27 / 50
彼の嫉妬①
しおりを挟む
***
「おはよう!」
朝の通勤時間帯で混雑した駅の改札口を抜けたところで、後ろからそう声をかけられて振り向く。
「蘭!」
「一ヶ月以上休んじゃった。久しぶりの出勤だから緊張しちゃう」
虫垂炎を患ってオペで入院し、退院してからもしばらく仕事を休んでいた蘭が今日から職場に復帰してきた。
「ごめんね、結局お見舞い行けなくて」
「ううん。いいのいいの。ずっと実家に行ってたからね」
蘭は普段は一人暮らしをしているけれど、療養するなら家族のそばでと、隣県にある実家にずっと戻ったままだった。
そういう事情があったとはいえ、親しい間柄なのにお見舞いに行けなかったから、どうしても申し訳ない気持ちになってしまう。
「久しぶりに森内さんの嫌味が聞けるわ。なんだか懐かしい」
「あはは。病み上がりの蘭にはやさしいかもよ?」
「いやぁ、ありえないでしょ、あの人が」
朝から笑いながら出勤するなんて久しぶりだ。
蘭がいると笑顔になれるし、私だけではなくてみんなが明るく過ごせる。
「私が病欠してる間に、美桜に彼氏できてるし」
「えへへ。いきなりその話?」
「大好きってこと以外、結局どんな人なのか聞いてないんだもん!」
誰なのよ?! と詰め寄られると恥ずかしくて顔が熱くなってきた。
イケメンの桔平さんを紹介したら、蘭はどんな反応をするだろう。
川井さんからこの前聞いた私の母と桔平さんのお父さんの話を忘れてしまったわけではない。
ずっと心に引っかかってはいるが、考えてもなにも進展しないし、今は胸の奥に封じ込めておこうと思う。
それでは全然解決にならないとわかっているけれど、今の私にはこうするしかないのだ。
「美桜!」
ビルの方角へ蘭と並んで歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには駆け寄ってくる桔平さんの姿があり、自然と顔がほころぶ。
今日も細身のスーツをスタイリッシュに着こなしていて素敵だ。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「午前中の会議が長引きそうで、今日はランチ行けそうにないんだ」
ごめん! と申し訳なさそうに桔平さんが右手を顔の前に立てて謝るポーズをした。
今日はお昼に時間が取れそうだから、一緒にランチをしようと約束をしていたのだけれど、どうもダメになったみたい。
「気にしないでください」
私がお昼休みの時間をずらせたらいいのだけど、それも他のスタッフとの兼ね合いがあるので容易にはいかない。
桔平さんだけが悪いのではなく、お互い時間の都合が合わないのだから仕方ないことだ。
「これ、お詫びに」
「え?!」
桔平さんが持っていたペーパーバッグをそっと私に手渡してくる。
そこに書かれたお店の名前を見ると、若い女性に人気のサンドイッチ専門店のものだ。噂ではお昼には行列が出来ているらしいのに、わざわざ朝一番で桔平さん自ら買って来てくれたのだろうか。
「うれしい。ありがとうございます!」
「こんなんじゃお詫びにならないけど」
「そんなことないですよ」
「じゃあまた」
会議があるから忙しいのだろう。桔平さんは私の頭をポンポンと撫でてから、ビルのほうへと小走りで急いで行った。
朝から桔平さんに会えただけで、うれしくて顔が緩んでしまう。
あの爽やかな笑顔は何度見てもすごい威力だ。
「い、今の人……」
ぼうっと桔平さんの背中を見送ってしまっていたけれど、蘭の声で我に返った。
「うん、今の人が、か……彼なの」
「なんてカッコいいのよ!」
隣にいる蘭を見ると、かなり驚いた顔をしたまま放心状態になっていた。
「おはよう!」
朝の通勤時間帯で混雑した駅の改札口を抜けたところで、後ろからそう声をかけられて振り向く。
「蘭!」
「一ヶ月以上休んじゃった。久しぶりの出勤だから緊張しちゃう」
虫垂炎を患ってオペで入院し、退院してからもしばらく仕事を休んでいた蘭が今日から職場に復帰してきた。
「ごめんね、結局お見舞い行けなくて」
「ううん。いいのいいの。ずっと実家に行ってたからね」
蘭は普段は一人暮らしをしているけれど、療養するなら家族のそばでと、隣県にある実家にずっと戻ったままだった。
そういう事情があったとはいえ、親しい間柄なのにお見舞いに行けなかったから、どうしても申し訳ない気持ちになってしまう。
「久しぶりに森内さんの嫌味が聞けるわ。なんだか懐かしい」
「あはは。病み上がりの蘭にはやさしいかもよ?」
「いやぁ、ありえないでしょ、あの人が」
朝から笑いながら出勤するなんて久しぶりだ。
蘭がいると笑顔になれるし、私だけではなくてみんなが明るく過ごせる。
「私が病欠してる間に、美桜に彼氏できてるし」
「えへへ。いきなりその話?」
「大好きってこと以外、結局どんな人なのか聞いてないんだもん!」
誰なのよ?! と詰め寄られると恥ずかしくて顔が熱くなってきた。
イケメンの桔平さんを紹介したら、蘭はどんな反応をするだろう。
川井さんからこの前聞いた私の母と桔平さんのお父さんの話を忘れてしまったわけではない。
ずっと心に引っかかってはいるが、考えてもなにも進展しないし、今は胸の奥に封じ込めておこうと思う。
それでは全然解決にならないとわかっているけれど、今の私にはこうするしかないのだ。
「美桜!」
ビルの方角へ蘭と並んで歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには駆け寄ってくる桔平さんの姿があり、自然と顔がほころぶ。
今日も細身のスーツをスタイリッシュに着こなしていて素敵だ。
「おはよう」
「おはよう、ございます」
「午前中の会議が長引きそうで、今日はランチ行けそうにないんだ」
ごめん! と申し訳なさそうに桔平さんが右手を顔の前に立てて謝るポーズをした。
今日はお昼に時間が取れそうだから、一緒にランチをしようと約束をしていたのだけれど、どうもダメになったみたい。
「気にしないでください」
私がお昼休みの時間をずらせたらいいのだけど、それも他のスタッフとの兼ね合いがあるので容易にはいかない。
桔平さんだけが悪いのではなく、お互い時間の都合が合わないのだから仕方ないことだ。
「これ、お詫びに」
「え?!」
桔平さんが持っていたペーパーバッグをそっと私に手渡してくる。
そこに書かれたお店の名前を見ると、若い女性に人気のサンドイッチ専門店のものだ。噂ではお昼には行列が出来ているらしいのに、わざわざ朝一番で桔平さん自ら買って来てくれたのだろうか。
「うれしい。ありがとうございます!」
「こんなんじゃお詫びにならないけど」
「そんなことないですよ」
「じゃあまた」
会議があるから忙しいのだろう。桔平さんは私の頭をポンポンと撫でてから、ビルのほうへと小走りで急いで行った。
朝から桔平さんに会えただけで、うれしくて顔が緩んでしまう。
あの爽やかな笑顔は何度見てもすごい威力だ。
「い、今の人……」
ぼうっと桔平さんの背中を見送ってしまっていたけれど、蘭の声で我に返った。
「うん、今の人が、か……彼なの」
「なんてカッコいいのよ!」
隣にいる蘭を見ると、かなり驚いた顔をしたまま放心状態になっていた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる