21 / 50
信じる気持ち③
しおりを挟む
「結婚後、桔平が生まれ、正蔵は真面目に働く一馬を志田ケミカルの本社勤務にした。すると一馬は娘婿だという立場を上手に使い、重役を自分の味方に付けて経営に口を挟むようになった。かいつまんで言うとこれが会社を追い出された原因だ。これは前にも話したな」
「次期社長を狙っていると、誤解されてしまったんですよね」
「いや、俺の調査では事実だという線が濃厚だ。上手く正蔵に取り入って社長になれたら良かったんだが、正蔵はよそから来た一馬に会社を乗っ取られると危惧したんだろう。一馬を拒絶した。というのも、一馬の過去を正蔵が調べたからだ」
「……過去?」
桔平さんのお父さんの過去がどうしたというのだろう?
川井さんの含みのある物言いが、まるで悪人だとでも言いたげだから気になってしまう。
「正蔵はなぜ調べようと思ったのか。それは、娘のあざみが騙されたんじゃないかと疑ったからだ。最初から会社を乗っ取る目的で、一馬があざみに近づいたのでは、と」
かわいい娘が騙されて結婚した疑惑が出てくれば、それを調べたい会長の親心もわからなくはない。
「調べたら、一馬に借金等の金銭トラブルはなかったが……女がひとり浮上したらしい」
「どういうことですか?」
「大学時代から付き合っていた恋人だそうだ。一馬はその恋人がいながら、あざみと付き合った。二股ってやつだな」
実際に言葉にはしなかったが、最低だなと思った。
桔平さんのお父さんのことを悪く言いたくはないけど、その女性が気の毒だ。
なぜかふと仁科さんを思い出した。世の中に二股する男性は多いのだろうか。
「一馬は以前からの恋人を振り、あざみとの結婚を取った。あざみが志田ケミカルの娘だから。それを知った正蔵はあざみに離婚しろと迫ったそうだが、夫婦仲が良好だったふたりは別れることはなく、一馬は再び系列会社に飛ばされたようだ」
「そう、なんですか」
私が複雑な表情をしてポツリとつぶやくと、川井さんは腕組みをしながらも前のめりになって真剣な顔になった。
「大学時代から付き合っていた恋人は……“香澄”という名だったらしい。栗林香澄。数年後、結婚して苗字が“浅木”に変わり、娘を産んだ。“美桜”という名前の」
「え……」
「“浅木美桜”なんて同い年の同姓同名はほかにいないだろ。お母さんからこういう話、なにか聞いたことはなかったか?」
ガツンと衝撃を受けながらも、質問にはフルフルと頭を横に振る。
なんという運命のイタズラだろうか。
川井さんの今の話では、一馬さんと私の母が昔付き合っていたということになる。あざみさんと出会うずっと前から……。
それが、あざみさんの出現で別れることになった。
あざみさんが母から一馬さんを奪ったのだろうか? いや、違う。悪いのは二股していた一馬さんだ。
その上、愛情ではなく損得勘定で母を振ったのだとしたら、母がかわいそうすぎる。
気持ちの持って行き場がなくて……
だけどなんとも言えない感情が湧いてきて、気がついたら涙が頬を伝っていた。
「次期社長を狙っていると、誤解されてしまったんですよね」
「いや、俺の調査では事実だという線が濃厚だ。上手く正蔵に取り入って社長になれたら良かったんだが、正蔵はよそから来た一馬に会社を乗っ取られると危惧したんだろう。一馬を拒絶した。というのも、一馬の過去を正蔵が調べたからだ」
「……過去?」
桔平さんのお父さんの過去がどうしたというのだろう?
川井さんの含みのある物言いが、まるで悪人だとでも言いたげだから気になってしまう。
「正蔵はなぜ調べようと思ったのか。それは、娘のあざみが騙されたんじゃないかと疑ったからだ。最初から会社を乗っ取る目的で、一馬があざみに近づいたのでは、と」
かわいい娘が騙されて結婚した疑惑が出てくれば、それを調べたい会長の親心もわからなくはない。
「調べたら、一馬に借金等の金銭トラブルはなかったが……女がひとり浮上したらしい」
「どういうことですか?」
「大学時代から付き合っていた恋人だそうだ。一馬はその恋人がいながら、あざみと付き合った。二股ってやつだな」
実際に言葉にはしなかったが、最低だなと思った。
桔平さんのお父さんのことを悪く言いたくはないけど、その女性が気の毒だ。
なぜかふと仁科さんを思い出した。世の中に二股する男性は多いのだろうか。
「一馬は以前からの恋人を振り、あざみとの結婚を取った。あざみが志田ケミカルの娘だから。それを知った正蔵はあざみに離婚しろと迫ったそうだが、夫婦仲が良好だったふたりは別れることはなく、一馬は再び系列会社に飛ばされたようだ」
「そう、なんですか」
私が複雑な表情をしてポツリとつぶやくと、川井さんは腕組みをしながらも前のめりになって真剣な顔になった。
「大学時代から付き合っていた恋人は……“香澄”という名だったらしい。栗林香澄。数年後、結婚して苗字が“浅木”に変わり、娘を産んだ。“美桜”という名前の」
「え……」
「“浅木美桜”なんて同い年の同姓同名はほかにいないだろ。お母さんからこういう話、なにか聞いたことはなかったか?」
ガツンと衝撃を受けながらも、質問にはフルフルと頭を横に振る。
なんという運命のイタズラだろうか。
川井さんの今の話では、一馬さんと私の母が昔付き合っていたということになる。あざみさんと出会うずっと前から……。
それが、あざみさんの出現で別れることになった。
あざみさんが母から一馬さんを奪ったのだろうか? いや、違う。悪いのは二股していた一馬さんだ。
その上、愛情ではなく損得勘定で母を振ったのだとしたら、母がかわいそうすぎる。
気持ちの持って行き場がなくて……
だけどなんとも言えない感情が湧いてきて、気がついたら涙が頬を伝っていた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです
星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。
2024年4月21日 公開
2024年4月21日 完結
☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる