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やはり御曹司でした④

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「たしかに、こういう一族のゴタゴタ話っていうのは好む人間がいるからな。話が誇張されて噂されかねない。けど、問題はここからだ」
「え、まだあるんですか?」
「まだっていうか、今までの話は序章にすぎない」

 淡々と語る川井さんがなんだか怖くなった。この人が調べれば、全部丸裸にされてしまうとすら思う。

「時は過ぎて、今現在。正蔵は孫の桔平を溺愛してるという噂だ。桔平は出来が良くてやり手だし、正蔵も年老いて丸くなったらしいから」

 お祖父さんは婿である桔平さんのお父さんとはうまくいかなくても、孫の桔平さんとは仲がいいみたいで、それを聞いて嬉しい気持ちになった。
 しかもやり手だなんて、桔平さんはカッコ良すぎる。

「社長の栄亮には息子がおらず、娘がふたり。さて、そこでだ。三代目の社長はどうする?って話」
「……え」
「今からは誰もがするだ。優秀な桔平が社長を継ぐのか? それはかつて排除された一馬も望んでいることだろう。けど栄亮は自分の娘か、娘に婿を取らせて継がせたい。そうなると、こうだ」

 川井さんは両手の人差し指をバチバチと交差させてぶつける動作をする。
 一族がまた揉める……権力争い。たしかに週刊誌がゴシップとして扱いそうな話ではある。

「それはあくまでですよね? みんな面白がってるだけですよ」
「だが、当たってるかもしれない。だからあの男は辞めとけ。あの家はややこしい。結果的に美桜が泣くとこしか想像できない」

 そう言われてションボリする私に、川井さんは言い過ぎたと思ったのか憐れんだ視線を送ってくる。

「だいたい、あの常務がモテないと思うか? どうせ引く手あまただ。嫁選びだって……」
「……」
「悪い。落ち込ませようと思ったわけじゃないんだ。また前みたいに二股されて修羅場みたいな目にはあいたくないだろうと……」
「お話、ありがとうございました」

 桔平さんは仁科さんとは違う。二股なんて不誠実なことをする人ではないと、自分の心が叫んでいる。
 川井さんの言ったことを、絶対に違うと全否定したがって仕方がない。

 だけど俯瞰的に見れば、桔平さんがモテないわけがないのだ。
 一番の恋人候補は私だと信じていたけれど、それはもしかしたら思い上がりだろうか。
 そんな考えに至ったらどんどん悲しくなってきて、涙をこらえるのに必死だ。

「そんな顔するなよ。ますます放っておけなくなるだろ。でも……辞めておけっていう忠告は取り消さないから」

 私が唇をギュッとかみしめて泣かないようにしているのを見て、川井さんが困ったようにつぶやいた。

「私、初めてなんです。こんな気持ち。こんなにも大好きだって思える気持ちは、二十四年生きてきて初めて。だから簡単にあきらめたくないんです」

 気がつくと素直な心の内を吐露していた。
 三雲さんや仁科さんのときとはあきらかに違って、桔平さんへの気持ちは本物だから。
 なにもわからないうちからあきらめて、後悔したくない。
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