【完結】これはきっと運命の赤い糸

夏目若葉

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彼の嫉妬④

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 冗談でしょ? とはこっちが言いたい。
 川井さんとはコーヒーや紅茶は一緒に飲んだことがあるけれど、楽しくお酒を飲むような間柄ではない。

「私たち、飲み友ではないですよね。特別仲良くもないし」
「そうだったか? 俺はもっと仲良くなりたいと思ってるけど」

 会話が微妙にかみ合っていないけれど、別にそれでもいい。
 今日は本当に偶然にビルの出入口で帰りが一緒になったようで、私に話があって待ち伏せていなかっただけで御の字だ。

「そういうお誘いは、私じゃなくて蘭にしてください」
「蘭ちゃんね。可愛いよなぁ、目がパッチリしてて睫毛まつげが長くて」

 隣を同じ速度で歩きながら、川井さんは笑いながら蘭を褒めた。そう思うなら最初から蘭を誘えばいいのだ。
 この人はいつも冗談みたいなことばかり言うけれど、悪い人ではないのはわかっている。
 蘭が付き合いたいのなら、上手くいけばいいと私も思っているのだけれど、今現在、なかなかそこまでふたりは発展していないみたい。

「うまい居酒屋見つけたんだよ。今日はそこ行かないか?」
「行きません」

 人の話を聞いてなかったのだろうか。さっきから、顔も見ないで歩いてるというのに。

「あの常務は洒落たレストランとかバーばっかりで、赤提灯みたいな居酒屋には連れてってくれないから新鮮だろ?」

 思わず足がピタリと止まる。桔平さんのことを口にすれば、私が極度に反応すると川井さんは知っているのだ。
 だから今のもわざとで、探偵が使う常套じょうとう手段だとわかっているのに、身体が無意識に反応してしまったのが悔しい。

「まだ付き合ってたんだな。母親には話したのか? 相手が青砥桔平だって」
「……」

 毎日仕事で疲れて帰ってくる母に、何十年も前の悲恋を掘り返して聞き出すことがどうしてもできなくて、タイミングを逃したままになっている。
 その話を聞けば、桔平さんのお父さんの印象が自ずと悪くなってしまうだろう。
 私にもそれは覚悟の要ることだから、正面から向き合う勇気が持てないのもある。

 だけどこの前、一歩だけ踏み出してみた。
『お父さんと結婚する前、付き合ってた人っていたの?』と母に冗談交じりで聞いてみたのだ。
 何故急にそんな話を? と驚いた顔をされたけれど、恋人はいたと教えてくれた。きっとその人が、桔平さんのお父さんだ。
 私が桔平さんと付き合っていると知ったら、母はどう思うだろう。

「彼氏のほうにも言えてないんだろ? 昔、お互いの親が恋人同士だったんです、って」
「……」

 その通り。川井さんにはすべて見抜かれてしまうのが不思議だ。
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