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やはり御曹司でした⑤
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川井さんに忠告されてこの世の終わりのような気持ちになってしまったけれど、川井さんの言うことすべてを信じて落ち込むなんておかしな話だ、と翌日になって考え方を変えることにした。
お昼休みにビル内のショップが入っているエリアをブラブラして、気分転換をはかってみる。
今夜は桔平さんとデートなのだから、沈んだ気持ちを切り替えなければいけない。
自然と洋菓子店の前で足が止まり、ショーケースの中を覗きこんだ。
新作だとポップでアピールされているのは紅芋モンブランで、紫色のクリームが可愛らしくて見ているだけでほっこりする。今がお昼休みじゃなければ、きっと衝動買いしているだろう。
「ディナーのデザートもモンブランかもしれないよ?」
いきなり耳元でそう囁かれて、驚いて体がビクッと跳ね上がる。
後ろを振り返れば、必死で笑いをこらえている桔平さんが立っていた。
「桔平さん!」
「ごめんごめん。ケーキに見とれてる美桜さんがあんまりかわいくてつい……」
そう言ってアハハと笑う桔平さんのほうが、よほど少年のようでかわいい。
というより、美しいと思った。本当に桔平さんは美形だから。
こんなところで偶然に会えるとは思わなくて、うれしさと同時に心臓がドキドキと鼓動を早める。今日もスタイリッシュなスーツ姿が素敵だ。
「好きなの?」
「え?!」
「モンブラン」
ショーケースに向かって指をさされ、恥ずかしくて顔が一気に熱くなった。勘違いしたことを悟られていないだろうか。
「はい……好きです」
モンブランも、好きです。
その前に、桔平さんのことも大好きです、と言ってしまいたい。そんなふうに考えるほど、私は完全に桔平さんに堕ちてしまっている。
「お互いに好きなものを、これから分かっていくのも楽しいね」
「はい」
なにが好きでなにが嫌いなのか。
食べ物だけじゃなくてほかの事も、桔平さんの好みをひとつひとつ丁寧に知っていきたい。
そんな未来を思い描く私はかなり重症だ。
「あ、お昼休み終わっちゃう」
「俺も行かなきゃ」
せっかく偶然会えたのに、終わってしまうお昼休みが恨めしい。
腕時計を見ながらそう思ったけれど……
「じゃ、また夜に」
ふんわりとほほ笑みながら耳元でそう言われたら、膝がガクッと抜けそうになる。それくらい、桔平さんの持つ威力はすごい。
仕事が終わり、パウダールームでメイクや身なりを整えた。
高級レストラン街のエリアに初めて足を踏み入れると思うと、ドキドキしすぎて口から心臓が飛び出しそうだけれど、それ以上に桔平さんに会えるうれしさが自分の中でまさっている。
待ち合わせに遅刻する訳にはいかないので早めに向かったけれど、エレベーターの扉が開くと、そこにはもう桔平さんが待っていてくれた。
「すみません! お待たせして」
「いや、俺が早く来すぎただけだから。今日の服もかわいいね」
私の服装を気に留めてくれた言葉がうれしくて、ニヤニヤしてしまう私は至極単純だ。
「ありがとうございます。服は迷ったんですけど……この服が一番好きなのでこれにしちゃいました」
ブラウン系のチュールワンピースに、ベージュのベストを合わせたものを選んだ。たぶん、ドレスコードには引っかからないと思う。
「行こうか。こっち」
桔平さんは左手で行く方向を指しながら、右手は私の左手を自然な感じでそっと握った。男性と手を繋ぐなんて、人生で初めてでもないのに顔が赤くなってくる。
桔平さん自身が私と手繋ぎしたいと思った、ということは、この恋は脈アリなのだろうか。今のところ、図々しいけれどそう考えてもいいのかもしれない。
川井さんに忠告されてこの世の終わりのような気持ちになってしまったけれど、川井さんの言うことすべてを信じて落ち込むなんておかしな話だ、と翌日になって考え方を変えることにした。
お昼休みにビル内のショップが入っているエリアをブラブラして、気分転換をはかってみる。
今夜は桔平さんとデートなのだから、沈んだ気持ちを切り替えなければいけない。
自然と洋菓子店の前で足が止まり、ショーケースの中を覗きこんだ。
新作だとポップでアピールされているのは紅芋モンブランで、紫色のクリームが可愛らしくて見ているだけでほっこりする。今がお昼休みじゃなければ、きっと衝動買いしているだろう。
「ディナーのデザートもモンブランかもしれないよ?」
いきなり耳元でそう囁かれて、驚いて体がビクッと跳ね上がる。
後ろを振り返れば、必死で笑いをこらえている桔平さんが立っていた。
「桔平さん!」
「ごめんごめん。ケーキに見とれてる美桜さんがあんまりかわいくてつい……」
そう言ってアハハと笑う桔平さんのほうが、よほど少年のようでかわいい。
というより、美しいと思った。本当に桔平さんは美形だから。
こんなところで偶然に会えるとは思わなくて、うれしさと同時に心臓がドキドキと鼓動を早める。今日もスタイリッシュなスーツ姿が素敵だ。
「好きなの?」
「え?!」
「モンブラン」
ショーケースに向かって指をさされ、恥ずかしくて顔が一気に熱くなった。勘違いしたことを悟られていないだろうか。
「はい……好きです」
モンブランも、好きです。
その前に、桔平さんのことも大好きです、と言ってしまいたい。そんなふうに考えるほど、私は完全に桔平さんに堕ちてしまっている。
「お互いに好きなものを、これから分かっていくのも楽しいね」
「はい」
なにが好きでなにが嫌いなのか。
食べ物だけじゃなくてほかの事も、桔平さんの好みをひとつひとつ丁寧に知っていきたい。
そんな未来を思い描く私はかなり重症だ。
「あ、お昼休み終わっちゃう」
「俺も行かなきゃ」
せっかく偶然会えたのに、終わってしまうお昼休みが恨めしい。
腕時計を見ながらそう思ったけれど……
「じゃ、また夜に」
ふんわりとほほ笑みながら耳元でそう言われたら、膝がガクッと抜けそうになる。それくらい、桔平さんの持つ威力はすごい。
仕事が終わり、パウダールームでメイクや身なりを整えた。
高級レストラン街のエリアに初めて足を踏み入れると思うと、ドキドキしすぎて口から心臓が飛び出しそうだけれど、それ以上に桔平さんに会えるうれしさが自分の中でまさっている。
待ち合わせに遅刻する訳にはいかないので早めに向かったけれど、エレベーターの扉が開くと、そこにはもう桔平さんが待っていてくれた。
「すみません! お待たせして」
「いや、俺が早く来すぎただけだから。今日の服もかわいいね」
私の服装を気に留めてくれた言葉がうれしくて、ニヤニヤしてしまう私は至極単純だ。
「ありがとうございます。服は迷ったんですけど……この服が一番好きなのでこれにしちゃいました」
ブラウン系のチュールワンピースに、ベージュのベストを合わせたものを選んだ。たぶん、ドレスコードには引っかからないと思う。
「行こうか。こっち」
桔平さんは左手で行く方向を指しながら、右手は私の左手を自然な感じでそっと握った。男性と手を繋ぐなんて、人生で初めてでもないのに顔が赤くなってくる。
桔平さん自身が私と手繋ぎしたいと思った、ということは、この恋は脈アリなのだろうか。今のところ、図々しいけれどそう考えてもいいのかもしれない。
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