45 / 57
番外編③
しおりを挟む
「……ましたよ?……和久井さんっ!!」
「あぁ、ごめん。なに?」
俺はあのあとまったく仕事に集中できずにいた。心ここにあらず、だ。
「もう! 聞いてなかったんですか? 朝に頼まれた資料を揃えておきました!」
「……ありがとう」
夕方、営業事務の林田さんがムッとしながら俺に資料を手渡してきた。
彼女は最近、俺に冷たいな。なにかしたか? と胸に手を当てて考えてみたものの、思い当たるふしがない。
「お前に恋人ができたって噂が広まってから、めっきりモテなくなりましたねぇ」
俺と林田さんのやりとりを聞いていたのか、佐藤がニヤニヤとした顔で後ろから声をかけてきた。
「別に林田さんは俺を好きでもなんでもなかっただろ」
「そんなもんなんだよ。特定の恋人がいるヤツより、いない男のほうが相対的にモテるんじゃないかぁ?」
佐藤の言い方がイラっときた。
頼むからそんなことを考えている暇があったら仕事をしてくれ。
「これは来ちゃうかもな~、俺の時代が!」
「あほか」
お前の時代なんて、何万年待っても来ないわ。
でもそれは言わずにいてやろう。どうせ佐藤はなにを言っても無駄なくらいポジティブだから。
そのあとも集中力が欠けたまま、気づけば残業になっていた。
全然仕事が進む気がしないし、今日はもう切り上げて帰ろうか……
そう考えた矢先、俺のスマホがブルブルと胸ポケットで震えた。
確認すると、画面の表示は番号のみだったので、登録していない相手だ。
もし仕事関係の人物なら会社のスマホにかけてくるはずだが、鳴っているのは俺の個人のスマホだった。
いったい誰からだろうか。
「もしもし」
俺はとりあえず会社の休憩スペースへと歩いて移動しながら、相手が誰だかわからない電話に出てみることにした。
『もしもし? 竣の携帯で合ってる?』
「合ってるけど……誰?」
聞き覚えのある女の声だったが、俺はすぐに思い出せないでいた。
『久しぶり。私よ、明音』
「ああ、明音か!」
『さては忘れてたわね?』
明音とは、大学四年の終わりにほんの短い期間付き合っていた。
お互いに本気ではなかったからか、しだいに連絡を取る機会が減ったため、卒業と共に別れた。
今思えば、恋人などとは言えない程度の関係だった。
もう連絡しあわないだろうと思い、彼女の番号を登録からはずしていたので、急に電話がかかってきたことに驚いたのだ。
『竣は番号が変わっていないのね』
「ああ」
それにしても明音はよく俺の番号をまだ登録していたものだ。別れてから一度も連絡などしていないのに。
『あのころ内定をもらっていた会社で今も働いているの?』
「そうだけど?」
『良かった。私、竣の会社の近くにいるの。駅前のコーヒーショップで待ってるから出てきてよ?』
唐突に、いったいなんなのだ。意味がわからない。
「あぁ、ごめん。なに?」
俺はあのあとまったく仕事に集中できずにいた。心ここにあらず、だ。
「もう! 聞いてなかったんですか? 朝に頼まれた資料を揃えておきました!」
「……ありがとう」
夕方、営業事務の林田さんがムッとしながら俺に資料を手渡してきた。
彼女は最近、俺に冷たいな。なにかしたか? と胸に手を当てて考えてみたものの、思い当たるふしがない。
「お前に恋人ができたって噂が広まってから、めっきりモテなくなりましたねぇ」
俺と林田さんのやりとりを聞いていたのか、佐藤がニヤニヤとした顔で後ろから声をかけてきた。
「別に林田さんは俺を好きでもなんでもなかっただろ」
「そんなもんなんだよ。特定の恋人がいるヤツより、いない男のほうが相対的にモテるんじゃないかぁ?」
佐藤の言い方がイラっときた。
頼むからそんなことを考えている暇があったら仕事をしてくれ。
「これは来ちゃうかもな~、俺の時代が!」
「あほか」
お前の時代なんて、何万年待っても来ないわ。
でもそれは言わずにいてやろう。どうせ佐藤はなにを言っても無駄なくらいポジティブだから。
そのあとも集中力が欠けたまま、気づけば残業になっていた。
全然仕事が進む気がしないし、今日はもう切り上げて帰ろうか……
そう考えた矢先、俺のスマホがブルブルと胸ポケットで震えた。
確認すると、画面の表示は番号のみだったので、登録していない相手だ。
もし仕事関係の人物なら会社のスマホにかけてくるはずだが、鳴っているのは俺の個人のスマホだった。
いったい誰からだろうか。
「もしもし」
俺はとりあえず会社の休憩スペースへと歩いて移動しながら、相手が誰だかわからない電話に出てみることにした。
『もしもし? 竣の携帯で合ってる?』
「合ってるけど……誰?」
聞き覚えのある女の声だったが、俺はすぐに思い出せないでいた。
『久しぶり。私よ、明音』
「ああ、明音か!」
『さては忘れてたわね?』
明音とは、大学四年の終わりにほんの短い期間付き合っていた。
お互いに本気ではなかったからか、しだいに連絡を取る機会が減ったため、卒業と共に別れた。
今思えば、恋人などとは言えない程度の関係だった。
もう連絡しあわないだろうと思い、彼女の番号を登録からはずしていたので、急に電話がかかってきたことに驚いたのだ。
『竣は番号が変わっていないのね』
「ああ」
それにしても明音はよく俺の番号をまだ登録していたものだ。別れてから一度も連絡などしていないのに。
『あのころ内定をもらっていた会社で今も働いているの?』
「そうだけど?」
『良かった。私、竣の会社の近くにいるの。駅前のコーヒーショップで待ってるから出てきてよ?』
唐突に、いったいなんなのだ。意味がわからない。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる