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彼の嫉妬⑤
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「遅かれ早かれ、向こうの親は美桜のことを調べてくるぞ。バレる前に先に喋っちゃえよ」
デリカシーの欠片もなく、むやみにそう言わないでもらいたい。簡単にいかないから悩んでいるのに。
「川井さん、志田ケミカルのこと調べるの、もう辞めてもらえませんか?」
「はは。そりゃ無理な相談だな」
川井さんは誰かクライアントがいて、志田ケミカルを調べているのだろうか?
それか、独自で調べた情報をどこかに売るのかもしれない。
どちらにしても、桔平さんの家のことや私との恋愛を、面白おかしくネタにされるのは嫌なので、そっとしておいてほしいと思って頼んだのだ。
もちろんのこと、鼻で笑われて却下を食らった。
川井さんがどう仕事に活かそうとしているのか、まったく分からないのが怖い。
「やっぱ飲みに行くぞ!」
「行きませんって。私のことはいいですから、蘭とデートを楽しんでくださいよ」
「おい、待てって。美桜!!」
再び歩き出そうとしたところ、名前を呼ばれて思わず振り向いた。
声が大きいです、と注意しようと思ったのに……
振り向いた数メートル先、川井さん越しに見えたのは、桔平さんだった。
もうこの時、私には桔平さん以外目に入らない。
驚いた表情を見せた桔平さんの眉間に、瞬時にシワが入って怒りの色が乗るのがわかった。
そして、眉をひそめたまま一直線にこちらに歩み寄ってくるその姿は、いつもの桔平さんではなかった。長身のせいもあって迫力満点だ。
私が後方を気にしているのを不思議に思い、川井さんも何事かと首だけで後ろを振り返った。
近づいてくるのが桔平さんだとわかると、「やばっ」と小さくつぶやいて即座に私のほうへ顔の向きを戻す。どう対処しようかと、この短い時間に考えるつもりだろうか。
「俺以外に美桜と呼び捨てにする男がいるとはな」
あっという間に桔平さんが私たちの元までやってきて、いつもより低い声で川井さんに言い放った。
後頭部でその言葉を受けた川井さんは、振り向いた瞬間、まるで銃でも突きつけられたかのように両手を頭の横まで上げて、桔平さんに愛想笑いをする。
ハナから降参ですよ、とでも言いたげなジェスチャーに、桔平さんは少し面食らっていた。
「ついうっかり、さん付けするのを忘れただけなんです」
川井さんがなにか挑発的なことを言って、桔平さんを不愉快にさせたらどうしよう、と一瞬不安に思ったけれど、彼もここは穏便に収めたいのか、おかしなことは口走らなかった。
桔平さんを怒らせたところで川井さんになにもメリットがないから当前だ。
そんなことをぼんやりと考えていると桔平さんが私の左手をぎゅっと握り、引っ張るように早足で歩き出した。
デリカシーの欠片もなく、むやみにそう言わないでもらいたい。簡単にいかないから悩んでいるのに。
「川井さん、志田ケミカルのこと調べるの、もう辞めてもらえませんか?」
「はは。そりゃ無理な相談だな」
川井さんは誰かクライアントがいて、志田ケミカルを調べているのだろうか?
それか、独自で調べた情報をどこかに売るのかもしれない。
どちらにしても、桔平さんの家のことや私との恋愛を、面白おかしくネタにされるのは嫌なので、そっとしておいてほしいと思って頼んだのだ。
もちろんのこと、鼻で笑われて却下を食らった。
川井さんがどう仕事に活かそうとしているのか、まったく分からないのが怖い。
「やっぱ飲みに行くぞ!」
「行きませんって。私のことはいいですから、蘭とデートを楽しんでくださいよ」
「おい、待てって。美桜!!」
再び歩き出そうとしたところ、名前を呼ばれて思わず振り向いた。
声が大きいです、と注意しようと思ったのに……
振り向いた数メートル先、川井さん越しに見えたのは、桔平さんだった。
もうこの時、私には桔平さん以外目に入らない。
驚いた表情を見せた桔平さんの眉間に、瞬時にシワが入って怒りの色が乗るのがわかった。
そして、眉をひそめたまま一直線にこちらに歩み寄ってくるその姿は、いつもの桔平さんではなかった。長身のせいもあって迫力満点だ。
私が後方を気にしているのを不思議に思い、川井さんも何事かと首だけで後ろを振り返った。
近づいてくるのが桔平さんだとわかると、「やばっ」と小さくつぶやいて即座に私のほうへ顔の向きを戻す。どう対処しようかと、この短い時間に考えるつもりだろうか。
「俺以外に美桜と呼び捨てにする男がいるとはな」
あっという間に桔平さんが私たちの元までやってきて、いつもより低い声で川井さんに言い放った。
後頭部でその言葉を受けた川井さんは、振り向いた瞬間、まるで銃でも突きつけられたかのように両手を頭の横まで上げて、桔平さんに愛想笑いをする。
ハナから降参ですよ、とでも言いたげなジェスチャーに、桔平さんは少し面食らっていた。
「ついうっかり、さん付けするのを忘れただけなんです」
川井さんがなにか挑発的なことを言って、桔平さんを不愉快にさせたらどうしよう、と一瞬不安に思ったけれど、彼もここは穏便に収めたいのか、おかしなことは口走らなかった。
桔平さんを怒らせたところで川井さんになにもメリットがないから当前だ。
そんなことをぼんやりと考えていると桔平さんが私の左手をぎゅっと握り、引っ張るように早足で歩き出した。
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