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信じる気持ち④

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「父は、私が高校生の時に病気で亡くなりましたけど、父と母は仲の良い夫婦でした。私はふたりとも大好きなんです」
「そうか」
「本当に、普通の、幸せな家庭で……」

 そう言ったところでしゃくりあげてしまって、言葉が出なくなった私に川井さんがそっとハンカチを差し出す。
 ありがたくそれを受け取って頬の涙を拭いた。

「悪い。事実を確認したかっただけで、泣かすつもりはなかった」
「いえ……」

 話せと言ったのは私だ。本当なら仕事上ペラペラと喋ってはいけない内容も含まれているはずだが、川井さんは包み隠さず話してくれたのだ。それがこの人の誠意だろう。

「だからアイツは辞めとけって言ったろ」

 私の泣き顔をじっと見ながら、川井さんが困ったように言う。

「俺にしとけばいいんだよ」
「いや、それは……お気持ちだけで」
「このタイミングで傷口に塩を塗るようなことを言いたくないけど、桔平には見合い話があるそうだ」

 グズグズと鼻をすすりあげていたけれど、その言葉を聞いてフリーズしてしまう。

「相手は厚生労働大臣の娘らしい。志田ケミカルとしては願ったり叶ったりだろう」

 もうそれ以上言わないで、と心が叫んでいる。
 グサグサと刺されているみたいに心臓が痛くて、両目からとめどなく涙があふれる。

「き、桔平、さんが……」
「下手すると、美桜もお母さんと同じ目に合うぞ?」

 川井さんが心配そうな視線を投げかけてくれていて、そこに含まれている優しさがありがたかった。
 川井さんは意外と良い人かもしれない。私が母と同じく二股された上に振られたらボロボロになると思い、同情してくれてるのだ。

 母は昔、社長令嬢と天秤にかけられて敗れた。
 私は……厚労省の令嬢と天秤に?

 厚労省の令嬢は、たくさんのものを持っているだろうけれど、私にはなにもない。
 桔平さんに対する愛情以外、なにも持ってない。……だから負けるのだろうか。
 それでも、私は桔平さんを信じたい。

「その恋に破れたら、いつでも俺のとこにどうぞ」

 両手を広げる川井さんが可笑しくて、泣き顔のまま無理に笑顔を作って会釈をした。

「だいじょぶです」
「こら、今振るなよ」

 私を好きだと言ってくれて、屈託のない笑顔を見せてくれた桔平さんを私は信じている。それは揺るがない。
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