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番外編⑤

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 明音とは同じ大学だった。
 最初にどこで俺を見つけたのかは知らないが、徐々に話しかけられることが増えたある日、明音のほうから付き合って欲しいと言ってきたのだ。
 その時点では断る理由も見つからなかったし、嫌いではなかったからOKしたのだが……

 しだいに明音はワガママな性格だとわかってしまった。
 そしてそれは、付き合っていくうちにどんどん度が過ぎるようになり、結局それが原因で連絡を取らなくなったような記憶がある。
 なんせ明音は強引なのだ。一度言い出したら、周りの意見など聞かない。
 今思えば、簡単に付き合うと決めたのは間違いだった。

「あ、そうそう! パパの会社ね、あれから大きくなったのよ。業績も好調で、横浜と名古屋に支社もできたの」
「へぇ、それはすごいな」

 たしかコンサルティング会社だったか?
 俺と付き合っていた五年前は細々と経営していた父親の会社が、そこまで大きくなっただなんて大したものだ。

「で、五年ぶりにいきなり連絡してきて、親父さんの会社の話か?」

 満足そうに霜降りの高級ロースステーキを口に運ぶ明音を前に、俺はすでに疲れていた。
 こんな店は滅多に来れるものじゃないが、目の前の相手がワガママな性格の明音なので、店の雰囲気すら味わう余裕はない。

「違うの。私の元カレの話」
「元カレ?」

 なんだ、恋愛相談か。

「最近彼氏と別れたの。だから……元カレ」

 それは五年ぶりに俺を呼び出してまでする話なのか? 身近な友達に話せばいいのに。
 女同士のほうが、そういう話は共感し合えたりするだろう。

「その別れた彼氏、パパの会社で働いてた人なの」
「……へぇ」

 働いてた……と過去形なのは、今は違うのか。

「パパに、すごく優秀な社員がいるって紹介されて知り合ったの。カッコいい人だったし付き合うことにした。どうやらパパは私とその人を結婚させて、後継者にって思ってたみたい」

 明音には兄弟はいない。一人娘だ。
 だから父親が自分の気に入った男と娘を結婚させて、跡を継がせたいと思っても不思議はない。

「でもダメだったのか? なにか気に入らないところでも?」

 明音のこの口ぶりと話し方からして、彼女からその男に別れを切り出したに違いない。なにか不足があったのだろう。

「気に入らないっていうか、やっちゃったのよねぇ……」
「なにを?……浮気か?」
「横領」
「お、横領?!」

 おいおい、横領は犯罪だぞ?!
 俺は思ってもみなかった話の展開に思わず目を見開いた。
 だけど明音は高そうな赤ワインをガブガブとなにくわぬ顔で飲んでいる。
 味はまぁまぁね、などと、またもや店に失礼なことを言いながら。
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