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番外編⑨
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「お前こそ、なぜ急に出世したい? 今まで言ったことなかったろ?」
正直、俺は今までそういうものに興味がなかった。
長年勤務していればそのうち出世するかも……くらいに思っていた。
やらなきゃいけない仕事を、淡々とこなす毎日だったのだ。
「出世したいっていうか、稼げる男になりたいんですよ。それには、出世して年棒の高い役職につくしかないのかな、と……」
条件の良い他の会社に転職するとか、なにか自分で事業を始めるには、コネとか後ろ盾がない俺にとってはすごく遠回りな気がする。
それよりもこの会社で上を目指すほうが手っ取り早いのではないだろうか。自分の器量を考えるとそう思えるのだ。
「はは。恋人ができるとそういう考えが浮かぶわけか」
俺は真剣に話しているというのに、宇田さんは笑いながら図星を指した。
舞花のことはひとことも言っていないが、勘の良い宇田さんは、奥深くにある俺の思いに容易く辿り着く。
「あんまり調子に乗らせたくないから言わなかったが、和久井は営業職に向いてる。成績も他の社員より優秀だ」
俺はいつも宇田さんの次の二番手だ。いつか追い越してやる! と思っているのに毎月あと一歩追いつかない。
「それにお前は人間的に器用だからな。努力すれば、将来そこそこ上にいけるはずだよ」
営業部で宇田さんはもう何年も成績トップだ。
それが悔しくて、俺はなにかあると宇田さんに対して反抗的な口調だった。
きっと俺みたいなタイプは、生意気でかわいげのない後輩だろう。
だから宇田さんが俺を優秀だの器用だのと褒めるのは意外で驚いた。
「結婚でも考えてるのか?」
結婚? 俺が舞花と?
「いえ……別にそういうわけじゃ……」
咄嗟にそう否定してしまった。
結婚が嫌だとか、舞花とは考えられないわけではなく、まだ付き合って日が浅いから結婚までは考えていなかったというのが正直なところだ。
「考えないのかよ」
あきれた様子で俺に突っ込む宇田さんに、あなたのほうこそ考えないんですか? と言いたいくらいだ。
「俺たちは付き合い始めたばかりですから」
「ちゃんと彼女を大事にしてるのか?」
「してますよ」
説教くさい人だとは思っていたが、こういう生真面目なところが宇田さんの魅力なのかもしれない。
「誕生日のプレゼントは欠かすなよ? 女性はそういう気配りがうれしいもんなんだ」
「誕生日ね……あ!」
俺が突然叫んだので、宇田さんがどうかしたのかと目で訴えてくる。
「俺、舞花の誕生日を知らないです」
「はぁ?!」
ありえないだろ、と言わんがばかりに驚いた声をあげると、宇田さんは首を横に小さく振りながら左手で頭をかかえた。
「そういう男が一番嫌われるからな?」
今そんなことを言われても、どうしようもない。
正直、俺は今までそういうものに興味がなかった。
長年勤務していればそのうち出世するかも……くらいに思っていた。
やらなきゃいけない仕事を、淡々とこなす毎日だったのだ。
「出世したいっていうか、稼げる男になりたいんですよ。それには、出世して年棒の高い役職につくしかないのかな、と……」
条件の良い他の会社に転職するとか、なにか自分で事業を始めるには、コネとか後ろ盾がない俺にとってはすごく遠回りな気がする。
それよりもこの会社で上を目指すほうが手っ取り早いのではないだろうか。自分の器量を考えるとそう思えるのだ。
「はは。恋人ができるとそういう考えが浮かぶわけか」
俺は真剣に話しているというのに、宇田さんは笑いながら図星を指した。
舞花のことはひとことも言っていないが、勘の良い宇田さんは、奥深くにある俺の思いに容易く辿り着く。
「あんまり調子に乗らせたくないから言わなかったが、和久井は営業職に向いてる。成績も他の社員より優秀だ」
俺はいつも宇田さんの次の二番手だ。いつか追い越してやる! と思っているのに毎月あと一歩追いつかない。
「それにお前は人間的に器用だからな。努力すれば、将来そこそこ上にいけるはずだよ」
営業部で宇田さんはもう何年も成績トップだ。
それが悔しくて、俺はなにかあると宇田さんに対して反抗的な口調だった。
きっと俺みたいなタイプは、生意気でかわいげのない後輩だろう。
だから宇田さんが俺を優秀だの器用だのと褒めるのは意外で驚いた。
「結婚でも考えてるのか?」
結婚? 俺が舞花と?
「いえ……別にそういうわけじゃ……」
咄嗟にそう否定してしまった。
結婚が嫌だとか、舞花とは考えられないわけではなく、まだ付き合って日が浅いから結婚までは考えていなかったというのが正直なところだ。
「考えないのかよ」
あきれた様子で俺に突っ込む宇田さんに、あなたのほうこそ考えないんですか? と言いたいくらいだ。
「俺たちは付き合い始めたばかりですから」
「ちゃんと彼女を大事にしてるのか?」
「してますよ」
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「誕生日のプレゼントは欠かすなよ? 女性はそういう気配りがうれしいもんなんだ」
「誕生日ね……あ!」
俺が突然叫んだので、宇田さんがどうかしたのかと目で訴えてくる。
「俺、舞花の誕生日を知らないです」
「はぁ?!」
ありえないだろ、と言わんがばかりに驚いた声をあげると、宇田さんは首を横に小さく振りながら左手で頭をかかえた。
「そういう男が一番嫌われるからな?」
今そんなことを言われても、どうしようもない。
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