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◆女心③
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「和久井さんって、実は好きな女性がいるんですか?」
「いや、別に」
「じゃあ、誰か忘れられない人とかいるんでしょ!」
なぜそういう思考になるのか? と、俺はあきれ笑いの笑みをこぼした。
断るのがそんなに奇妙なことなのだろうか。
「おかしいですよ。和久井さん、モテそうなのにずっと彼女いないなんて!」
「じゃ、定時だから上がるわ。お疲れ」
「あ、ちょっとっ!!」
このままだと尋問を始めそうな浅田に軽く手を上げ、俺は佐藤に促されて会社を出た。
ふとあることを思い出して、歩きながら自分の鞄の中を確認した。
今日会う夏野さんには、この前いろいろと世話になったからお礼を用意してきたのだ。
あの会社の専務は本当に意固地な性格をしていて、一度機嫌を損ねると厄介極まりない。
雑談としてどんな話をしても反応が悪く、正直困り果てていた。
そうやって“根くらべ”をしていても、そのうち担当を代われと通達が来るのだろうと覚悟はしていた。
もし俺でダメなら……次はかなりやり手の人物を担当者にするしかない。
うちの営業部では、宇田さんが最後の砦だ。
元々は俺が失敗して先方を怒らせたわけではないが、なにも出来ないまま宇田さんに担当が代わるのは、同じ営業としてなんとなく癪だった。
あの頑なな専務の牙城をどう切り崩したらいいのか、戦略が尽きていた中、夏野さんのどら焼き情報だ。
専務はあれを差し出した瞬間、満面の笑みになって話が弾んで、本当に助かった。
全部、夏野さんのおかげだ。
ささやかな代物だが、助けてもらった謝礼として彼女に受け取ってもらいたい。
よろこんでくれるだろうかと考えたら、鞄の中をのぞきながら頬が緩んだ。
「いや、別に」
「じゃあ、誰か忘れられない人とかいるんでしょ!」
なぜそういう思考になるのか? と、俺はあきれ笑いの笑みをこぼした。
断るのがそんなに奇妙なことなのだろうか。
「おかしいですよ。和久井さん、モテそうなのにずっと彼女いないなんて!」
「じゃ、定時だから上がるわ。お疲れ」
「あ、ちょっとっ!!」
このままだと尋問を始めそうな浅田に軽く手を上げ、俺は佐藤に促されて会社を出た。
ふとあることを思い出して、歩きながら自分の鞄の中を確認した。
今日会う夏野さんには、この前いろいろと世話になったからお礼を用意してきたのだ。
あの会社の専務は本当に意固地な性格をしていて、一度機嫌を損ねると厄介極まりない。
雑談としてどんな話をしても反応が悪く、正直困り果てていた。
そうやって“根くらべ”をしていても、そのうち担当を代われと通達が来るのだろうと覚悟はしていた。
もし俺でダメなら……次はかなりやり手の人物を担当者にするしかない。
うちの営業部では、宇田さんが最後の砦だ。
元々は俺が失敗して先方を怒らせたわけではないが、なにも出来ないまま宇田さんに担当が代わるのは、同じ営業としてなんとなく癪だった。
あの頑なな専務の牙城をどう切り崩したらいいのか、戦略が尽きていた中、夏野さんのどら焼き情報だ。
専務はあれを差し出した瞬間、満面の笑みになって話が弾んで、本当に助かった。
全部、夏野さんのおかげだ。
ささやかな代物だが、助けてもらった謝礼として彼女に受け取ってもらいたい。
よろこんでくれるだろうかと考えたら、鞄の中をのぞきながら頬が緩んだ。
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