【完結】あなたに恋愛指南します

夏目若葉

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◇本気の恋を教えます①

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 しだいに空が夜の闇色になり、街灯のあかりが街を染めるころ。
 私は行き交う人たちの間をすり抜けるように、全速力で駆け出していた。
“全速力”といっても、私は足が遅いからたいしたスピードではないし、しかも足元はヒール高めのパンプスだ。
 無理に走ったせいか、かかとが靴ずれで痛くなってきた。
 よく考えてみれば、こんなに息を切らせて走らなくてもよかったのだ。
 だけど走らずにはいられなかった。無意識にこういう行動に出てしまっていた。

 今日、うちの会社に和久井さんが訪問してきた。
 受付で会っただけだったけれど、彼は私の体調がずっと気がかりだったのか、顔を合わせるなりその話をしてくれた。
 私は正直、前回のデートのあと、和久井さんとどう接していいのかわからずにいる。
 メッセージを送ろうにも、どんな言葉をかければいいのかと悩んで、結局連絡しそびれていた。
 理由は、和久井さんが私をどう思っているのかわからないからだ。

 おそらくなんとも思っていないのだろう。
 一緒にラーメンを食べただけのあのデートは失敗に終わり、私とうまくいく見込みはもうないのだと覚悟していた。
 だけど今日、彼が私に話しかけてくれて、またどこかに一緒に出掛けようと言われたのはうれしかった。
 まだ可能性があるのではないかと期待を持たせてくれたから。

 私は……和久井さんが好きだ。
 笑って話しかけられたくらいで、こんなにもうれしくて胸がときめく。
 片思いなのはわかっていても、好きな気持ちは変えられない。
 そう自覚して、今日は浮かれていたせいか、私は仕事で最後にミスをした。
 来客されていたお客様宛に預かっていた書類があり、帰り際にそれを渡さなければいけなかったのに、うっかり忘れてしまったのだ。
 そのため、責任を持って自分自身で届けなくてはいけなくなった。こんなミスをするなんて珍しい。

 だけどその帰り道で衝撃的なことが起こってしまう。
 書類を届けたあと、直帰になった私はとぼとぼと駅へ向かって歩いていて、とある店の看板を目にして足を止めた。
 あれは……あの時の雑貨店ではないのかな?
 和久井さんたちとの飲み会の日も、たしかこの道を通っていたと思う。
 あの店から出てきたような気がするのだ。―― 和久井さんの好きな女性が。
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