上 下
13 / 50

やはり御曹司でした②

しおりを挟む
「なんですか、いったい!」

 私がそう抗議するのと同時に手首が解放された。
 川井さんは店内を気にしながらも、奥にある空いた席へ座るように私の背中を押す。

「なにも言わずに急に引っ張ってくるとか、ありえないんですけど」

 温かい紅茶が運ばれてきて、川井さんがそれをひと口飲んだところで、私はムッとしながら抗議した。
 私と川井さんは友人関係でもなんでもないのに、いくらなんでも強引すぎる。

「あー、ムカつく」

 紅茶を飲みながら、川井さんが静かにつぶやいた。
 いや、ムカついてるのはわけもわからず連れて来られた私のほうだ。

「俺、名刺渡したよな? 携帯の番号もSNSのIDも全部書いてるやつ。なのに全然連絡してこないし!」
「……は?」
「俺って結構イケメンだと思ってんだけど」

 たしかに世間一般的にはイケメンの部類だとは思うけれど、自分で言うところを見ると川井さんはナルシストだろうか。
 それに、私が連絡しなかったことにムカついていると取れる発言だが、必ず連絡すると約束したわけでもないのに、なぜ不機嫌なのか意味不明だ。

「電話待ってるから、ってあのとき優しく言っただろ?」
「相談するようなことはなにもないですから。というか、あれって結局ナンパだったんですか?」
「はは。半分はそうだな」

 もう呆れて物が言えない。とにかく飲み終えたら帰ろうと、紅茶のカップを手に取った。

「このイケメンの俺が名刺を渡しても無視なのに、あの常務にはいとも簡単に落ちたのか……」

 飲んでいるときにそう言われ、驚いてゴホゴホとむせてしまった。
 手元にあった紙ナプキンで口を覆いながら川井さんのほうに視線を向ければ、ビンゴだろ?とでも言わんばかりに不敵な笑みを浮かべている。

「あの常務はすごいな。どんな女でも一撃必殺かよ。君に関してはまるで俺が完敗したみたいで、それがムカつく」
「じょ、常務って……?」
「今さらとぼけなくてもいいさ。志田ケミカルの常務だってわかってるくせに」
「……」

 今まではっきりと固有名詞が出てこなかったので念のためにと確かめてみたけれど、やはり“常務”とは、桔平さんのことだった。

「君、オッティモの社員だったんだな。
「どうして私の名前……」
「見くびらないでくれよ。俺の仕事知ってるだろ。って言いたいところだけど、オッティモの創立記念パーティーに俺も行ったから」
「川井さんが?!」

 普通に考えて探偵とうい職業の川井さんが招待客にリストアップされているわけがない。
 きっと、誰か他の招待客と一緒にくっついて会場に入ったのだ。私は川井さんが来たという記憶はないから、たまたま私が受付の席をはずしたときだろう。

「パーティーに来たって……まさか……」

 なぜ川井さんが私に桔平さんのことを話すのか。私の頭の中で、急に点と点が線で繋がった。
 私と、桔平さんと、パーティーと、川井さんの言動……
 私と桔平さんが出会ったのも、あのパーティーだ。

「偶然だけどな。見かけたんだ、トイレ前でのふたりを」

 やはり。桔平さんが私を心配して、トイレの前で声をかけてくれたあのときだ。あれを川井さんに見られていたなんて思いもしなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。 初見李依(27) 寝具メーカー事務 頑張り屋の努力家 人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある 自分より人の幸せを願うような人 × 和家悠将(36) ハイシェラントホテルグループ オーナー 押しが強くて俺様というより帝王 しかし気遣い上手で相手のことをよく考える 狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味 身籠もったから愛されるのは、ありですか……?

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」 十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。 まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。 夢は自分で叶えなきゃ。 ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

処理中です...