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やはり御曹司でした②

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「なんですか、いったい!」

 私がそう抗議するのと同時に手首が解放された。
 川井さんは店内を気にしながらも、奥にある空いた席へ座るように私の背中を押す。

「なにも言わずに急に引っ張ってくるとか、ありえないんですけど」

 温かい紅茶が運ばれてきて、川井さんがそれをひと口飲んだところで、私はムッとしながら抗議した。
 私と川井さんは友人関係でもなんでもないのに、いくらなんでも強引すぎる。

「あー、ムカつく」

 紅茶を飲みながら、川井さんが静かにつぶやいた。
 いや、ムカついてるのはわけもわからず連れて来られた私のほうだ。

「俺、名刺渡したよな? 携帯の番号もSNSのIDも全部書いてるやつ。なのに全然連絡してこないし!」
「……は?」
「俺って結構イケメンだと思ってんだけど」

 たしかに世間一般的にはイケメンの部類だとは思うけれど、自分で言うところを見ると川井さんはナルシストだろうか。
 それに、私が連絡しなかったことにムカついていると取れる発言だが、必ず連絡すると約束したわけでもないのに、なぜ不機嫌なのか意味不明だ。

「電話待ってるから、ってあのとき優しく言っただろ?」
「相談するようなことはなにもないですから。というか、あれって結局ナンパだったんですか?」
「はは。半分はそうだな」

 もう呆れて物が言えない。とにかく飲み終えたら帰ろうと、紅茶のカップを手に取った。

「このイケメンの俺が名刺を渡しても無視なのに、あの常務にはいとも簡単に落ちたのか……」

 飲んでいるときにそう言われ、驚いてゴホゴホとむせてしまった。
 手元にあった紙ナプキンで口を覆いながら川井さんのほうに視線を向ければ、ビンゴだろ?とでも言わんばかりに不敵な笑みを浮かべている。

「あの常務はすごいな。どんな女でも一撃必殺かよ。君に関してはまるで俺が完敗したみたいで、それがムカつく」
「じょ、常務って……?」
「今さらとぼけなくてもいいさ。志田ケミカルの常務だってわかってるくせに」
「……」

 今まではっきりと固有名詞が出てこなかったので念のためにと確かめてみたけれど、やはり“常務”とは、桔平さんのことだった。

「君、オッティモの社員だったんだな。
「どうして私の名前……」
「見くびらないでくれよ。俺の仕事知ってるだろ。って言いたいところだけど、オッティモの創立記念パーティーに俺も行ったから」
「川井さんが?!」

 普通に考えて探偵とうい職業の川井さんが招待客にリストアップされているわけがない。
 きっと、誰か他の招待客と一緒にくっついて会場に入ったのだ。私は川井さんが来たという記憶はないから、たまたま私が受付の席をはずしたときだろう。

「パーティーに来たって……まさか……」

 なぜ川井さんが私に桔平さんのことを話すのか。私の頭の中で、急に点と点が線で繋がった。
 私と、桔平さんと、パーティーと、川井さんの言動……
 私と桔平さんが出会ったのも、あのパーティーだ。

「偶然だけどな。見かけたんだ、トイレ前でのふたりを」

 やはり。桔平さんが私を心配して、トイレの前で声をかけてくれたあのときだ。あれを川井さんに見られていたなんて思いもしなかった。

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