに住まいがあるのは聞いていたものの、今から行くのはなんだか微妙だ。桔平さんが珍しく不機嫌なときに、行っていいものかどうか迷う。
川井さんのことをなにか誤解しているのだろうけれど、どう説明したらいいのだろう。
「来るの嫌?」
「え?! そんなことないです!」
「で、さっきの男は誰?」
ズバッと直球で川井さんのことを尋ねられた。でも聞いてくれて良かった。
このままなにも触れてくれないよりは全然いい。
「えっと、さっきの人は、蘭の好きな人なんです」
「……?」
「ほら、私と一緒に受付で働いてる同僚の!」
私の説明に桔平さんは少し考え込んだあと、蘭のことを思い出したのか、「あの子ね」と相槌を打った。
そのタイミングでエレベーターが止まって扉が開くと、桔平さんは再び私の手を引いて歩きだす。
「たまたま偶然、帰り道で一緒になっただけなんですよ」
部屋の玄関扉を開けると、桔平さんは私を先に中に招き入れた。明かりが勝手に点灯する。
さすが高級マンションだ。玄関スペースですらかなり広い。
へぇ、中はこんな造りなのか、と見回す短い時間すらもなく、桔平さんは先に靴を脱いで上がっていて、再び力強く私の腕を引いた。
履いていたヒールを慌てて私も脱いだけれど、気がついたら私は玄関を上がったすぐの場所で、壁と桔平さんに挟まれた状態になっていた。
顔を上げると、切なさとイライラが混じったような複雑な顔をした桔平さんと視線が合う。
「さっきの男、“美桜”って馴れ馴れしく呼んでた」
「でも……親しくはないですから」
半ば私の言葉を遮るように、桔平さんが私の唇を奪う。
いつもの優しい桔平さんらしいキスではなく、深くて荒々しいキスだ。
「……桔平……さん……」
こんな桔平さんを見るのは初めてで、思わず体を離そうとしてしまったけれど後ろは壁だ。
再び私の唇は桔平さんに捉えられ、舌を絡めとられた。
酸素が薄い。息が上がってくる。
激しいキスで頭がぼんやりとしてきたところで、やっと少し桔平さんの唇が離れた。
「悪い。ただの嫉妬」
お互いの鼻先がくっつきそうな至近距離で桔平さんがボソリとつぶやき、少しずつ顔が離れていく。
まだイライラは残っているようだが、少し落ち着いた表情に変わっていることにホッとした。徐々にいつもの桔平さんに戻っている。
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