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信じる気持ち②

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「で、ご用件は何ですか?」

 小さくため息を吐いたあと、観念したように川井さんに尋ねた。
 なにか聞きたいことがあると言っていたから、それを済ませれば解放してくれるだろう。

「じゃあ、単刀直入に聞かせてもらう」

 川井さんが珍しく真剣な顔つきになった。それがなんとなく妙だったので何事かと構えてしまう。

「美桜のお母さんの名前、もしかして香澄かすみさんか? 旧姓は栗林くりばやし?」
「え?! なんで母のこと知ってるんですか?」

 目を丸くして聞き返す私を見て、川井さんはガッカリしたように伏せ目がちに視線を地面に落とした。
 驚いた。どうして川井さんが私の母の名前や旧姓まで知っているのだろう?
 川井さんのことだから、なにかを調べていて母に行きついたのかもしれないと思うと心配になってくる。

「答えてください! 川井さん!」
「……こんなとこでは話せないな。移動しよう」

 道端で気軽に話せる内容ではないと言われたので、この前行った小さなカフェへと移動した。
 たしかにこのカフェは静かで、他のお客さんもほとんどいないので話しやすい。

「川井さんは、あのビルで志田ケミカルを調べてるんですよね? でも、別件の仕事もされてるでしょうし……。とにかく、母のことはなぜ知ったんですか? いったいなにと関係が?!」
「落ち着け」
「落ち着けませんよ! 自分の母親が勝手に調査対象にされて、気分いいわけありませんから!」

 テーブルに両手をついて前のめりになる私に、川井さんは苦笑いをしながら、まぁまぁと両手をこちらに向けて私の勢いを止めた。

「こういう偶然ってあるんだな。美桜を困らせるつもりなんてなかったんだ。だから怒るなよ」

 運ばれてきたコーヒーを口にする川井さんを見て、私も落ち着くために温かいカフェオレをひと口飲んだ。
 さてどこから話すかな、と川井さんが考える仕草を見せる。

「この前、志田ケミカルのお家騒動について話したよな? 青砥桔平の父親の一馬と、現会長の志田正蔵の不仲の件だ」
「……はい」
「一馬は結婚前、小さな商社に勤めていた。今はもうその会社はないが優秀な営業マンだったらしい。若いながら経営のセンスもあったそうだ。そして仕事を通じて志田家の娘のあざみと知り合い、付き合い始める。とんとん拍子に結婚まで進み、それを機に一馬は商社を辞めて志田ケミカルの系列会社で働くことになった」

 そうだったのか、と川井さんの話に聞き入る一方で、至極普通の恋愛結婚の話だと感じた。
「おかしな部分はなにもないですよね? 」と口を挟むと、川井さんはまた困ったような笑みを浮かべてうなずいた。
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