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番外編③

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「……ましたよ?……和久井さんっ!!」
「あぁ、ごめん。なに?」

 俺はあのあとまったく仕事に集中できずにいた。心ここにあらず、だ。

「もう! 聞いてなかったんですか? 朝に頼まれた資料を揃えておきました!」
「……ありがとう」

 夕方、営業事務の林田はやしださんがムッとしながら俺に資料を手渡してきた。
 彼女は最近、俺に冷たいな。なにかしたか? と胸に手を当てて考えてみたものの、思い当たるふしがない。

「お前に恋人ができたって噂が広まってから、めっきりモテなくなりましたねぇ」

 俺と林田さんのやりとりを聞いていたのか、佐藤がニヤニヤとした顔で後ろから声をかけてきた。

「別に林田さんは俺を好きでもなんでもなかっただろ」
「そんなもんなんだよ。特定の恋人がいるヤツより、いない男のほうが相対的にモテるんじゃないかぁ?」

 佐藤の言い方がイラっときた。
 頼むからそんなことを考えている暇があったら仕事をしてくれ。

「これは来ちゃうかもな~、俺の時代が!」
「あほか」

 お前の時代なんて、何万年待っても来ないわ。
 でもそれは言わずにいてやろう。どうせ佐藤はなにを言っても無駄なくらいポジティブだから。

 そのあとも集中力が欠けたまま、気づけば残業になっていた。
 全然仕事が進む気がしないし、今日はもう切り上げて帰ろうか……
 そう考えた矢先、俺のスマホがブルブルと胸ポケットで震えた。
 確認すると、画面の表示は番号のみだったので、登録していない相手だ。
 もし仕事関係の人物なら会社のスマホにかけてくるはずだが、鳴っているのは俺の個人のスマホだった。
 いったい誰からだろうか。

「もしもし」

 俺はとりあえず会社の休憩スペースへと歩いて移動しながら、相手が誰だかわからない電話に出てみることにした。

『もしもし? 竣の携帯で合ってる?』
「合ってるけど……誰?」

 聞き覚えのある女の声だったが、俺はすぐに思い出せないでいた。

『久しぶり。私よ、明音あかね
「ああ、明音か!」
『さては忘れてたわね?』

 明音とは、大学四年の終わりにほんの短い期間付き合っていた。
 お互いに本気ではなかったからか、しだいに連絡を取る機会が減ったため、卒業と共に別れた。
 
 今思えば、などとは言えない程度の関係だった。
 もう連絡しあわないだろうと思い、彼女の番号を登録からはずしていたので、急に電話がかかってきたことに驚いたのだ。

『竣は番号が変わっていないのね』
「ああ」

 それにしても明音はよく俺の番号をまだ登録していたものだ。別れてから一度も連絡などしていないのに。

『あのころ内定をもらっていた会社で今も働いているの?』
「そうだけど?」
『良かった。私、竣の会社の近くにいるの。駅前のコーヒーショップで待ってるから出てきてよ?』

 唐突に、いったいなんなのだ。意味がわからない。
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