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◇前進①
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***
「あれは誰?」
美里が低い声音でつぶやくように尋ねた。
それは和久井さんと佐藤さん以外の、この場にいた誰もが思っただろう。
和久井さんは佐藤さんに先に行くように言い残し、雑貨店のシャッターを閉める若い女性となにやら話をしている。
そのふたりの雰囲気が、なんとなく普通ではない気がした。
「和久井さんと、どういう関係かしら?」
雰囲気に気づいたのは、私だけではなく美里も同じだった。
美里が明らかに不機嫌オーラを出しながら佐藤さんに詰め寄る。
和久井さんが私たちを先に行かせたのは、その女性とふたりになりたかったからかもしれない。
ひとりでにそんな考えが頭に浮かび、勝手に落ち込んだ。
私はただ茫然と和久井さんたちを見つめることしかできず、平静を装うのに精一杯だった。
美里に「行こう」と声をかけられ、ようやく私は和久井さんたちに背を向けて歩き出した。
「あの子は元同僚なんだよ。半年くらい前に彼女は会社を辞めたんだ」
同じ会社に勤めていた女性なのだと、佐藤さんが私たちに説明をしてくれた。
「元同僚? ……元カノの間違いじゃなくて?」
美里がムッとした表情で佐藤さんに言い返した。佐藤さんが悪いわけではないので、さすがに気の毒になってくる。
「いや、違う。ふたりは付き合ってなかったよ。一方的に竣が……気に入ってたかもしれないけど」
「は?! 和久井さんには特別な女性はいないって、さっきあなたの口から聞いたはずだよね? それって恋人はもちろん、好きな人もいないって意味じゃないの?」
「い、いないよ! 遥ちゃんのことも、もうなんとも思っていないはずだから……」
私のすぐ前を歩く美里と佐藤さんの会話が自然と耳に入ってくるけれど、美里はまるで詐欺にでもあったかのように不機嫌だし、佐藤さんは美里に抗議されて苦笑いしながら困り果てている。
「でも俺ね、」
佐藤さんが歩きながら、突然上半身だけ振り向いて私に話しかけた。
「舞花ちゃんは、脈アリだと思うよ?」
「え?」
先ほどの和久井さんの態度を目にした上で、どうしてそんなふうに思えるのか、私にはさっぱりわからない。
涙目になりながらも、ポカンと佐藤さんを見上げる。
「あれは誰?」
美里が低い声音でつぶやくように尋ねた。
それは和久井さんと佐藤さん以外の、この場にいた誰もが思っただろう。
和久井さんは佐藤さんに先に行くように言い残し、雑貨店のシャッターを閉める若い女性となにやら話をしている。
そのふたりの雰囲気が、なんとなく普通ではない気がした。
「和久井さんと、どういう関係かしら?」
雰囲気に気づいたのは、私だけではなく美里も同じだった。
美里が明らかに不機嫌オーラを出しながら佐藤さんに詰め寄る。
和久井さんが私たちを先に行かせたのは、その女性とふたりになりたかったからかもしれない。
ひとりでにそんな考えが頭に浮かび、勝手に落ち込んだ。
私はただ茫然と和久井さんたちを見つめることしかできず、平静を装うのに精一杯だった。
美里に「行こう」と声をかけられ、ようやく私は和久井さんたちに背を向けて歩き出した。
「あの子は元同僚なんだよ。半年くらい前に彼女は会社を辞めたんだ」
同じ会社に勤めていた女性なのだと、佐藤さんが私たちに説明をしてくれた。
「元同僚? ……元カノの間違いじゃなくて?」
美里がムッとした表情で佐藤さんに言い返した。佐藤さんが悪いわけではないので、さすがに気の毒になってくる。
「いや、違う。ふたりは付き合ってなかったよ。一方的に竣が……気に入ってたかもしれないけど」
「は?! 和久井さんには特別な女性はいないって、さっきあなたの口から聞いたはずだよね? それって恋人はもちろん、好きな人もいないって意味じゃないの?」
「い、いないよ! 遥ちゃんのことも、もうなんとも思っていないはずだから……」
私のすぐ前を歩く美里と佐藤さんの会話が自然と耳に入ってくるけれど、美里はまるで詐欺にでもあったかのように不機嫌だし、佐藤さんは美里に抗議されて苦笑いしながら困り果てている。
「でも俺ね、」
佐藤さんが歩きながら、突然上半身だけ振り向いて私に話しかけた。
「舞花ちゃんは、脈アリだと思うよ?」
「え?」
先ほどの和久井さんの態度を目にした上で、どうしてそんなふうに思えるのか、私にはさっぱりわからない。
涙目になりながらも、ポカンと佐藤さんを見上げる。
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