【完結】これはきっと運命の赤い糸

夏目若葉

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愛しい人①

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 初めて美桜を見たのは、13Fの別の会社を訪問した機会にオッティモの前を通りかかったときだ。
 たまたまオッティモの入り口の扉が開いていて、正面の受付に座る美桜が見えた。
 驚くほど色白で、透明感があって、クリクリとした大きな瞳が印象的だった。
 パッと花が咲いたような弾ける笑顔に、俺は一瞬で釘付けになってしまった。
 過去には美人だとされる女性を紹介されたり、向こうからアプローチをされた経験もあるけれど、一目見ただけでこんなに心を動かされはしなかった。

 オッティモの創立記念パーティーの招待状が届いていると秘書から聞いたときも、なぜか真っ先に、あの受付の子に会えるだろうかと不真面目なことが頭に浮かんだのは自分だけの秘密だ。
 実際の出会いは、俺がシャンパンを彼女にかけてしまうというハプニングを伴ったものだったが、そのおかげで名前も連絡先も聞けたしデートに誘う口実もできた。
 そこからは、いつ見てもかわいい美桜に俺は完全に堕ちてしまっている。

「常務。本日もお疲れ様でした。明日は朝一番で企画会議が入っておりますので」

 ブラウン系のスーツに身を包んだ秘書が仕事終わりにそう伝え、今日も四十五度にきちんと頭を下げる。
 そういえば、そのスーツの色はこの前美桜が来ていたワンピースの色合いと似ているな、などと何でも結び付けてしまう最近の俺は、心の中が美桜でいっぱいだ。先日デートしたばかりなのに、もう会いたいのだから。
 今までたいした恋愛をしてこなかった俺が、こんな風になるなんて自分でも驚いている。

「それと、タクシーが到着しております」
「ありがとう」
「ご実家に行かれるのですか?」
「ああ」

 五年前、俺はこの近くにあるレジデンスを購入して実家を出た。
 別に実家が嫌だったわけではないが、大人としての独り立ちの意味合いもあったし、職場と家が近いのは忙しい俺には便利だった。
 ひとりで暮らすには広すぎるということ以外、快適でなにも不満はない。

 特別な面白みもない部屋だし、今まで女性を招き入れたことはないけれど、美桜はいずれ呼ぶつもりだ。
 彼女は俺と一緒にくつろいでくれるだろうか。
 ふたりで映画を観たり、朝に一緒にコーヒーを飲んだり、そんな想像までしてしまう。
 通勤時間も気にしなくていい。職場があるビルまで歩いて数分の距離なのだから。
 だが今日は実家から呼び出しがあり、今からわざわざそちらに向かわなくてはいけない。

 今夜仕事が終わったら来るように、と電話をしてきたのは母だった。
 用件を聞いたけれど、顔を見て話すと言われ電話では伝えてくれなかった。
 母の声は穏やかだったが、嫌な予感がしてならない。
 なにか面倒なことを頼まれなければいいが……とは思うものの、無視もできないのが親子だ。
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