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◇前進③

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 和久井さんが追い付いてきたあと、すぐにカラオケ店に到着した。
 部屋に入ってそれぞれ自由に座り始めたが、私の隣に自然な感じで和久井さんが腰を下ろした。

「ドリンク、どれにする?」

 和久井さんが爽やかな笑みをたたえつつ、私にドリンクメニューを差し出す。
 私はソフトドリンクのページを飛ばし、アルコールのメニューに視線を落とした。

「じゃあ、ファジーネーブルで」
「え? それはカクテルだけどアルコールで大丈夫?」

 あまりお酒は飲めないと最初に伝えたからか、和久井さんが心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫です! オレンジジュースで割ってあるみたいだし、甘いから飲めます」

 ファジーネーブルはピーチリキュールとオレンジジュースから出来ていて、飲みやすいと書いてあったのでそれにした。
 大見栄をきって大丈夫だと言ってみたが、実は自信はない。
 ただ気持ちがモヤモヤしていたから、勢いでお酒を頼んでしまっただけなのだ。

 しばらくしてオーダーしたものが運ばれてきて、私の目の前にファジーネーブルが置かれた。
 和久井さんは静かにビールを飲み、佐藤さんはノリノリで熱唱している。
 私は他の人が歌う曲に合わせて手拍子をし、隣に座る和久井さんとは、今度はほとんど話をしなかった。
 佐藤さんに「がんばって積極的に」と言ってもらったし、なにか話したほうがいいとわかってはいたが、会話のきっかけが見つからない。
 モヤモヤしたまま時間だけが過ぎ、気がつくとファジーネーブルを半分以上飲んでいた。

「はい、これ」

 和久井さんが私のファジーネーブルを取り上げて、その代わりに届いたばかりのウーロン茶を置いた。

「え……」
「顔が赤いし、目がとろんとしてる。それ飲んで酔いを醒ましたほうがいい」

 私の様子を見ていた和久井さんが、気を利かせてくれたみたいだ。

「気分悪くない?」
「はい。でも……頭は重いかも」

 エヘヘと笑えば、和久井さんが苦笑いの笑みを浮かべる。

 私はなんとなくソファーの背もたれに頭を乗せて天井を仰いだ。
 酔った勢いで和久井さんの肩に寄りかかれたらよかったけれど、もしも肩を貸してくれなかったら……とネガティブな考えが頭をよぎると思い切ったこともできなかった。
 私はお酒の力を借りてもまだまだ臆病だ。

「首まで赤いね」

 自然と伸びた私の首元を見て、和久井さんが話しかける。

「妙に色っぽいから危ないな」

 和久井さんから独り言のような言葉が聞こえ、私はあわててソファーから頭を持ち上げた。

「飲み会に来て、弱いのに無理に酒を飲んで、とろんとした目で色気を出してたら、お持ち帰りされるよ?」

 それは……どういう意味で言っているのだろう? ただの一般論だろうか。

「お持ち帰り、してください」
「え?!」
「冗談ですよ」

 瞬間的に驚いた顔をした和久井さんは、私が冗談だと告げるとあきれた表情に変わった。
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