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初めての一目惚れ⑥
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「急用、ってことですよね?」
頼みこまれて森内さんが慌てて私に電話してくるくらいだから、営業一部で何かあったのだ。それしか考えられない。
『大きなクレームが発生して先方がカンカンなんだって。取引を辞めるとまで言いだしてるし、大野部長の決裁印もいるから、一旦こっちに戻ってほしいって』
「それは急ぎますね」
『浅木さん、会場の中にそっと入って、部長に耳打ちするかメモを渡してくれる?』
「わかりました。やってみます」
大野部長の顔は覚えているけれど、大変な任務を請け負ってしまった。
そっと会場の中に入ってその姿を探すと、上層階の会社の幹部らしい方と話をされていた。
「大野部長、すみません」
話が終わるタイミングを見計らってメモを渡す。 何だね?とあからさまに嫌そうな顔をされたが、メモを見て表情が変わり、私に小さくわかったと答えてくれた。どうやら事態を飲み込んでいただけたようだ。
大野部長が会場の外に出たのと同時に森内さんに電話で報告し、ホッと胸をなでおろして任務完了だ。
私も蘭のところに戻ろうと、人の波を避けるように歩いたつもりだったが、うっかりひとりの男性とぶつかってしまう。
「あっ!」
ぶつかった拍子に、その男性が持っていたシャンパングラスの中身が私のスーツのスカートにかかってしまい、男性が小さく声を上げた。
「すみません、濡れましたよね?」
「こちらこそぶつかってしまって申し訳ありません。私の不注意で」
ふと顔を上げると、長身のスーツ姿の男性が申し訳なさそうにこちらを見ていて、自然と視線がぶつかる。
ふんわりとセットされた黒髪、シャープな輪郭、キリっと通った鼻筋、凛々しい眉、涼し気なのに優しそうな瞳……どこを切り取ってもイケメンとしか言いようのない顔だちの男性だ。
「大丈夫?」
すぐそばを通ったスタッフにおしぼりをもらってくれて、私に手渡してくれた。
「大丈夫です。すみませんでした」
私は深々とおじぎをし、その足でトイレへと向かった。
誰だかわからなかったけれど、あまりにも顔だちが綺麗すぎてぼうっと見とれそうになった。
あんなイケメンが世の中に存在するのかと圧倒された。
私は受付にいたのに、来訪時に全然気がつかなかった。もしや芸能人かと思ったが、そんな招待客は聞いていないから違うのだろう。
あれこれぼんやりと考えながら、先ほどもらったおしぼりでスカートの汚れた部分をゴシゴシと拭く。
少しシミになるかもしれないけれど乾けば大丈夫だろう。
とにかく、シャンパンがかかったのが私で不幸中の幸いだった。
逆にあの男性にかかっていたら、大失態で上司からかなり叱られたはずだから。
ふぅっと小さく息を吐いて女子トイレから外に出ると、先ほどの超絶イケメンな男性が少し離れたところで私を待っていて、そのことに驚いて立ち止まってしまった。
「ごめんね、やっぱり気になって……」
男性が申し訳なさそうに近づいてくる。
先ほどは気がつかなかったけれど、彼のスーツの襟元には社章のバッジがつけられていた。
アザミをモチーフにしたそのマークは、志田ケミカルのものだ。
頼みこまれて森内さんが慌てて私に電話してくるくらいだから、営業一部で何かあったのだ。それしか考えられない。
『大きなクレームが発生して先方がカンカンなんだって。取引を辞めるとまで言いだしてるし、大野部長の決裁印もいるから、一旦こっちに戻ってほしいって』
「それは急ぎますね」
『浅木さん、会場の中にそっと入って、部長に耳打ちするかメモを渡してくれる?』
「わかりました。やってみます」
大野部長の顔は覚えているけれど、大変な任務を請け負ってしまった。
そっと会場の中に入ってその姿を探すと、上層階の会社の幹部らしい方と話をされていた。
「大野部長、すみません」
話が終わるタイミングを見計らってメモを渡す。 何だね?とあからさまに嫌そうな顔をされたが、メモを見て表情が変わり、私に小さくわかったと答えてくれた。どうやら事態を飲み込んでいただけたようだ。
大野部長が会場の外に出たのと同時に森内さんに電話で報告し、ホッと胸をなでおろして任務完了だ。
私も蘭のところに戻ろうと、人の波を避けるように歩いたつもりだったが、うっかりひとりの男性とぶつかってしまう。
「あっ!」
ぶつかった拍子に、その男性が持っていたシャンパングラスの中身が私のスーツのスカートにかかってしまい、男性が小さく声を上げた。
「すみません、濡れましたよね?」
「こちらこそぶつかってしまって申し訳ありません。私の不注意で」
ふと顔を上げると、長身のスーツ姿の男性が申し訳なさそうにこちらを見ていて、自然と視線がぶつかる。
ふんわりとセットされた黒髪、シャープな輪郭、キリっと通った鼻筋、凛々しい眉、涼し気なのに優しそうな瞳……どこを切り取ってもイケメンとしか言いようのない顔だちの男性だ。
「大丈夫?」
すぐそばを通ったスタッフにおしぼりをもらってくれて、私に手渡してくれた。
「大丈夫です。すみませんでした」
私は深々とおじぎをし、その足でトイレへと向かった。
誰だかわからなかったけれど、あまりにも顔だちが綺麗すぎてぼうっと見とれそうになった。
あんなイケメンが世の中に存在するのかと圧倒された。
私は受付にいたのに、来訪時に全然気がつかなかった。もしや芸能人かと思ったが、そんな招待客は聞いていないから違うのだろう。
あれこれぼんやりと考えながら、先ほどもらったおしぼりでスカートの汚れた部分をゴシゴシと拭く。
少しシミになるかもしれないけれど乾けば大丈夫だろう。
とにかく、シャンパンがかかったのが私で不幸中の幸いだった。
逆にあの男性にかかっていたら、大失態で上司からかなり叱られたはずだから。
ふぅっと小さく息を吐いて女子トイレから外に出ると、先ほどの超絶イケメンな男性が少し離れたところで私を待っていて、そのことに驚いて立ち止まってしまった。
「ごめんね、やっぱり気になって……」
男性が申し訳なさそうに近づいてくる。
先ほどは気がつかなかったけれど、彼のスーツの襟元には社章のバッジがつけられていた。
アザミをモチーフにしたそのマークは、志田ケミカルのものだ。
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