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彼の嫉妬①
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「おはよう!」
朝の通勤時間帯で混雑した駅の改札口を抜けたところで、後ろからそう声をかけられて振り向く。
「蘭!」
「一ヶ月以上休んじゃった。久しぶりの出勤だから緊張しちゃう」
虫垂炎を患ってオペで入院し、退院してからもしばらく仕事を休んでいた蘭が今日から職場に復帰してきた。
「ごめんね、結局お見舞い行けなくて」
「ううん。いいのいいの。ずっと実家に行ってたからね」
蘭は普段は一人暮らしをしているけれど、療養するなら家族のそばでと、隣県にある実家にずっと戻ったままだった。
そういう事情があったとはいえ、親しい間柄なのにお見舞いに行けなかったから、どうしても申し訳ない気持ちになってしまう。
「久しぶりに森内さんの嫌味が聞けるわ。なんだか懐かしい」
「あはは。病み上がりの蘭にはやさしいかもよ?」
「いやぁ、ありえないでしょ、あの人が」
朝から笑いながら出勤するなんて久しぶりだ。
蘭がいると笑顔になれるし、私だけではなくてみんなが明るく過ごせる。
「私が病欠してる間に、美桜に彼氏できてるし」
「えへへ。いきなりその話?」
「大好きってこと以外、結局どんな人なのか聞いてないんだもん!」
誰なのよ?! と詰め寄られると恥ずかしくて顔が熱くなってきた。
イケメンの桔平さんを紹介したら、蘭はどんな反応をするだろう。
川井さんからこの前聞いた私の母と桔平さんのお父さんの話を忘れてしまったわけではない。
ずっと心に引っかかってはいるが、考えてもなにも進展しないし、今は胸の奥に封じ込めておこうと思う。
それでは全然解決にならないとわかっているけれど、今の私にはこうするしかないのだ。
「美桜!」
ビルの方角へ蘭と並んで歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには駆け寄ってくる桔平さんの姿があり、自然と顔がほころぶ。
今日も細身のスーツをスタイリッシュに着こなしていて素敵だ。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「午前中の会議が長引きそうで、今日はランチ行けそうにないんだ」
ごめん! と申し訳なさそうに桔平さんが右手を顔の前に立てて謝るポーズをした。
今日はお昼に時間が取れそうだから、一緒にランチをしようと約束をしていたのだけれど、どうもダメになったみたい。
「気にしないでください」
私がお昼休みの時間をずらせたらいいのだけど、それも他のスタッフとの兼ね合いがあるので容易にはいかない。
桔平さんだけが悪いのではなく、お互い時間の都合が合わないのだから仕方ないことだ。
「これ、お詫びに」
「え?!」
桔平さんが持っていたペーパーバッグをそっと私に手渡してくる。
そこに書かれたお店の名前を見ると、若い女性に人気のサンドイッチ専門店のものだ。噂ではお昼には行列が出来ているらしいのに、わざわざ朝一番で桔平さん自ら買って来てくれたのだろうか。
「うれしい。ありがとうございます!」
「こんなんじゃお詫びにならないけど」
「そんなことないですよ」
「じゃあまた」
会議があるから忙しいのだろう。桔平さんは私の頭をポンポンと撫でてから、ビルのほうへと小走りで急いで行った。
朝から桔平さんに会えただけで、うれしくて顔が緩んでしまう。
あの爽やかな笑顔は何度見てもすごい威力だ。
「い、今の人……」
ぼうっと桔平さんの背中を見送ってしまっていたけれど、蘭の声で我に返った。
「うん、今の人が、か……彼なの」
「なんてカッコいいのよ!」
隣にいる蘭を見ると、かなり驚いた顔をしたまま放心状態になっていた。
「おはよう!」
朝の通勤時間帯で混雑した駅の改札口を抜けたところで、後ろからそう声をかけられて振り向く。
「蘭!」
「一ヶ月以上休んじゃった。久しぶりの出勤だから緊張しちゃう」
虫垂炎を患ってオペで入院し、退院してからもしばらく仕事を休んでいた蘭が今日から職場に復帰してきた。
「ごめんね、結局お見舞い行けなくて」
「ううん。いいのいいの。ずっと実家に行ってたからね」
蘭は普段は一人暮らしをしているけれど、療養するなら家族のそばでと、隣県にある実家にずっと戻ったままだった。
そういう事情があったとはいえ、親しい間柄なのにお見舞いに行けなかったから、どうしても申し訳ない気持ちになってしまう。
「久しぶりに森内さんの嫌味が聞けるわ。なんだか懐かしい」
「あはは。病み上がりの蘭にはやさしいかもよ?」
「いやぁ、ありえないでしょ、あの人が」
朝から笑いながら出勤するなんて久しぶりだ。
蘭がいると笑顔になれるし、私だけではなくてみんなが明るく過ごせる。
「私が病欠してる間に、美桜に彼氏できてるし」
「えへへ。いきなりその話?」
「大好きってこと以外、結局どんな人なのか聞いてないんだもん!」
誰なのよ?! と詰め寄られると恥ずかしくて顔が熱くなってきた。
イケメンの桔平さんを紹介したら、蘭はどんな反応をするだろう。
川井さんからこの前聞いた私の母と桔平さんのお父さんの話を忘れてしまったわけではない。
ずっと心に引っかかってはいるが、考えてもなにも進展しないし、今は胸の奥に封じ込めておこうと思う。
それでは全然解決にならないとわかっているけれど、今の私にはこうするしかないのだ。
「美桜!」
ビルの方角へ蘭と並んで歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには駆け寄ってくる桔平さんの姿があり、自然と顔がほころぶ。
今日も細身のスーツをスタイリッシュに着こなしていて素敵だ。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「午前中の会議が長引きそうで、今日はランチ行けそうにないんだ」
ごめん! と申し訳なさそうに桔平さんが右手を顔の前に立てて謝るポーズをした。
今日はお昼に時間が取れそうだから、一緒にランチをしようと約束をしていたのだけれど、どうもダメになったみたい。
「気にしないでください」
私がお昼休みの時間をずらせたらいいのだけど、それも他のスタッフとの兼ね合いがあるので容易にはいかない。
桔平さんだけが悪いのではなく、お互い時間の都合が合わないのだから仕方ないことだ。
「これ、お詫びに」
「え?!」
桔平さんが持っていたペーパーバッグをそっと私に手渡してくる。
そこに書かれたお店の名前を見ると、若い女性に人気のサンドイッチ専門店のものだ。噂ではお昼には行列が出来ているらしいのに、わざわざ朝一番で桔平さん自ら買って来てくれたのだろうか。
「うれしい。ありがとうございます!」
「こんなんじゃお詫びにならないけど」
「そんなことないですよ」
「じゃあまた」
会議があるから忙しいのだろう。桔平さんは私の頭をポンポンと撫でてから、ビルのほうへと小走りで急いで行った。
朝から桔平さんに会えただけで、うれしくて顔が緩んでしまう。
あの爽やかな笑顔は何度見てもすごい威力だ。
「い、今の人……」
ぼうっと桔平さんの背中を見送ってしまっていたけれど、蘭の声で我に返った。
「うん、今の人が、か……彼なの」
「なんてカッコいいのよ!」
隣にいる蘭を見ると、かなり驚いた顔をしたまま放心状態になっていた。
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